第7話
side 楓川涼葉
暗い夜道なのに、暗さを感じない。
街頭、車のライト、窓から漏れる明かり、全てが輝いて見える。
足取りも軽い。気づけばスキップしてしまいそうな軽さだ。
口元が緩む。
私を大切に思ってくれると言ってくれた。
家族に大切にされず無視されて、友達とは冷めた関係で見てくれず、男は私の外見だけしか見てなくて、誰も私のことを見てはくれなかった。
だから嬉しい、嬉しくてしかたない。
橋下は見ていられなかったから、と言った。それは私を見てくれたからこその言葉なのだ。
加えて、漠然とした不安、孤独を抱えていた私に、手を差し伸べてくれた。
「うぅぅ」
嬉しすぎて、たまらず声が出る。口元はもうニヤッニヤ。
助けようとしてくれただけじゃない。
料理を作って、なんて無理なお願いを、快く聞いてくれた。
ハヤシライスはあったかくて美味しかった。料理が上手で格好よかった。
会話も楽しくて、ちょっとイジられたけど、それもまた心地よかった。
スキップを踏む。
鼻歌まで歌い出しそうになる。
肌を撫でる風が心地いい。見上げた夜空は広く感じる。
鼓動が早くなる。運動によるものでないとわかるのは、胸に綿菓子のような甘さがあるからだ。
好き、なのかな。好き、なのだろう。
生まれて初めての恋。
自覚すると、また口元がにやける。
好きな人が、大切に思ってくれる。そう考えると、他のことなんてどうでもよくなってしまう。
我ながら笑いそうだ。
クール系なんて言われ、自分でもそういうタイプだと思っている私が、恋に浮かれてしまうなんて。
漫画なんかで俗に言うチョロインを冷めた感情で見ていたものだけれど、いざなってみると、仕方ないじゃないかと思う。
こんなことされて好きにならないなんて無理だ。
橋下ともっと話したい、遊びたい、デートに行ってドキドキしたい。付き合って側にいたい。
あー、恋人、なりたー。
そう思って気づく。
あれ? たしか橋下って彼女いたんじゃなかったっけ?
矢野美也子。クラスメイトの可愛い女子。いつもと言うには、やや少なく、よく、と言うには多すぎるくらい、橋下と一緒にいる女子。
嫉妬でむっとしてしまう。
ずるい。橋下一緒にいるなんて。というより。
本当に彼女なのかな?
一緒にいるから彼女だと思っていたけれど、よく考えれば付き合っているという話は聞いたことがない。それに傍目で見る限り、恋人っぽいというより、友達のノリな気がする。
いやでも、朝も早くから二人でいたし……。
確かめてみるしかないか。
私は明日、二人の関係を聞くことに決めた。
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