第33話 オスタシスの状況は最悪でした
オスタシスの要請に応えることにしたロズイエ王国は、オスタシスの許可を得ると、すぐに国境を超えた。
私、オリヴァー様、お義母様、ロジャーの四人はロズイエの使者として、まずは王宮に向かい、国王陛下に面会するはずだった。
ところが、私たちの馬車が王宮前の広場まで辿り着くと、そこには大勢の人でごった返していた。
私たちは口に布を巻くと、仕方なく馬車を降りて、王宮の入口へと進もうとした。
王宮前には王都の人間が多く集まって、何やら叫んでいた。
「どうしたんだろう」
病が蔓延しているというのに、何故こんなに多くの人が押しかけているのだろう?
王宮の入口近くにいけば、皆口々にこんなことを叫んでいた。
「聖女を出せ!」
「王族で独占するなんて卑怯だぞ!」
「国民を見殺しにする気か!」
今にも王宮に雪崩込みそうな民主を、騎士たちが入口で何とか押し留めていた。
「国民の不満が爆発しそうですね」
ロジャーが状況を見て口にする。
「これじゃあ、王宮に入れないわね」
「裏口に回りましょう!」
お義母様が困ったように溢したので、私はすかさず提案した。
王宮には調合のため通っていたので、業者専用の入口も知っている。
三人を連れて裏口に回ると、そこに人はいなくてホッとする。
見張りの騎士に許可証を見せると、彼は安堵の表情を見せ、すぐに謁見の間まで案内してくれた。
そこで私は信じられない光景を目にした。
「よく来てくださいました、ロズイエの王妃殿下方……!」
久しぶりに顔を見たオスタシスの国王陛下は感染することもなく、お元気そうだ。それよりも。
国王陛下の前には、ティナとジンセン伯のお父様、お義母様が縄で縛られて、床に膝を付けていた。
「お、ねえ、さま……?」
信じられない物を見るように、ティナがこちらに目線を向ける。
同様にお父様とお義母様もこちらを見ていたけど、二人は猿轡をされて声が出せないようだった。
「失礼ですが、国の聖女と見受けられる方に何をなさっているのですか?」
ロズイエ王国の代表として、王妃として、お義母様が前に出て口を開く。
「この者たちは聖女の力を独占しておりました」
「というと?」
「この娘は、息子の婚約者でありながら、聖女の力で息子を治そうともしない。しかし、ジンセン伯家の者たちが流行り病に冒されていないのはあまりにおかしい」
「それで、力を独占していると?」
「そうだ。こうなったらこの者たちを国民の前で断罪する他あるまい」
お義母様と国王陛下の会話を聞きながら、お父様たちは「んー、んー!」と声を出して抵抗していた。
「誤解です、陛下……! 私には、もう殿下を治す力がないのです……!」
「嘘をつくな!! ではどうしてジンセン伯家は無事なのだ! お前が力を忖度しているからだろう!」
ティナの必死の訴えにも、陛下は耳を貸さない。
ジンセン伯家が無事なのは、私が出ていくまで、ティナ同様に私のハーブを口にしていたからだろうか。
「聖女を断罪するなど……」
「我が国のことに口出ししないでもらいたい。それに、貴殿らがいるのだから、この女一人くらい処刑しても問題ないでしょう」
「ひっ!!」
国のことに口出しをするなと言いながら、ロズイエの救済は当然のように受け取る。
ティナを処刑するなんて恐ろしいことを口にするこの人は、本当にオスタシスの上に立つ人間なのか。
「彼女の力が薄れているというのは本当のことですわ。それも、うちの聖女の調合したハーブを摂取すれば元に戻ることでしょう」
そんな国王陛下にも毅然とした態度で臨むお義母様。
「ほう、聖女とは、そこの『魔女』のことを言っているのではないですよね?」
「彼女は魔女ではありません。れっきとした聖女です」
ジロリ、と向けられた陛下の目線に恐縮すると、すぐにお義母様が目の前に立ちはだかってくれた。
オリヴァー様も私の肩を抱き、すぐ側にいてくれている。
「私は魔女ではなく、聖女であるあなたにご助力を申し出たはずですが?」
「いえ、彼女のハーブがなくては聖女の力など無意味ですわ」
お互いが睨み合うように、会話が平行線になる。
こんなことしている間にも、オスタシスは……!
ピリピリとした空気の中、一人焦っていると、急に謁見の間がバタン、と開いた。
「陛下、大変です! 王妃殿下も病に倒れられました……!」
「何だと……!」
王宮の騎士によって王妃様までもが倒れたことが告げられた。
病はそこまで迫っている、そう思ったのか、国王陛下はこちらを見ると、口を開いた。
「そういうことだ。魔女でも何でも良いから、早く何とかしてくれ」
頼む立場だというのに、何と不遜な態度なんだろう。でもお義母様は顔色を変えずに、にっこりと告げた。
「かしこまりました。でも、陛下。国民が先ですわ」
「何だと?!」
「では、陛下の許可もいただいたことですし、準備に取り掛かりましょう、エルダーちゃん」
「は、い」
「まて!」
にこやかなお義母様に返事をして、謁見の間を出ようとした時だった。
私たちは騎士たちに囲まれてしまった。
「私の妻と息子が先だ……! 治さないというのなら、ここから出さず、ロズイエには首だけを返すことになる」
陛下は目が据わっている。よほど追い詰められているのか。
「そんなことしたら、国際問題になりますわ」
「どのみち、オスタシスは終わる!」
お義母様の言葉に陛下が声を荒げた時。再び謁見の間の扉が開かれた。
「いい加減にしてください! 父上!」
「アーヴィン?!」
謁見の間に入って来たのは、オスタシスの第一王子、アーヴィン様だった。
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