C2 緋に染まる暗渠

File2-0 静を望んだ男

 雨が降っている。


 土砂降りという程ではないが、道行く人は皆傘を差し、歩みも速い。駅が近いからか、このあたりの交通量はかなりのものだ。

「……それで、お前らは俺に何の用があるんだ」

 広場のベンチにアディが座り、その手前にアノンが立つ。そして、アディの隣にはたった今質問をした一人の青年が座っていた。……この三人、誰も傘を差していない。

「この世界はかなり歪だな」

「歪?」

 男の質問を無視して、二人は会話を続ける。

「五百年前に停滞が終わっている。……そして、この世界は今も停滞することなく続いている」

「つまり、この世界には目的がないの?」

「そうとも表現できるな。……そういえば、制限世界と無制限世界の違いを話していなかった」

 過去少しだけ、制限世界という言葉をアノンが発していた気がするが、今までは深く意味を追求する事は無かった。

「判別は簡単だ。世界に決められたルールが存在するか、否か」

「魔王を倒す、とかだったりするのがルール?」

「概ね、それで良い」

 男は諦めて二人の会話を黙って聞いていた。それも、理解はできていないだろうが。

「この世界は元は制限世界だったはずだが、停滞の終了と同時に無制限世界と同様の状態になっている。ここまでの文明の発達は本来この世界のシステムには組み込まれていない」

 アノンはようやく、視線を流れる人々から座っている男に移した。


「五百年よりも前からこの世界に存在している君は一体何だ?」


 アノンが男に質問する。男は黙ったままだが、それは彼が異常である事を認めているようなものである。

「今はただの作家だ」

「そうか」

 アノンは追求しなかった。

「出発だ、アディ」

「そうだね。そろそろ室内に入りたいかも」

 そうして、別れを告げないまま二人はベンチから去っていった。残された一人の青年は、しばらくその場で雨に濡られていた。

「何だ、アイツら……」

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