其の二
初めは夢を見ているんだと思った。
しかし、夢を見ている人がそれを夢と認識して見ることはなく、それは俺にとってある種の現実にだった。
広大な空間にそれはあった。
漫画チックな雲の上に建つそれはまるで神が住まう神殿のようだった。
巨大な門の脇にある潜り戸を抜けて中へと足を踏み入れた。
ここがどういった場所で誰がいるのかは判らないが、自然と俺の足は奥へと進んでいった。
まるで誰かに導かれているようだ。
最上階まで辿り着くとそこには一際豪華な両開きの扉があった。
俺がドアノブを回そうと近づくと、扉は独りでに開いた。
何の躊躇いもなく、中へと入るとそこには見知った顔があった。
「よっ!」
この不思議な状況に似合わない軽快な挨拶が俺には心地良かった。
「なんでユウキがここに?それにこの場所は………」
「あー、それも含めて今から説明するよ。ただ、その前に………」
言い淀みながら顔を背けたユウキの視線を追うと、そこにはもう一人いた。
黒く艶のある木製の机に座しているのは人とは言い難かった。
「よく来た、片口翼。わしはこの天上界を統べる主であり、輪廻転生を司る鬼神じゃ」
爺さん口調のその人物は鬼神と名乗り、正にその見た目は俺が知る鬼そのものだった。
地獄の番人である閻魔大王を彷彿とさせる厳しい相貌に、鬼らしく額から角が綺麗に二本生えていた。
異世界に来たことも驚くべきことだが、来て早々に神に会うとはこれまた奇想天外過ぎる。
「それでその鬼神様とユウキがなんで一緒にいるんだ?俺をここに呼んだことと何か関係があるのか?」
「ふふっ、聡い奴じゃ。大いに関係あるが、事は単純明快ではない故、お主にも分かり易いように順を追って説明しよう。そこにいる相模原勇輝が世界を渡って勇者として召喚されたのはすでに知っておるな?」
「はい………」
「お前たちが今いる世界、ユーウラトスには人類を脅かす魔物が存在し、それを統べる魔王がおる」
その話もすでにユウキから聞いた話だ。
「人間を愛しているユーウラトスの女神は人類が魔王によって滅ぼされることを危惧し、わしと異世界間偉人召喚の契約を結んだのだ。それによって世界を変革できるだけの力を持った異世界人を召喚できる」
「それでユウキが選ばれたのか?こっちとしてはいい迷惑だな」
「上位者が下位者の都合など考えるはずがなかろう。お主らも人間以外の生物の事情など考慮しないであろう。それと一緒じゃ」
そう言われると強く否定できない部分がある。
一見他者を慮っての行動に思える動物保護や環境保全も人類に力と余裕があるからできることであって、人類が死力を尽くしてまでやるとは到底思えない。
だって、誰しも自分が一番可愛いからな。
しかし、と言ってそれらの行動は強くは否定しない、できる力とやる気があるなら可能な限りやればいい。
ただ、その根本は利己的であるということだ。
「因みにお主らが神と崇めている存在はわしにとっては下位者じゃ。ユーウラトスの女神も同じじゃ。全体で表せば中位者といった所じゃのう。わしたる上位者がいて、お主らが崇める神の中位者、そして、その下にお主らがおる」
話が多次元過ぎて理解が追いつかなくなった。
「話が逸れたが、異世界間偉人召喚で召喚される異世界人には特殊な力を授ける決まりになっておる。でないと偉人にはなれんからのう。今回の相模原勇輝は魔王に対抗できる勇者の力を授けた。そこまでは良かったのだが………」
「その力に何か問題でもあったのか?」
「うむ、ユーウラトスの女神が提示してきた勇者の力の出力に誤りがあったのじゃ。それにより相模原勇輝には強大な力が宿った」
「ん?それだけ聞くと別にいい気がするけど」
「察しているとは思うがよくはない。それは契約以上の力なのじゃ。それ故にペナルティが発生した。そのペナルティ分を相模原勇輝自身で補っているのじゃ」
ふーん、と納得したようなしてないような表情をユウキに向けた。
ユウキはあっけらかんと、そういうこと、と昔のように無邪気な笑顔を作った。
「今の俺とツバサは思念体みたいなもので、魂だけの存在なんだ。そして、俺はそのペナルティを支払う為にここで、まぁ、何ていうのか、働いているんだ」
「働く?なんだそれ?食い逃げ犯が皿洗いして食った分だけ働くみたいだな」
「正にそんな感じ。まぁ、働くって言ったけど、実際はちょっと違うけど、適切な言葉が判んなかったからそう言っただけ」
「なんとなく理解はできたけど、そのペナルティは原因であるその女神が支払ってくれないのか?」
「ユーウラトスの女神もペナルティを支払っている最中じゃ。それでも足りないから相模原勇輝が足りない分を補っているのじゃ」
なるほど、まぁ、力には代償は付きものだし、ここでの手伝いがどれだけのものかは知らないが、妥当な気もする。
たとえ文句を言ったとしても、さっきの論法で上位者の都合で物事は進んでいくと一蹴されそうな気もするし、逆らわず大人しくしといた方がよさそうだ。
ユウキを見る限り割り切ってそうで、昔から困っている人は放っておけないタイプだったから、そこまで不満はないのだろう。
しかし、そう考えると、何故俺が呼ばれたかが気になるが………
「………まさかッ!」
「ふふっ、やはり聡い奴じゃ。そのまさかじゃよ。相模原勇輝一人では足りないのだ、ペナルティを補うにはのう」
これにはユウキも苦笑いを浮かべていた。
異世界の女神とユウキの二人でも補えないってどれだけのチートを貰ったんだ………
「でも、俺が一人加わっただけで、足りない分を補えるのか?そもそもなんで俺なの?」
「それにもルールがあるからじゃ。もっとも効果的なのは対象となる人物の最も親しい人であること。それでお主が選ばれたのじゃ。それと、強大な力とはいえ、所詮はお主たちの世界線での話で、中位者であるお主らの崇める神にも届かぬ。故に、お主一人でも事足りるはずじゃ」
これにはドヤ顔をするユウキにちょっとイラッとした。
「一番の友って言えば、ツバサしかいないしな。まあ、こっちの都合で勝手に呼んで悪いが、付き合ってくれ」
「しゃーねぇな」
照れ隠しで素っ気ない返事になったが、内心では嬉しさが優った。
神々の勝手な都合で呼び出されたのには不満を覚えるが、ユウキのいない退屈な世界に飽き飽きしていた所だから、割り切って考えることができた。
ユウキはこっちの都合でと言ったが、ユウキも本来は俺サイドなわけで、三年も異世界にいてすっかり向こうの住人になってしまっている。
「今回はこのぐらいでよかろう。詳細は相模原勇輝に訊くがよい」
鬼神のその最後の言葉で俺の意識は途切れ、気がつけば宿屋のベッドで目が覚めた。
本当に夢と片付けれるような出来事だったが、ユウキに確認するとやはりあれは本当のことだった。
大雑把ではあるが俺がこの異世界に来た意味が判ったし、細かいことは追々理解していこう。
「そういえば、ユウキが勇者として凄い力があるってことは、俺にも何かしらの力があるのか?」
「いや、ツバサはあくまで俺の勇者の力の補助で呼ばれたから何もないぞ。この世界は魔力が全てだが、魔力もゼロだ」
大体予想はしていたが、魔力ゼロとは………
そりゃねぇぜ。
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