第5話 王立魔術研究所

「後いくつだ?」

「急ぎで必要なものは、あと13です」

「あと一息だな…」


回復薬の空瓶が散らばる王立魔術研究所では、急ピッチで瘴気測定器を作っていた。ようやく終わりが見えたことに、明らかに疲れの見える所員たちの表情が少しだけ柔らいだ。


文官と騎士団が連携して組まれた調査隊は、すでにその半分が出発している。

少しでも早く調査を行うため、多くの調査隊が組まれ、準備が整った隊から出発しているのだ。


すでに異変が報告されている東部、北部が優先されているが、西部、南部も合わせて9つの州に、それぞれ約10前後の調査隊が派遣される。各チームに最低でも2つの測定器を持たせるため、研究所では急遽100個を増産することになったのである。


「当初の形から、量産しやすい形式の物を開発しておいて良かったですね」

「ああ、本当にその通りだよ。とはいっても、これもそこまで量産型とは言えないが」

「1つにかかる時間が2〜3時間ですからね」

「…万が一に備えて100個作っておいて本当に良かったです…」


昨日、急遽増産の指示が出たのは夕方のことだった。それから今まで、魔道具部の12名の所員が総出で製作にあたっている。窓から差し込む朝日が眩しい。


「作り終えたら、一旦休憩だったな」

「ええ。その後は瘴気の中和装置の製作ですね」

「まだまだ先は長いですね」

「ええ、まずは後少し、頑張りましょう」


測定器は携帯しやすくするため、小型化・軽量化している上、最低限のレベルではあるが、瘴気の中和機能もつけている。そのため魔道回路が大変複雑なのだ。

さらに、線の太さや間隔などに少しでもブレがあると正常に機能が作動しなくなるため、集中力と精密な作業が必要とされる。意外なようだが体力もいる。集中力はぶっ続けでは持たない。所員たちは回復薬を飲み、短い休憩を挟みながら、製作を続けていた。





「テオドール所長、中和装置の増幅用の陣を書いたのですが、見ていただけますか?」


魔術部長のエリオット・アルザインと魔道具部長リアム・バルドンが、魔法陣と中和装置を手にやってきた。

瘴気は、聖石か聖なる力でなくては浄化はできない。しかし、わずかに中和することはできるのだ。気休め程度ではあるが、少しでも瘴気の濃度を抑えるには、できることは全てやるまでである。


調査チームに渡してある瘴気測定器にも、中和機能をつけている。土地全体を中和することは難しいが、せめて今はわずかにでも瘴気を中和させたい。それに、今の状況であればまだ、調査隊に瘴気被害が出ることも抑えることもできるだろう。今後濃度が上がってしまえば、それも難しくなってしまうだろうが…。


エリオットとリアムが作っているのは、その中和装置のみのもので、範囲・効力を拡大させようとするものだ。


テオドールの目が、装置の回路と魔法陣をじっくりと検める。


「これはよく考えてある。装置自体も効果の拡大が回路に組み込まれているし、陣の増幅と相乗でさらに効果が増えるだろう。二人とも、この短時間でよくやってくれた」


テオドールの言葉に、二人はホッと息を吐いた。


「そうだ。回路と陣のこの部分はそれぞれ3本の線を1本にまとめられるだろう。そうすればもう一段、効果を増幅できるのではないか?」


テオドールの言葉に、二人はそれぞれ回路と陣を覗き込む。


「ああなるほど、この配列なら、こちら側に線をまとめても問題ないのですね」

「だから、分裂する力を集約させられて、増幅効果が出せるのですね」

「早速修正してみましょう。所長、ありがとうございました」


そう言うと、二人は足早に研究室へ戻った。


「中和装置はなんとか間に合ったが、あの聖石の状態では、中和だけでは到底厳しい…犠牲者が出る前に、なんとか被害を食い止める方法を見つけなければな…」


テオドールの小さな呟きが響いた。

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