File5-F The later story of __

 幾度となく輪廻する世界を離れ、私とアノンは次の世界へと降り立つ。目を開けるとそこは、誰もいない広い草原だった。


「またいつか会おう、か。アディもなかなか酷な事を言う」

「そんな事言わないで。まだあの世界が終わった訳じゃない」

「そうだな」

 先の世界が永遠を手に入れる可能性はある。だがそれは限りなく零に近い。……私はそれを理解しているつもりだ。

「シデリアさんを連れてきちゃいけない理由って、まだ聞いてないよね? なんだか最近の記憶が怪しくて」

 私はまだ、アノンからシデリアについてをあまり聞いていない。

「シデリアの異能は今ある世界を自らの内に閉じ込め新たに生成する事だ。そして新しく生成された世界もまた、いつでもシデリアの空想として扱えるような状態になっていなければならない。……先の世界はまるごと、世界ひとつがシデリアという存在だ。彼女はそもそも、あの世界から切り離す事ができない」

「ふーん。無理矢理切り離そうとしたらどうなる?」

「普通の人間は首を切断すれば死ぬだろう?」

「酷い喩えだね」

「適切だとは思うが」


 私は芝生に仰向けに倒れ込んだ。少しだけ、精神的に疲れたのだ。


「結局あれはジオじゃなかったんだよね」

 前の世界に大量にいた時計頭。私はそれらについて質問した。

「彼らはジオが転写の権能により生み出した彼自身の残骸だ。ジオであるという記憶すら失い、ただ僅かな理念のみを持って行動する人形。……まさか、あの世界に流れ着いていたとはな」

「アノンも知らなかったんだ」

「私とて、知らない事項は数多くある」

 何でも知ってそうなアノンだが、今回の事に関しては知らなかったようだ。

「ジオが残した僅かな意志が積み重なり、彼の集合体は世界の存続という使命に駆られ続けた。その結果が先の空間だ。シデリアが世界の中枢であるあの空間を変更しない限り、世界は停滞を続けるとジオは理解した。……そして、フィリスはそれを利用していた」

 フィリスは世界の停滞を強く望んでいた。それ故に、使える手段は全て使うのだ。それが例え、世界の外の力だとしても。

「予定通り、先程の世界は停滞することのない永遠を模索する段階に入った。結論だけを見るのであれば全てが上手くいっていただろう」

「私のおかげだね。アノンに任せたらきっとシデリアさんが大変な目に遭ってた」

「そうか?」

「そうだよ。何回殺した?」

「二回しか殺していないが」

「あーもう、そういう事じゃないんだよ」


 私は立ち上がった。


「この話はもう終わり! それじゃ、そろそろ世界を救いに行こうか」

 先の世界の結末は、私たちでさえ知らない。シデリアは無事に両親を救えるのか。シデリアは自らが望んだ最善の未来へ辿り着けるのか。それは私たちには関係のない話だ。


 私はアノンの側に寄ると、アノンに微笑む。




 ――そして私は、アノンの腹に細剣を突き刺した。




「……ごめんね。私の記憶、戻ってるの」

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