第五話
次の日の朝。農作業がひと段落してアネットが農地で休んでいるときに来訪者の音がする。この家に来訪者がやって来るなんて。
「すみませーん」
返事が無い。
「すみませーん」
元・あばら家。いまでこそだいぶまともになった家で主人を呼ぶ声がする。
「どなたかいませんかー」
「はーい、今行きまーす」
農地から走って来てアネットが見たものはびっくり!……元学友で級長のフェルナンデスじゃないの! しかも立派な白馬に乗って。高等学校用の貴族学生服を着ていた。まさに「白馬の王子」という服装だ。アネットにはフェルナンデスが文字通り「ホワイトナイト」に見えた。
「フェルナンデス!? どうしてここに?」
「いや、君の様子が気になってね」
(婚約破棄の時は傍観者だったくせに)
「あ、はい。それで?」
「君は近所の村で人形使いの魔女って言われてるぞ」
「魔女……」
(まあ、間違ってねえか)
「そこでなんだが魔女様にこっそり占いしてもらおうと思ってね」
「私、占いなんて出来ません……」
「何で? 君は魔女じゃないか?」
(まあ、間違ってねえか)
「いいですわ、どうぞこちらへ……」
「じゃあ、この馬を止めるために紐でここに縛っておくぞ」
フェルナンデスはじろじろと家を見る。
「どう?」
「だいぶ苦労してるなと」
「でしょ……」
「ふむ、で? 水晶玉は?」
「そんなものありません……」
「それはもったいない。この人形に小さい水晶玉を突つけることを提案しに来たのだ」
「へ?」
「魔導学院は古臭い教科書の知識に凝り固まってるからダメなのだ。ゴーレムが上級魔法で人形操術が低級なんてのは半分以上嘘だ」
「へえ」
「偵察に使えるからだ」
「私……そんな術知らないわ」
「それには心配及ばない。私が教える」
「なんでそこまで親切なの?」
「私の領地にある鉱山で取れる魔導石の消費が多いから何だと思ったら君が居るふもとの村だと思ってもしやと思ってね」
(へえ)
「でも庶民は魔導石買うのは高価だから薪も使うんだぞ。君、実は持ち物を処分したろ?」
(ばれたか……)
「櫛やネックレスなどを売って、魔導石に替えたんだね」
「私、もう貴族じゃないからもうそういうの要らないし」
「本当、苦労してるな」
「で、何を占ってほしいの? 占いはどうやって?」
(もう適当でいいや。御帰りいただこう)
「私の領地運営の吉兆を占っていただきたい」
なんとカードを持って来たではないか。
「用意がいいわね」
「さあ、占ってほしい」
(どうやるんだっけ? 忘れちゃったよ……)
正位置が竜神、逆位置が聖女になった。
「竜のご加護が得られます」
「ほお?」
「魔導石の収益が上がるでしょう」
(嘘は言ってないぞ)
「この聖女の意味は……」
「学園から災いが来ます」
「そうか。私の高等教育課程生活は甘くないか」
(嘘は言ってないぞ)
「では、占いの料金を受け取ってくれ」
それは庶民の年収に匹敵する金貨であった。
「受け取れません、こんなに高額なものを」
「勘違いしないでくれ。この料金は偵察用人形の創作費も入ってる」
(そっかー、そう来たかー!)
「4体作ってくれ。材料費は用意する」
「そのお金で人形を多数作れば君は大農場主だ」
占い用のカードをフェルナンデスに返却する。
だが、この報酬はおいしかった。なによりもう生活苦なんてたくさんだ。
「やります。魔法、教えて頂戴」
「君はいい選択をした」
「この本は……」
「水晶に関する魔法だよ。大丈夫。低級魔法だ。君にも出来る」
(本当か?)
「じゃ、条件あります。時々着て私に魔法教えて頂戴。私、落ちこぼれで高等教育課程に行けなかったんだし」
「もちろん」
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