第35話 オスタシスを救います
「エルダー、こっちだ」
外で待機してくれていたオリヴァー様に導かれ、私たちは急いで教会に向かった。
「あなたがお姉様の旦那様?」
「………」
「二人、仲良さそうだけど、お姉様は愛人を許容したわけ?」
「ぶほっ!」
急ぎ足で向かいながらも、ティナの容赦ない質問にオリヴァー様が吹き出してしまった。
「なっ?!」
「どうせ私のこと、お姉様を虐める嫌な妹だって無視したんでしょうけど、お姉様を蔑ろにするあなたも同罪なんだから」
「同罪……」
ズケズケと言うティナに、オリヴァー様は落ち込んで黙ってしまった。
「ティナ、誤解なのよ」
「誤解?」
首を傾げるティナに、私は掻い摘んで説明をした。
「はあ〜? 何それ。バカじゃない?」
「なっ?! お前のような女にそんなこと言われる筋合いはない!」
ぎゃあぎゃあとティナとオリヴァー様が言い合いになってしまった。
……凄い!出会ってすぐに仲良くなるなんて。
ティナのすぐに人と仲良くなってしまえる所、尊敬してしまう。
旦那様と妹が仲良くなるのは単純に嬉しいのだ。
「エルダー……」
「お姉様……」
ニヨニヨと見ていると、いつの間にか二人から呆れた視線を送られていた。
「まあ、お姉様が幸せなら良いんじゃないですかっ?!」
「エルダーは俺が幸せにするから心配するな」
「ああ、そうですか!!」
「オリヴァー様……ティナ……!」
私は二人の言葉に感動してうるうるしてしまった。
あの幸せマウントのティナが、私の幸せを喜んでくれるなんて…。
そして幸せにする、と妹に宣言してくれたオリヴァー様。
私は何て幸せ者なのだろう。
「嬉しいとすぐ泣いてしまうな、エルダーは」
私の直ぐ側まで来たオリヴァー様は、目の端の涙を拭ってくれた。
「けっ」
けっ????
可愛らしいティナからは想像できない言葉が漏れていたけど、オリヴァー様は気にも止めなかった。
私の涙を拭った後、手を握りしめ、再び教会へと急いだ。
「あー、エルダーちゃん! 待っていたわ」
教会の聖堂は国民に開放され、重症者が等間隔に横たわっていた。
「あなたの持ってきたハーブをまずは飲ませて、今私の癒やしの力をかけて回っている所」
この短時間で迅速に処置が行われていたことをお義母様から聞き、アーヴィン様の手腕に驚く。
「あなたは重症者以外の人たちのハーブを処方してくれる?」
「はい!」
「あなたもこっちを手伝って」
「あ、ティナ。その前にこれ、」
お義母様の指示に頷き、ティナにも指示を出されたので、私は鞄からティナ専用のハーブを取り出した。
小さい頃、ティナが美味しいと言ってくれて、よく作ってあげていたハーブティー。
「……懐かしい」
ティナはそう言うと、私からハーブティーを受け取った。
「入れ方わかる? わからなかったらロジャーに……」
「わかります!」
「あ、そう?」
心配そうにティナを覗き込み、ロジャーをきょろりと探そうとしたら、彼女から遮られた。そして。
「……お姉様に何度も教わったもの……」
赤くなりながら、俯いたティナに、私は頭をポンと、撫でた。
「オスタシスを救うわよ」
こくり、と頷いたティナを見届け、私はオリヴァー様と教会の外へ向かった。
教会の外へ出ると、沢山のテントが張られていた。
騎士団の遠征用テントを治療所として使っているようだった。
アーヴィン様の登場と、迅速な対応で、王宮に詰めかけていた国民たちも大人しく治療の順番を待っていた。
「アーヴィン様」
司令室となっているテントにアーヴィン様を訪ねると、彼は地図を広げながら、大司教と話し、騎士たちに指示を出していた。緊迫した状況に、司令室も慌ただしい。
「エルダー嬢!」
「私はどこから見ていきましょうか」
「助かる……だが、数が多すぎて、君一人では捌けない」
難しい顔でそう言ったアーヴィン様に、私も厳しい顔になる。
確かに私一人では対処出来ない。癒やしの聖女ならば広範囲、大勢の人に力を使えるけど、私は一人一人に対処していかなくてはならない。
そうしている間に、軽い症状の人も悪化していくかもしれない。
「エルダーの店以外にも調合店はありましたよね? その者たちを募集しては?」
オリヴァー様の提案に、アーヴィン様の表情は暗い。
「ハーブを蔑ろにしたオスタシスに、皆愛想をつかしている。最後まで残ってくれていたエルダー嬢が特殊なのだ」
確かに、聖女の力に溺れたオスタシスはハーブを蔑ろにした。でも私はハーブが好きだったし、それで皆の力になれるのが嬉しかった。だから。
「オスタシスが危機なんです! きっとその人たちも助けたいと思っているはずです!」
「エルダー嬢……しかし……」
ハーブに携わりたくても携わることを奪われた人たち。きっと何かしたい、と思っているはず!
私の言葉にアーヴィン様はまだ暗い表情のまま。
「報酬を出してはどうですか? また店を開けるくらいの」
「ほっほっほっ、良い案ですが、このオスタシスにそんな財力は無いでしょうなあ」
「……その通りだ」
オリヴァー様の提案に、大司教が皮肉めいた笑いをしながらもそう言うと、アーヴィン様が頷いた。
オスタシスはティナの聖女の力でお金儲けをしていたと聞いたけど……あ……!
「あの、私がロズイエに嫁ぐときにいただいたお金は?!」
「……ほとんどが宝石に成り代わっているらしい」
「じゃあ、その宝石を報酬に当ててください!」
使い込んでいたとしても、それが宝石なら、まだ換金出来る!そう思った私はアーヴィン様に提案した。
「しかし、本来は君の支度金だったわけで……私は君に返還しようと……」
「私はいらないので、オスタシスのために使ってください!」
きっぱりとそう言うと、アーヴィン様は困った表情をされていた。
「私の妻がこう言っているので、お願いします」
クツクツと笑いながら、オリヴァー様が私の肩を抱き寄せ、隣に立ち、アーヴィン様にお願いしてくれた。
「まったく、エルダー嬢には頭が下がるよ」
アーヴィン様は溜息をつくと、覚悟を決めた表情で。
「エルダー嬢、ありがとう」
「いえ!」
アーヴィン様は私にお礼を言うと、すぐさま大司教様に手配を促した。
「じゃあ、私も出来るところから回りますね。オリヴァー様?」
話がついた所で、私も取り掛かろう、とオリヴァー様に声をかけると、彼は私を熱っぽく見つめていた。
「オリヴァー様……もしかして具合が……」
「君に惚れ直していた所だ」
「へっ?!」
熱っぽい瞳のオリヴァー様を心配すれば、甘い言葉が降り注ぎ、思わず驚く。
「ここだとキス出来ないのが残念だ」
「もう! オリヴァー様!!」
耳元で囁くオリヴァー様に、私は口をパクパクさせながら怒るのだった。
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