第六話

 ついにアネットに入学式の時がやってきた。

一年遅れで。いくら珍しくないとはいえ、一浪生は比率で例年二割ほどしかいない。なお二浪という強者も三パーセントほどいる。三浪以上は許されない。その時点で平民身分に格落ちが永久に決まる。そこまでしても貴族籍は維持したいのだ。親も子も必死なのだ。浪人生の場合は卒業と同時に貴族籍復帰となる。そこが現役生との違いだ。つまりもう浪人の時点で「平民」なのである。


 何よりアネットは「婚約破棄された人形姫が戻って来た」ともっぱらの噂で戻るのである。気が気じゃなかった。


 高等課程は中等課程と違い単位制である。しかも特殊講義もある。なのであんまり浪人や留年を気にする必要はない。でもそれは逆に言うと、一年上となったかつてのクラスメイトと一緒になる。


 しかもアッシュは神学科三年生となり実質残り一年となる。最終学年はほぼほぼ伝道実習と国家試験と卒論だけになるのだ。専門科目が中心となりもうアッシュと授業で会うことはほとんどない。


 フェルナンデスは魔武具科所属。魔槍の使い手である。本来魔槍に入れる強化物質として魔導石を入れる時に偶然発見したのである。フェルナンデスも教養科目はほとんど単位修得済みなのでアネットと同じ授業にするのは限界であった。


 アネットの所属先は「魔導科」である。カラン魔法学院の一般教養科目の授業でいつもざわつくようになる。


 ――あれが噂の人形姫よ


 ――幼稚すぎない?


 ――またいじめてやろうかしら?


 もう既にアネットの学園生活は影が増していた。


 生活の場もアパートから学園寮に移転する。つまり逃げ道が無い。

 

 「あーら、ごめんなさーい?」


 コップで水をアネットにこぼそうとしたその時――!


 「さーち君」がアネットのポーチから飛び出し守った。身代わりになったのだ。


 「何よ、この人形!」


 「気持ち悪いわ、近寄らないで!」


 人形はどんな罵声を浴びても決して攻撃しない。しかしご主人様であるアネットはもちろんの事人間全員が人形にとって守護対象なのである。しかも鎧をまとっていた。人形とはいえ。


 いじめは人形の力でどうにかなっても内部進学できなかったアネットである。

特に高等魔術の授業は地獄だった。笑いものになっていた。


 そして授業が終わった後に彼女の「バイト」がある。フェルナンデスもこのときはだいたい一緒だ。


 そう人形研究である。


 アネットは思わず校長先生に窮状きゅうじょうを訴えた。


 「ふーむ、しょうがないですね。アネットを留年させるわけにはいかないし……」


 「校長、いい機会ですので補習教室作るのはいかがでしょうか?」


 副校長は補習を提案した。


 「それはいい案ね」


 「補習教室?」


 「リカレント教育とも言う」


 「本当はあってはいけないのですが……」


 校長は釘を刺した。


 「そこで友人を見つけるしかない。じゃないと、アネット四年間持たないぞ」


 「四年ではないですわアネットは……」


 「校長?」


 「修士課程に進学させてあげたいの」


 「出来るんですか?」


 (おいおい、落ちこぼれが修士課程進学とかなんの冗談だよ)


 「そりゃとがった才能やアイデアがあれば修士や博士の方があってるわ」


 「それはそうですけど」


 「いい機会ですから留年防止プログラムを作りましょう。アネット、いいですか。そこで友達も作るのです」


 なんとアネットは聖女に修士進学の約束をしてしまった。

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