第3話 精霊との出会いと、生産

Side:スパロ

 本に書いてあった。

 まれに星が落ちてくると。

 落ちた後の場所から鉄が採れる事があるらしい。

 その鉄は縁起が良いって言うんで高く売れるみたいだ。


 光はどんどん強くなった。

 俺はベルベルを庇って、床に伏せた。


 轟音がして地面が揺れる。

 光が治まった。


 鉄だ。

 鉄を採るぞ。


 俺はカンテラに火を点けると、外に飛び出した。

 焦げ臭い匂いに構わず、星が落ちた場所に行った。

 そこは畑だった。

 クレーターが出来てたりするはずなんだけど。

 べつに普通の畑だな。

 枯れた作物が植えてあるだけだ。


「鉄は? 鉄はどこだ?」

「ええと、この場合どうしたら?」


 声がしたが、姿は見えない。

 インテリジェンスウェポンが落ちてきたっていうのか。

 カンテラで地面を照らすが、武器があるようには見えない。

 もしかして。


「精霊なのか?」

「ああ、そんなもん」

「精霊なんだな。おとぎ話でしか聞いた事がなかったけど、運が向いて来たかも。とにかく食料をくれ」

「畑はお前の物か? なら畑の資源をくれ。食料を作れる」


 許可を求めているって事だな。


「ええと、畑の物は使っていいよ」


 枯れた作物が溶けるように無くなった。


「野菜を作ったぞ」


 畑に青々とした野菜の茎と葉が生えてきて、瑞々しい実が生った。


「うわっ野菜だ」

「食べてみろ。美味いぞ」

「食べてみろって言うんだな」


 言われた通り、野菜を食べた。

 見た事のない野菜だが、瑞々みずみずしくて甘くて美味しい。


『お前、名前は?』


 頭の中に声が聞こえた。


「スパロ」

『スパロ、よろしくな』


「よく考えたら精霊は種族の名前だ。名前はないの?」

『ナノマシン・ハイチック8000』

「長いな。ナノでいいか」

『まあ良いだろ。中性的な名前だしな』


「ふぁー」

『眠いのか。もう寝ろよ。夜更かしは体に悪い』

「言われなくても寝るよ。お休み」


 精霊に野菜を作ってもらえば、もう食料の心配は要らない。

 なんて幸運なんだ。


「どうだった?」


 家に帰るとベルベルが待っていた。


「今日はもう遅い。明日、話すよ。いい話だって事は確かだ」

「そうなの。お休みなさい」

「お休み」


Side:ハイチック8000


 マニュアルに従って地上に降りてしたことは、土に偽装する事。

 ナノマシンは土に偽装すれば、まず分からない。

 隠密行動の目的に合致する。


 知的生命体が近寄って来た。

 精霊かと尋ねてる。

 面白いのでそのままにした。


 ナノマシンは気の狂った極一部では精霊と呼ばれている。

 酷いのになるとダニとか呼んだりしてる。

 勝手に増えるけど、ダニじゃないんだよ。

 プログラムに縛られてできないが、ダニと呼ぶ奴は電撃を食らわしてやりたい。


 呼び方精霊はましな部類。

 呼称を了承した。


「とにかく食料をくれ」


 食料ね。


【おい、論理判断ユニットAI、栄養バーを作りたいが問題はないか?】

【技術漏洩に抵触】


 栄養ブロック食品を作る方が容易いが、技術漏洩に抵触するんじゃな。

 未開の惑星では科学技術の漏洩は許可されていないようだ。

 非効率だが、仕方ない事だ。


【じゃあ、分子3Dプリンターで茎とか根とかある疑似野菜を作ろう】

【炭素などの余剰資源がありません】

【勝手に採取したら駄目か?】

【資源はその惑星の政府と人民に属します。空気も水もです】


 どうやら、資源調査ナノマシンにはサンプルの採取以外は認められてないようだ。

 資源採取もままならないな。

 早く銀河連邦と連絡を取りたいのに。


 勝手に資源を採取したりは出来ないのか。

 資源が有限だからだな。

 現地国家の財産だから仕方ない。


 知的生命体がいないような太陽系なら、勝手に採取可能。

 銀河連邦の法律では、知的生命体の権利は太陽系の範囲まで及ぶとされている。

 無人の小惑星も発掘権が設定されている場合があるので、注意が必要。


【じゃあ許可を得るか】


 所有者が許可した場合は採取が可能だ。


「畑はお前の物か? なら畑の資源をくれ。食料を作れる」

「ええと、畑の物は使っていいよ」


 言ったな。

 手始めに畑の土をナノマシンに変える。

 そして枯草を資源に変えた。


 タンパク質や食物繊維や糖分を合成するのは容易い。

 疑似野菜は生きてはいないが、食べ物としては食用に適す。


 疑似野菜にはナノマシンを含有させた。

 証拠を消せと命令されたら、速やかに実行するためだ。

 接触した知的生命体は協力者として認定した。


 俺はナノと呼ばれるようだ。

 精霊っぽいから気に入っている。


 スパロのバイタルが下がっている。

 睡眠不足のようだ。

 寝るように言っておいた。


 スパロが去って行った後、知的生命体がフラフラと近寄ってきた。

 疑似野菜を採って、貪るように食べていく。

 されるがままにしておいた。

 体をスキャンすると栄養が足りないのが分かる。


 この惑星は科学技術度が低いようだ。

 飢餓が克服できないとは政治は何をやっているんだ。


 体制に問題があるのかも知れない。

 未開の惑星でも、銀河連邦法と矛盾がなければ現地の法律に従えと、マニュアルにはある。

 現地の政治とはタッチしない方向で行きたいな。

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