勇者の裏事情
鬼頭星之衛
其の一
随分長い時間を独りで過ごした気がする。
あいつがいなくなった小学校卒業式のあの日から世間ではたった三年しか経っていない。
しかし、俺にとっては永遠とも呼べる時間だった。
何をするにも一緒で、どこに行くにも一緒だった。
悪戯もよくした。
その度に一緒に怒られた。
だから、あの日もあいつが約束の裏山に現れないのは何か俺に対する悪戯だと思っていた。
あいつに対しては異常なまでの対抗心のあった俺は意地でも動かず、ずっと待つ心構えだった。
それは下手にその場を離れ、捜しに出れば、その隙にあいつが約束の場所に陣取り、諦めて帰って来た俺に、遅かったじゃん、何してたの?待ちくたびれたぞ、とドヤ顔と共に言うのが簡単に想像できたからだ。
しかし、あいつが現れる前に俺の親とあいつの親が現れた。
二人は深刻な表情であいつの居場所を尋ねてきたが、俺はここで待ち合わせをしていて、卒業式以来見ていないと正直に答えた。
俺はそのまま夜通して待つつもりだったが、無理やり親に家に連れ戻されてしまった。
次の日にあいつに会えば、昨日の勝負は親のせいでノーカンとありもしない勝ち負けを気にしたが、あの日以来、俺があいつに会うことはなかった。
それでも俺は中学に進学しても約束の裏山に通い続けた。
それをしないと何か負けた気がして、放課後や休みの日には頻繁に通った。
親が心配するので学校には通ったが、あいつの親は捜索願いを警察に出していた。
放課後や休みの日は殆ど裏山に通っていたから、中学時代は全然友達ができなかった。
元々あいつと出会う前は社交的とは言えなかったので、特に欲しいとは思わなかったし、それを寂しいとは思わなかった。
ただ、あいつがいない日々が虚しかった。
ただ裏山で待つだけではつまらなかったので、次に会った時に負けないように身体を動かした。
小学低学年から裏山を駆け回り、どっちが速く走れるかとか、どっちが高くまで木に登れるかとか、どっちが高くジャンプして小川の向こう側に渡れるかとか、その殆どがどうでもいい内容だったが俺たちにとっては意義あるものだった。
だから、特にトレーニングメニューを決めるわけでもなく、動きたくなったら動いた、只管に思いのままに動いた。
そんなことだから中学のスポーツテストは毎回学年一位を獲った。
それに対して周りの生徒が俺を褒め称えてくれるが、それもただ虚しいだけだった。
俺と争えるのは唯一あいつだけだった。
そんな日々が過ぎ去り、高校受験を控えた中学三年になると受験勉強も裏山でやるようになった。
ここまでくると最初は口煩かった親も諦めたのか、あまり何も言ってこなくなった。
二年も同じ場所で過ごしているとちょっとした暑さ寒さや、雨風をしのげる小屋みたいなものを作っていた。
流石に何もない場所で勉強はできない。
と言っても、然程やる気もなかったので、家から近い適当な高校に絞り勉強した。
幸い高偏差値ではなかったので、もっとも近い高校へ合格できた。
そして、高校の入学式。
中学と同じような高校生活が始まると、虚しさを感じていた入学式の帰り、俺は異世界へ召喚された。
召喚される過程はいくら説明しようとしても上手く説明できる自信がない。
ただ、それ以上の衝撃が俺を襲った。
現代日本とはかけ離れた風景に放り出された俺の目の前にはあの約束の日から一切姿を見なかった大親友が立っていた。
「………ツバサ、か?」
「そういうお前はユウキか?」
見慣れない服装に身を包み、三年経っていたせいか顔付きが若干異なったが、こいつは間違いなくユウキだった。
失われた自身の半身を見間違うはずがなかった、俺は喜びのあまり言葉が出なかった。
それはユウキも同じみたいで、何とも言えない表情していた。
久しぶりの再会に感極まっていた俺たちだが、突然俺とユウキの間に一人の女が割り込んできた。
ユウキしか目に入っていなかったらしく、俺はその女に気付いていなかった。
よく見れば他にも女が二人、計三人がユウキと共にいた。
割り込んできた女が俺とユウキに向かって何か言っていたが、正直何を言っていたか覚えていない。
ただ、敵愾心みたいなものはその女から感じた。
ユウキはユウキでその女の話をバツの悪そうな顔を浮かべながら聞いていて、俺はそんなユウキの表情は見たことがなく、少し寂しい気持ちになった。
三年も経過すれば人は変わるだろう、ただ、俺とあいつだけは変わらないと信じていた。
感動の再会に水を差されたが、ユウキに連れられ近くの町へ向かった。
道中も女連中に怪訝な視線を向けられたが、それを気にするほど俺には余裕がなかった。
まず、この状況を一から百まで説明して欲しかった。
ユウキは俺を同郷の友だと女連中に簡単に説明し、二人っきりで話せる場を作ってくれた。
間違ってはいないが、俺とユウキはそんな言葉で一括りにできるほど軽くはない。
と、俺の不満は兎も角、女連中はユウキの言うことを比較的素直に聞いているみたいだった。だが、心の底では納得してなさそうな表情をしていた。
誰にも邪魔されない環境で、積もる話もあるが、ユウキと俺に何が起こったかを聞かされた。
ユウキ曰く、ここは俺たちが住んでいた地球とは違い、ユーウラトスと言う別の世界らしい。
俄には信じ難いが、ユウキが嘘をついているとも思えなかった。
いつも一緒にいた頃はふざけあって、法螺を吹いたり、事を大袈裟に言うことはあったが、ふざけている時と真剣な時の区別ぐらいはついた。
この時のユウキはこれまでにないぐらい真剣だった。
そして話は続き、ユウキはこの世界に勇者として召喚されていた。
勇者がいるなら魔王もいるかと軽い気持ちで言ったら、正にその通りで、今はその旅の途中だと言うから驚いた。
そのお供がさっきの女三人だったわけだ。
いちいち名前を覚えてはいないが、最初に俺とユウキの間に割り込んできた遠慮という言葉を知らなさそうな女戦士と寡黙というよりも最早根暗に近い魔法使いに、いつもニコニコ笑顔が逆に怖い僧侶が魔王討伐の旅のお供だそうだ。
第一印象はここまで悪くなかったが、近からずも遠からずと言った感じだ。
しかし、三者三様ではあるが全員が今まで見たことないほどの美貌を兼ね備えていた。
そんな三人の美女を侍らせてるなんてハーレムじゃんと、言ったが、ユウキは素直に喜ぶわけでもなく、照れ隠しでドヤるわけでもなく、ただ苦笑いを浮かべた。
そんな単純な関係ではないみたいだ。
部屋の外の様子が気になるみたいで、ユウキは話を早々に切り上げた。
三年振りにそれも異世界での再会なので、積もる話もあるだろうが、色々事情があるみたいだ。
とりあえず部外者の俺はむこうのペースに合わせる事にした。
ユウキのことが気になりつつも、俺はユウキに借りてもらった宿屋の一室で一息ついた。
当然金などないので、全てユウキ持ちだ。
色んなことが一度に起こり過ぎて、俺の精神は大分すり減っていたみたいで、すぐにベッドに横になった。
ユウキが去り際に、今夜不思議なことが起こると思うけど、気にせず身を任してくれと言われ、異世界で失踪したはずの親友に再会する以上の不思議なことなどあるのか、と疑問に思いつつ、瞼を閉じればすぐに眠りにつくことができた。
そして、ユウキが言った通り、不思議なことが起こった。
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