C8 水の剣聖「

File8-0 唯一の宣告、万物の奪取」

 かつて、一つの失敗作が生まれた。人の脳と同等と呼べる物を生み出した天才と、人の身体と同等と呼べる物を生み出した天災。その二人による、生命を生み出す実験。そうして産まれた肉塊は、全く動く事は無かった。それは失敗と見做された。

 天才たちは知らなかった。ソレは自己を表に出す手段を持たないだけで、わずかに自我を持っていた事に。


 世界が消去され、全てが失われた後もソレは生きていた。不必要に頑丈なその生命は、次元が増えた程度で存在を固定させられなくなる事は無かった。消去された世界たちで埋め尽くされた四次元空間を、道標もなくただ流れに任せて移動していた。


「君……生きてるんだ」

 どれくらいの月日が経過しただろうか。ソレは少女の声を聞き、そして触れられる感触を味わった。はじめての事だった。

「返事はできないのかな。独断だけど、この子でもいいんだよね、迅」

 少女は確認するように誰かに問いかけるが、返事は無い。そもそも返事が来ない事を少女は知っているし、許可が必要ないことも理解している。

「じゃあ、始めちゃおうか。一応、私の恩人? になる訳だし。……第四の権能の行使。"宣告"する。君は天上第八、"奪取"の席へと昇華する」

 少女が唱えると、ソレは人智を超えた力を得た。

「――_――?」

「私? 私は黒河くろかわしずく。ちょっとだけ天の上の力を持っていて、その代わりにかなり悲惨な代償を持ってるだけのただの人間だよ。あなた、名前はある?」




    ■    ■    ■




 力を得たソレはすぐに腕のような器官を伸ばし、雫に襲いかかった。しかし雫は動揺していない。

「"宣告"する。私の代償は君が奪う」

 常識を逸脱した奇怪な力がはたらき、……なにも起こらない。

「うーん、権能の言葉の通り、ちゃんと奪う力のはずなんだけど、やっぱり私の代償だけ綺麗に除去するってのはできないのかな」

 雫は首周りを覆っている肉塊を掴み、無理矢理引き剥がす。

「しっかり発動はしてるんだけど……、いや、違うね。序列が私より下だからそもそも私からは奪えないんだ。えっと……ごめんね?」

 肉塊はそれ以上は雫を襲うことはせずに、大人しく雫の腕に収まった。


「それじゃあ■■■■、これからよろしくね。私の代償は消えなかったけど、■■■■が居てくれればひとまずは解決するんだ。私はあなたが望むものを全て与える。だから、あなたは私に利用されてね」

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