第2話 キョウトウの王

「おお勇者よ! たったフラれた位で死んでしまうとは情けない!」


 何処どこからともなくなたからかファンファーレがね回る中でパチクリけた両目が天井てんじょう? というよりもこれは天蓋てんがい? 見たこともないきらびやかで豪奢ごうしゃいろどられたこんな目の前の風景(天井ら辺)なんて、そうそう日常一般にこの目に出来るもんじゃない。

 おぼろげにつながる記憶を辿たどるきっかけにしちゃ、何かで聞いた様なテンプレ改変かいへん台詞ぜりふがたった今しがたのついさっき? 

 ちょ、ちょっと待って……フラれた? 誰が? 俺が?……そうだ俺だ! 俺フラれたんだ! やっぱりそうなんだ……あれは夢なんかじゃなかったんだよなあ……。


「ワンターンキルより何より呆気あっけない死にざまだった様だな。文字通り秒殺も秒殺なんぞ全くもって情けない。」


 どう言うこと? フラれて死んだ? 俺ってフラれて死んだの!? あのまま? 立ったまま? あのの前であのまま死んだの俺!? え? じゃあ由衣ゆいが俺を殺した犯人で! “次は誰の番なんです!?” 

 ……いや、どう考えても勘違かんちがいな暴走のすえのこれは俺の完全なる自殺じさつってやつだよなあ……でも、じゃあこの今ここにいる俺は一体なんなの? 

 よくよく意識をやっとのことで向けた周りの風景にきょろきょろ。成程なるほど言われてみれば、これは確かに教会きょうかいふうにカラフルえるステンドグラスやら祭壇さいだんやら。

 やっとのことで体を起こして見渡すここは、教会ってよりもただしく威風いふう堂々どうどうたる大聖堂だいせいどう

「お前の存在は“あちら側”、つまりお前が元いた世界では今まさに死んでしまっている。だが、そのあちら側で死んだということは“こちら側”では生きているというまさにこれが“量子りょうしろん”というやつだ」

 “あっち”とか“こっち”とか何の話をしてるんだか全く分かんない上にあなたは一体どなたです?

「ここはお前にとっては異世界であって、さらにこの時この瞬間しゅんかんにここ“キョウトウ”の地にしたのだ。そして私はこの世界の治安をつかさどる“ホンニ帝国”の大司祭だいしさいねたキョウトウの王でもあるヒガシヤーマ・ジャニズーである」

 分かんない分かんない! 全然分かんない! でも、一応はお約束RPGのイメージ中世ヨーロッパ的だと形容けいようされるテンプレ戴冠たいかん国王の恰好かっこうをしてることもその王様マント含めて、地名や人名のそれっぽさとマッチしないってのが全くもって齟齬そごでしかないし、東洋的な言葉と文字体系がどころな割りに、顔立ちにモンゴロイドを全く感じない。日本人から見た外国人は全員トム・ク〇ーズなんだってば。 トム・〇ルーズ、トム・ク〇ーズ、トム・クルー〇、たまにジャクブラッ〇みたいな! 大体その線上せんじょうにいるのがそのお顔立ちなあなたであって!

「私の血統けっとうは初代教皇きょうこうからいただいた騎士ナイト階級から始まったジャニズー家の歴史でもあるのだが、そこに何か不満でも?」

 無いです無いです全くナイです! ジャニズーバンザイジャニズーバンザイFCチケドリアンテイラクセンサイチャレサイチャレサイコーサイコー!!

「お前が先程さきほどまで横たわっていたここは大聖堂であるが、ジャニズー城の一部でもあるのだ。そして、天啓てんけいを知らせるそのかごの中の“九官鳥”がついしらせたのだ」

 そんな九官鳥に神話的役割なんてどっかにあったっけ? 大概たいがいなんぼなんでも八咫烏やたがらすじゃない? 異世界ってば何らか足したり引いたりモジったりばっかり!

「この世界に“勇者”が現れると」

 おごそかに語るその声はCVで例えるなら津〇健次郎! シブい! シブすぎるぜツダケンのナレーション!

「そして、それがお前なのだ。“転移勇者”龍ノ介よ」

 なろうなろうあすなろう明日はひのきのぼうでスライムろう! ……いや違った! なろう系な展開なんてもうそんじょそこら! だけどまさかホントにこの身に起きるとは!? あなたが轢死れきしからの異世界ジャンプしたいのはきんのトラック? それともぎんのトラック? まさかのトントントントンヒ〇ノニトン? みたいな選択肢すら事前にありませんでしたけれど!

「お前が勝手にフラれたショックで死んだのだ。そしてこちらの世界にやって

きた」

 なんて恥ずかしいんだ俺ってば……介添かいぞえトラックすらいない転生・転移物語のハジマリハジマリ……。

 それにしても俺が勇者? 文字面もじづら文字面もじづら額面がくめん通りそのままに受け取るならその意味するところは勇気ある者? “ご”の言葉たった一文字いちもじからき起こったあらゆる妄想もうそうで脳内神経細胞が全部お手上げになったすえにこうなったのに?

「この世界には“告白”という文化がないのだ。何となくがそこはかとなく曖昧あいまいに支配する風土ふうどであって」

 はあ……そういえば日本にはしっかりとした関係性の線引きとして“告白”が存在するけれど、外国にはそれほどそういう暗黙あんもくのルールみたいなのが無いとか?

「そういうことだ。“告白”が出来たお前にはこの世界の勇者に素養そようがあるということだな。それ以降関係性がくずれるかもしれない言わばたがいのチキンレースの産物さんぶつ

 いやいや、成功の可否かひによる結末のすえの大ダメージは、確かにコ〇ニー落とし並みの威力いりょくで俺の命をうばったのはどうやら確かなんだろうけれど。一般的にそこまで過剰かじょう大層たいそうなものではないはずだし、まして俺なんかより新宿渋谷辺りで告白タイムのループ合戦でも昼夜り広げてるヤンチャが目覚めざましい奴らの方がそういう理屈りくつで言うとよっぽど勇者なんじゃないの?

「そういうやから大抵たいていこの世界においては“ゴブリン”や〝オーク”とならしょうされる者達のことを言うな」

 成程なるほど、ここはテンプレファンタジー要素ようそ概念がいねんはちゃんとたしてる世界ってことでOK? エロ的解釈かいしゃく土台どだいになってる比喩ひゆ概念がいねんも元いた世界と共有きょうゆうされてることはこれで確認出来た。 

 「そして、通常人間はどちらかの世界しか“選択・認識”出来ないらしい。しかし、伝説の勇者だけがこの“量子りょうしもつれ”の状態をマクロの世界においてさえ同時に保つことが出来ると伝えられている」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る