第33話 魔法訓練の成果
――大神木を出発して一週間。
周囲は枯れ木、枯れ草の目立つ荒れたエリアである。
そこで俺は呼吸を整えながら、神力を操っていた。
掲げた手の先に、緑色に薄らと輝く種が浮かぶ。
俺は
「シード・レインウインド!」
叫ぶ。
同時に、空中に浮かんだ種が勢いよく弾ける。
炎も、爆風も、爆音もない。
代わりに、ガラスが割れたような甲高い音が響く。それとともに、綿毛のような光粒が広範囲に舞い上がり、風に揺られながら降ってくる。
光の綿毛が触れると、それまで荒れ放題だった土地や木々がみるみるうちに活力を取り戻していった。
わずか数秒で、荒れた土地が以前の姿に戻る。【楽園創造者】と遜色ない光景だ。違うことと言えば、あくまで『荒れる前の状態に戻った』という点か。
それでも効果は抜群――と言っていいだろう。じゅうぶん以上の成果だ。
満足して息をひとつ、吐く。アルマディアが言った。
『シード系範囲回復魔法、シード・レインウインド。お見事です。またひとつ、新たな魔法を開発しましたね』
「ああ。グロース系魔法の活性化効果と組み合わせた爆発系魔法……なんて、我ながら無茶な組み合わせだと思っていたが、予想以上に上手くいった」
青々とした自然の輝きに満ちた森を、俺は見渡した。荒れた土地を復活させる方法が【楽園創造者】だけだったら、これから先、追いつけなくなっていただろう。成功してよかった。
――カリファ聖森林に異変をもたらす原因、それを取り除くため、謎の魔法が埋められた場所へ向かう俺たち。
その道中、俺はアルマディアとルウから教わった各系統魔法の習得に努めた。
移動と調査をしながらだから、地道な努力である。
が、まあ別に嫌いじゃない。
頑張る奴を応援したい男が、自分自身に甘いんじゃサマにならないだろ。
教え方が上手かったせいか、一週間もあれば一通り身につけられた。
だが、正直レパートリーとしては少なかった。ま、普段魔法なんて使わない連中だもんな。
だから俺は、新しい魔法の開発に取り組むことにしたのだ。
今の『シード・レインウインド』もそのひとつ。
ちなみに、魔法の命名は全部アルマディアに任せている。いちいち考えるのが面倒くさいという理由もあるが、こいつのセンスは微妙に厨二心をくすぐるのだ。
なんだ、その。あれだ。ガキのころ、友人とオリジナル魔法をあれやこれや考えついては仲間内で盛り上がっていた空気を思い出す。……あるよな。そういうこと。あるよ、な?
『コメントは控えます』
「……お前さ。最近、俺の記憶で遊んでねえか? なあ?」
いつも通り嫌なタイミングでいじってくる女神に半眼で文句を言う。
すると。
「おつかれさま~です~」
「うおっ!? ルウ!?」
背中に柔らかすぎる感触が来たと思ったら、後ろから大精霊に抱きつかれていた。
驚く俺にはお構いなしで、ぐいぐいと身体を押しつけてくる。
「では~、いつものいきますね~」
そう言うと、ルウの身体から神力があふれ出す。それに合わせ、俺のGPも徐々に回復していく。
名実とも、すっかり癒やしキャラになってしまったな。こいつ……。
――大神木で、俺が【楽園創造者】の力を使い創りだした種。
今、ルウはその種を核として姿を維持している。
本体の大神木は元の場所に立ったままだ。
聞けば、以前はカリファ聖森林内ならどこでも精霊の姿で現れることができたそうだが、最近は力の衰えでそれができなくなっていたらしい。
俺の創った種を核とすることで、大精霊としてのルウは前のように移動の自由を得たというわけだ。
俺としては軽い礼のつもりだったのだが……ルウはひどく気に入ってくれた。何度も感謝され、俺の方が面食らうほどだった。
以来、俺のGP回復役を自認し、旅に同行するだけに飽き足らず、ことあるごとにこうして抱きついてくるようになった。
回復手段が限られている力だから、ありがたいのはありがたい。が、これでますます人里に出て行くことができなくなった。
なにせ、四六時中リーニャかルウがくっついてくるのだ。事情を知らない奴から見れば、とんだ女たらしである。
勇者スカルより目立つなんて言われたら……ヤバ、想像するだけで悪寒が。
『GP現在値560まで回復。最大値は673、レベル20といったところです。ラクター様。この一週間の魔法訓練が功を奏しましたね』
「ああ。神力の扱いにもだいぶ慣れた。実感があるよ。これなら……いや、やめとこう」
勇者パーティにスカウトとしてこき使われていた頃を思い出す。
傲慢は油断を生み、油断は予想外の危機をもたらす。
俺はスカウトとして、そうした危険の芽を摘んできたはずだ。
今になって、勇者と同じ
この先に待つのはおそらく、曲がりなりにも勇者パーティとして認められた奴の魔法だ。術者の人格をこき下ろそうと、魔法の強力さは下がったりしない。
だが、もし。
もし術者もそこに待っていたら。
そいつの態度次第では、俺も腹を
先を進む。目的地は近いはずだ。
果たして――。
「……主様」
最近はルウに対抗して腕に抱きついてくるリーニャが、俺から離れて身をかがめた。
まるで獲物を狙う狼のように、尻尾の毛を逆立てる。
俺は「着いたか」とつぶやく。数十メートル先、木々の間から開けた土地が見える。
静かに呼吸を整える俺たち。
――突然だった。
「あああああああああぁぁぁっ、もうっ! ムカツクぅぅあああああっ!!」
聞き覚えのある、だが今はもう忘れたい声が響き渡った。
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