第10話 ケツを死守しろ!

桶星、生まれた時から病弱でして

親に随分と心配をかけました。


今は子供の医療費は

無料ですが

(これは、素晴らしいことだ

どんなに貧しくても

子供は適切な医療が受けられる)


昭和時代は有料。

結構、医療費の捻出が

大変だったようで・・・。


ある日、

テレビが姿を消した。

(質屋に行ってしまった。

桶星の医療費捻出のために)


子供って

凄いと思うのだが・・・。


カレンダーも

時計も

理解してい無いのに。

誰にも知らせくれ無いのに。


好きなアニメが放映される

その曜日

その時間

になるとテレビの前に鎮座する。


桶星も、いつも通りに

テレビの前に鎮座。

正確にはテレビの前では無く

Q太郎が来る”場所”の前に鎮座。


2歳の桶星は、

家電である

テレビを認識して無かった・・・。


テレビに映る。

のでは無く

Q太郎がテレビの置いてある場所

辺りに、出て来る。

我が家にだけ、やって来る

と思っていた。


やはり2歳児の頭脳なんて

そんなもの、である。


出て来ない!

「Q太郎」が現れない!

どうして、今日は来ない⁉


桶星は焦った

「なんでQ太郎は来ない⁉」


部屋の中を

ぐるぐると歩き

再び鎮座。

現れないQ太郎・・・。


立ったり座ったり

歩き回ったりと、

思いつく限りの

行動をとるが・・・。


Q太郎は来なかった・・・。

桶星は泣いた・・・。

Q太郎に裏切られた!

と真剣に思い

悔しかった・・・。

泣いた・・・。


テレビは数日後、

無事に帰ってきた。

「桶星の泣く姿が可哀想で、

直ぐに質屋に取りに行った」

そうだ。(母談)


テレビ質ぐさは

桶星が原因なのだが。


さて、

病院の常連さん桶星。

行けば十中八九・・・。

注射だ・・・。


診察が終わると

看護師さんが

注射の準備に取り掛かる

「何にも、しないわよ~」

看護師さんの言葉は

噓だ!!


桶星は知っている!

いくら看護師さんが

体で隠しながら

準備をしても

分かっている!


あんたが立ってる

その場所は

注射器がしまってある場所だ!


【逃げなくちゃ、

今すぐ、ここから逃げねば!】

脂汗が出てくる・・・。


桶星は、

誰にも気付かれないように

少しずつ

ドアに向かい後ずさり。


こんな時、

敵に背を向けてはいけない。

しっかりと、

敵の様子を伺いつつ

逃げねばならぬ。


しかし、

敵は百戦錬磨の看護師だ

桶星が逃げる事は

お見通し・・・。


サッと近づき

腕を掴み

診察台の上へ。


「嫌だーー!やめてーー!」

母と看護師、

タッグを組み

押さえ込みに入る。


当時、

医学会では、

子供の注射は

腕よりも

脂肪が厚く痛みが少ない

臀部が好ましい

とされていた。


これは大きな誤りだ!

臀部には足の神経が走っている。


注射によって

神経が傷つけられ

足に障害が残る子供もいた。


現在は、決して臀部に

注射は打たない。

常識中の常識である。


はてさて、

押さえ込まれた

桶星の運命や、如何に・・・。


「お願いですから、やめてください」

泣きながら懇願する桶星。


パンツを下ろされまいと

必死の抵抗・・・。

もはや、最後の砦は

パンツだけだ!

パンツを守れ!

何としても”ケツ”を出してなるものか!


ケツ取り攻防が

毎度毎度

繰り広げられる。


幼児が、

どんなに、

あがいても、


初めから

勝敗は決まっている・・・。

虚しい攻防戦だ。


闘う間なく

散ったことが・・・。


かかりつけ医が

往診に来た時

闘う隙なく

敗れた・・・。


だって、

まさか、

あの鞄に、

注射器が入っているとは・・・。

卑怯千万である!


騙されるな!

目に見える物だけを信じるな!

2歳で得た

人生の教訓である。

























  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る