追放? 俺にとっては解放だ! ~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった転生者の俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する。俺も、みんなもね!~
最終話 あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ
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――ルマトゥーラ王国を揺るがせた大事件から、三ヶ月が過ぎた。
◇◆◇
「お父さーん、ごはんできたってばー」
「はいはい。今行くよ、アン」
レオン・シオナードは愛娘の声にいそいそと椅子から立った。
誰の影響か、すっかりたくましくなった娘。研究に没頭する父を呆れるようになったのが、目下の悩みであった。
だが、それでも幸せであることに変わりはない。
カリファ聖王国の一角に設けられた研究所。
レオンは娘と仲良く暮らしながら、天職に勤しんでいる。
――扉を叩く音がした。
「はい。どちらさまですか?」
レオンが玄関を開けると、ひと組の家族が申し訳なさそうに立っていた。
父親と思われる男性がたずねる。
「あの、つかぬことを伺いますが……移住者用の居住地はどちらへ行けば……」
「ああ。それでしたら、もう少し北東になります。ほら、あちらに真新しい道があるでしょう。あの先ですよ」
よろしければ、受付までお送りしましょうか――とレオンが尋ねると、一家はホッとしたような表情を浮かべた。
アンを一人にするわけにはいかないので、一緒に連れて移住受付の建物へ向かう。
途中、家族の一番年下の子――アンと同じ年齢の男の子が、不思議そうに言った。
「ねえ。ほんとにオレたち、タダで住んでいいの? やっぱわるい奴がだましてるんじゃない?」
「こ、こら。失礼だろう」
慌てる両親。
するとアンが胸を張って答えた。
「ウソじゃないよ。だっておにーちゃんは王さまだもん。それに勇者さまだもん。だからおにーちゃんが決めたことはぜったいなんだよ」
「へー。ここの王さまってほんとにすげえんだなぁ」
感心する男の子。さらに得意げになるアン。
レオンは苦笑した。困り果てた様子の両親に、優しく諭す。
「娘の言うとおりですよ。カリファ聖王国は、懸命に生きる者たちの味方です。そういった方々に無償で土地を提供し、当座の生活を保障する。我が王、ラクター・パディントン陛下のお達しです」
いいんですよ、タダで――とレオンは片目を閉じた。
一家を移住受付まで連れていく。別れ際、父親が言った。
「機会があればぜひラクター様にお礼を言いたいのですが……あの方は、いまどちらに?」
「そうですねぇ」
レオンはよく晴れた空を見上げた。
カリファ聖王国の上空を、神鳥たちが優雅に飛んでいく。
「今頃、
そう言って、レオンは微笑んだ。
◇◆◇
――ルマトゥーラ王国。王都スクード。
復旧作業が進む王城の一室である。
眉目整った、一見高貴に映る双子姉弟が、互いに深刻な表情で向かい合っていた。
「……よくないわね」
「……とてもまずい」
手を組んで顎を乗せ、真剣な表情で考え込んでいる。
姉は、近衛騎士団の副団長まで上り詰めたスティア・オルドー。
弟は、カリファ聖王国で実務を担う重鎮となったキリオ・オルドー。
肩書きを得て、非常に多忙な毎日を送る二人が、寸暇を盗んでわざわざ顔を合わせたのには、理由があった。
「姫様がウエディングドレスを着てくださらない……! 我々の人生最大の興奮、いまだ成就せず……っ!」
推しの姫――イリス・シス・ルマトゥーラの結婚がまだなので、やきもきしているのだ。
この二人にとっては国政と同レベルに重要な話題である。
そして今、彼らにツッコミを入れる当事者は不在であった。
キリオがため息をつく。
「仕方ない。
「そうね。私としては一刻も早く焚書してすべてを無に帰すべきと何千回も言ってるけど、そうはいかないのよね。弟よ」
スティアもため息で応じる。
堕ち人――前勇者スカル・フェイスに与えられた呼称である。
彼には何も残さない。富も、地位も、名前も、ただ一冊の書物の中にすべて収める。それがルマトゥーラ王国の方針だった。堕ち人がこれまでにやらかしてきたあれこれを、ひとつひとつ清算していく憂鬱な作業だ。
堕ち人スカル・フェイスが最後に見せた執念は本物。奴が完全に滅ぶことはない。ならば――二度と暴走することがないように、書物の楽園の中で永久に夢を見させる。あの男だけの、決して叶うことのない夢を、永久に。
その書物を厳重に管理していくことが、スカル・フェイスを一度は勇者と認めた王国の勤めだと、ルマトゥーラの王は言う。
スティアもキリオも、その勤めを真剣に遂行するだけである。
だが、まあ――それはそれ、これはこれ。
どうしても二人の話題はイリス姫の貞操諸々に向かう。それも、本人が聞いていたら赤面卒倒しそうな過激な提案が飛び交うのだ。
双子を止める者はいない。
そこへ、ふたりの人物がやってきた。
ルマトゥーラ王国の王、ルヴァジ・ヒル・ルマトゥーラ。そして王妃ローリカ・シス・ルマトゥーラ。
最近、ようやく以前のような威厳のある衣装を身につける余裕ができてきた。少し前までは、あちこちの復旧現場を視察するために動きやすさ重視の格好をしていたのだ。
敬礼して迎える双子に、ルヴァジ王は
以前よりもさらに王としての余裕がにじみ出ていた。
「ところで、先ほどの話はイリスとラクター殿についてかね?」
ルヴァジ王は、双子の話を小耳に挟んでいた。娘と隣国の王との婚姻は、彼にとっても既定路線であり最大の望みである。
当事者たちは、それぞれの思いから「まだ早い」と考えている。それを知ってもなお、二人の仲をさらに進展させたいと前のめりになるのが親心だった。
だから、聞く。よりによって、この双子に。
「それで、なにか良い案があるのかね?」
「はい陛下。できればイリス様には○○○して○○○○○も辞さないように○○○の場を設けて――」
「……」
「そして○○○で○○○○、○○○の○○――」
ローリカ王妃が夫を見る。
王は真剣な表情で前を向いたまま――気絶していた。処理能力超えである。
◇◆◇
――賑やかさを取り戻しつつある王都スクード。
その一角に、冒険者で賑わう酒場がある。
今、ひとりの少年がフラフラと扉から出てきた。
「はあ……パーティ追放、か。ツライなあ……あんなに頑張ったのに」
少年はつい今し方、パーティのリーダーから追放を言い渡されたばかりだった。
スクードでも上位の腕利き集団。その一員になれたことが誇らしくて、これまでどんな無茶でも歯を食いしばって耐えてこなしてきたのに。
「所詮、憂さ晴らしの道具にしか過ぎなかったのかな……はあ。これからどうしよう」
普段は口にしないぼやきが次々と漏れてくる。
このままじゃないけない、と頬を張るが、重たい気持ちはなかなか消えてくれない。
酒場へと入っていく一行と、少年は入れ違いになる。
そのとき――。
「よお、少年」
一行のひとりに声をかけられ、少年は驚いて振り返った。
フード付きマントを目深に被った三人組。声をかけてきた男と、その他は女性だった。フードで顔が半ば隠れていても、息を呑むような美人であることが雰囲気でわかる。
先頭の男が気安い口調でたずねた。
「悪いな、急に声をかけて。さっき、パーティ追放って言葉を耳にしてな。お前の顔を見たら、つい声をかけたくなったんだ。大丈夫かい」
「え、あの……」
少年が狼狽えていると、女性のひとりが指差した。
「あ、この子知ってる。ほら、ちょっと前にいくつかのパーティ合同で撤去作業やったでしょ。あんとき最後まで残って頑張ってた子だ」
「綺麗な目をした方ですね」
もうひとりの女性に
同時に、別の意味でも鼓動が高鳴る。
この人たち、どこかで――。
「なあ少年」
男が手を差し伸べてきた。
「追放されて行く先に困っているなら、相談に乗ろう」
「……え?」
「金のことなら気にすんな。ただし、お前にとっての
「あの、あなたは一体……?」
「俺か?」
男はフードを取り、人好きのする笑みを浮かべた。
「俺はラクター・パディントン。一生懸命頑張る奴に、『楽園』を創る男だ」
【終わり】
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