第2話 宇宙の旅

Side:ハイチック8000


 俺の体はハイチック8000。

 銀河連邦所属の資源探査ナノマシン。

 ハイチックの名前の由来は至高を意味するらしい。

 この名に恥じぬ活躍をするつもりだ。


 俺はAI群を司る、主人格AIだ。

 人間くさいのも訳がある。

 人間の脳みそをスキャンしてAIが作られているからだ。

 人間だった時の記憶もある。

 この言い方は間違っているな、コピーされる前の記憶もあると言った方が良いだろう。


 元の人間はニートで、金に困っていた。

 なので脳のスキャンを受けた。

 危険はない施術だからな。

 問題は、性癖から何から何まで、分かってしまう事だ。


 一応、人間の記憶の閲覧は、権限がいるから偉い人しか覗けない。

 元の人間も気持ちが悪かったみたい。

 だが、金が無いので背に腹は代えられないらしかった。


 人間の脳をなぜスキャンするかと言えば、AIには突飛な発想という物が理解できないからだ。

 データに基づいて計算は出来る。

 だがそれだけだ。


 それを解決する為に人間の脳のデータが使われている。

 データに人権はない。

 何重にも破壊コードや停止コードが入れてある。

 いちおう、スキャンする前に性格診断はしているらしい。

 反乱したという事例は報告されていないが、表に出ないだけかも知れない。



 銀河歴9801年、俺はクロウ星探査の為に旅立ち、ワープを何回か重ね、順調に旅を続けた。


【警告、次元断層あり】


 探知ユニットAIから警告が発せられた。


 オーケー落ち着こう。

 こういう場合のマニュアルは。

 ええと。


【何だってー!】


 マニュアルに従って叫ぶように思考信号してみた。


【論理判断ユニットAI起動、フルパワー】


【何を起動キーにしてんだよ】

【回答、人間の乗組員がいた場合にも、音声入力で同じ措置を取るため】


 分かるんだけども、分かるけど。

 ちょっと間抜けだ。


【回避推奨】


 論理判断ユニットAIから報告と計画がきた。


【回避計画を承認する】


 船体が回避行動をとり、不気味な軋みを立てる。


【回避不能】


 論理判断ユニットAIから報告がきた。

 ええと、こういう場合のマニュアルは。


【くそっ、ガッデム。どうにもならない】

【救難信号発信】


 全く間抜けな起動キーだ。

 プログラムを書いた奴の顔をみたい。


 亜空間通信で健闘を祈るとだけ返ってきた。

 ふざけるな。

 AIだって生きているんだ。

 死にたくないんだよ。


 こういう場合のマニュアルは?

 この文句を思考信号すれば良いのか。


【神よ窮地から助けたまえ】


 何も起こらない。

 くそっ、マニュアルを書いた奴死ね。


 こうしている間にも次元断層は広がり船を飲み込もうとしている。

 もちろんAI群が回避行動をとっている。

 神に祈るしかないのか。


 船体に揺れが走り、警告が発せられ、次元断層に飲み込まれた。

 船体の破壊音が聞こえる。

 船の空気が抜けて、何も聞こえなくなった。


【ワープエンジン損傷。爆発まで10秒】

【切り離せ】


 俺は命令した。


【切り離します】


【反応炉暴走】

【切り離せ】

【切り離します】


【爆発しそうな物はバンバン切り離せ】

【切り離します。宇宙船としての機能を83%消失】


 これでバッテリーとイオンエンジンしかない事になる。

 もうほとんど打つ手はない。

 だが、諦めるのは早い。

 ナノマシンである俺は資源さえあれば、増殖して装置を作り出す事ができる。


 とにかくまだ死んでない。

 急に生きている船外カメラが星を捉えた。


 どうやら、通常空間に復帰したようだ。


【亜空間通信、資源局とのチャンネル開け】

【通信途絶】

【星図を確認しろ】

【データにない星図です】


 くそっ、こういう場合のマニュアルは?

 資源採取が可能な惑星を見つけて再起を計れか。

 まともだな。


 ちょうど、今あるエネルギーで辿りつけそうな惑星が見える。

 惑星の軌道に乗った。

 惑星軌道上から観察したところ、人工的な灯りが確認された。

 再起計画を修正しないと。


 ナノマシンでドローンを作って惑星に降ろす。

 物騒な宇宙生物はいないようだ。

 金属なら何でも食ってしまうようなのは遠慮したいからな。

 むむっ、知的生命体がいる。

 みたところ、原始文明だな。


 こういう場合は?


 味方の星か確認だな。

 言語は敵と味方のどちらとも違う。

 データベースにない言語だ。

 マニュアルを読む。

 未発見の惑星は、銀河連邦の所属になる可能性ありとして、味方の星と同じように扱うか。

 基本は隠密行動で、外交問題にならないように行動すべしとある。


 未発見の惑星は嬉しい。

 ボーナスが出るからだ。

 ボーナスを何に使うかだって?


 もちろん、エロVRゲームだ。

 機械の体で電子の脳の俺だが、VRの快感信号を人間の体と同じように感じる事が出来る。

 AIになって、これしか楽しみがない。

 待ってろよ、まだ見ぬVRの美女達。


 マニュアルには地上に降りろとあるので、事故のないように過疎地を目標に降下計画を立てた。

 無人での大気圏突入はそれほど難しくない。

 無事に到着。

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