其の六
「げぇっ!」
冒険者ギルドを訪れた俺とユウキは二人同時に間抜けな声をあげた。
まさか、ここまで手が早いとは想像してなかった。
今、俺とユウキはあの三人の女連中と別れ、新しい街に来ていた。
街を散策しながら、さて、これからどうしようかと考えていると、先立つものがないことに気が付いた。
今までのユウキの勇者としての活動資金はあの三人から出ていて、今のユウキは無一文だった。
三人共が各大国の有力者だったので、かなりの金銭的援助を受けていたらしいが、実際の細かい数字は知らないそうだ。
お供はあの三人だけだと俺は思っていたが、どうやら違っていて、流石、有力者だけあって、侍従が何人かいたらしかった。
その侍従たちがユウキや女連中の身の回りの世話や、お金の支払いをしていたそうだが、知らなかった俺は当然、何のお世話もされていない。
それを聞くと、僧侶のヒモを養う発言も満更的外れではなかった。
そして、当然、俺も無一文だ。この前の冒険が初仕事みたいなもんだったからな。
流石に無一文で旅はできないので、まずは金策することになった。
そこで、この異世界に来てまだ日の浅い俺に代わって、ユウキが案を出してくれた。
それが冒険者ギルドだ。
登録すれば誰でもなれる冒険者は正に日銭を稼ぐにはうってつけだ。
登録すれば、冒険者には等級が定められれ、それによって受けられる依頼が決まる。
等級が高ければ危険も大きいが、報酬も多い。
今のユウキにかかればどんな危険な依頼も赤子の手をひねるよりも簡単だ。
それほどまでに俺がこの異世界に来てからのユウキの勇者としての力は完璧を極めていた。
俺は内心ワクワクしながら冒険者ギルドへ向かった。
親友と異世界で再会してから、あまり碌なことがなかったから、折角なら楽しみたいと前向きに考え、足取りは軽かった。
しかし、この街の冒険者ギルドに赴くと、そこで驚くべき光景を目の当たりにして、間抜けな声が出たのだ。
ユウキはすでに冒険者として登録されており、登録書を提出して、サクッと報酬の良い依頼を達成する算段だった。
しかし、受付に近寄ってみると、そこには尋ね人求む、と題して、勇者ユウキの名前が大々的に貼り出されていた。
「これって、あれだよな………」
「あぁ………」
俺もユウキも絶句である。
これの犯人は大凡見当が突く、というか、あいつらしかいない。
恐らく、大国の権力を使って、色んな所に手を回して血眼になってユウキを探しているのだろう。
その執念、恐れ入る………
しかし、よくよく考えれば、お金がなくなったら誰でもなれる冒険者ギルドを訪れるのは自然の理だ。誰でも考えつく。
身震いしそうなほどの執念を宿しているあいつらに絶対に見つかりたくない俺とユウキは仕方なしに身分を偽ることにした。
身分を偽ると言っても、日本みたいに国から身分証明書が発行されているわけでもないので、適当な名前でユウキは再登録した。
俺は偽る必要はないと考え、そのままの名前で登録した。
これでお互い最低等級の九等級からスタートだ。
これだと大した依頼を受けることはできないが、前向きに考えれば一から冒険できるというものだ。
「はっ!ツバサのそのポジティブシンキングには呆れるぜ」
「お前だって、大概だろが!」
お互い棘のある言い方だが、俺たちはいつもこうだった。
それこそ、嫌な気持ちになんて一つもならなかった。
結局のところ、俺とユウキはお互いこの問題に対して、深刻に捉えていなかった。
なんとかなる、それこそユウキは勇者なのだからな。
楽観的な俺とユウキは適当に日銭を稼ぎつつ、魔王軍の情報を集めることにした。
戦闘もユウキに任せっきりじゃなくて、できそうな依頼は受けようと思う。
俺も蝙蝠型の魔物を一人で斃せたので、簡単な依頼なら難なくこなせるだろう。
魔力ゼロでとどめを刺せるような高火力がない俺だが、そこはユウキに貰った短刀でカバーする。
あの谷底で不自然に蝙蝠型の魔物の翼を斬り落としたこの奇妙な短刀についてはユウキ問い質したところ、強力な付与魔法が施されているらしい。
それによって、あんな馬鹿げた斬れ味を発揮したそうだ。
そういうことなら事前にちゃんと説明して欲しかったが、ユウキのことだ、俺の驚く顔が見たかった、とか言う理由で黙っていたに違いない。
万が一、怪我をしたらどうするのか、と思ったが、不思議とそうならないだろうな、とも思った。
恐らく、ユウキもそう思ったはずだ。
「びっくりしたか?」
悪戯っぽく笑うユウキの顔に、胸の内に心地よいむず痒さを感じた。
「ほんと、どうしようもねぇ奴だな」
俺は肩をすくめて、呆れてみせた。
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