第11話 結婚式です

「まああ、綺麗! エルダーちゃん!」


 結婚式当日。


 沢山のメイドに準備を整えられていると、王妃様が控室にやって来た。


「ありがとうございます、お義母様」


 王妃様は、ニコニコと着飾られていく私を眺めていた。


「お嫁さんが来るってやっぱり良いわねえ」


 頬に手を付いて、ほう、と息を吐くお義母様は本当に嬉しそうだ。


 いつかは離縁される私だけど、母と呼べる存在に、心が温かくなるのを感じていた。


 こんなに優しくて素敵な王妃様なら、オリヴァー殿下のお相手も受け入れられるんじゃないかしら?


 そんなことを考えていると、お義母様が後ろに回って、鏡越しに話しかけてくる。


「これ、お嫁さんのために作らせているやつなのよ」


 そう言うと、私の首に手を回し、赤く輝くルビーのネックレスを付けてくれた。


「赤い髪はロズイエ王家の証。その赤を身に付けるのは、お嫁さんの証」


 お妃様はそう言ってウインクすると、自身の首元を指さした。


 王妃様の首元にも、ルビーの石が付いたネックレスが輝いている。


「これであなたもロズイエ王家の一員ね」


 嬉しそうに微笑む王妃様に、家族として迎えられ嬉しい気持ちと、将来出ていくつもりなのに、という申し訳ない気持ちで複雑になった。


 ん?赤はロズイエ王家の証?


 大事な何かを忘れている気がする。


「お時間です」


 もう少しで何か思い出せそうだったのに、ロジャーの呼び声で、思考は途絶えてしまった。


「さあ、行きましょう?」


 王妃様に手を取られ、私は椅子から立ち上がった。


◇◇◇


 私は、真っ白なウエディングドレスに身を包み、聖堂の前までやって来た。


 オリヴァー殿下にお会いするのはこの結婚式が初めてということになる。


 予め手紙を送っておいたけど、返事は無かった。ロジャーからはきちんと渡した、とこっそり教えてもらった。それならば、後でお返事もしくはお話出来る機会もあるだろう。


「また後でね」


 私のベールを下ろし、微笑むと、王妃様は先に中に入って行かれた。


「では、いってらっしゃいませ」


 ロジャーの合図で、聖堂の扉が開かれる。


 中にはロズイエ王国の重鎮が一同に会し、その目は一斉にこちらに向けられる。


 私は一気に緊張が高まるのを感じながらも、真っ直ぐに歩き出した。


 目的地には、赤い髪のオリヴァー殿下らしき方が、白い正装服に身を包み、神父様の方を向いている。


「聖女様だ」「おお、聖女様」


 真っ直ぐに歩く途中、そんな声が横から聞こえた。どうやら歓迎されているようで安心した。


 列席の一番前には、国王陛下とお義母様がいる。


 お義母様はこちらを見て、ひらひらと手を振っている。


 昨日出会ったばかりの方なのに、温かいその見知った笑顔に、緊張も少しほぐれた。


 そしてオリヴァー殿下の横にたどり着く。


 遠目からは赤く見えた髪の色は、近くで見ると赤みがかった茶色で、キラキラと輝いて見えた。


 私はこの髪の色を知っている。


 よく見ようと、オリヴァー殿下の方に顔をやると、神父様の言葉が始まってしまった。


 慌てて前を向き直す。オリヴァー殿下はこちらを見向きもしなかった。ただ真っ直ぐに前を向いている。


 お互いに神父様からの祝福を受け、誓いのキスを促される。


 そこでやっとお互いに向き合う。


 ロズ!!!!


 向き合った所で私は確信した。


 私の大切な常連さんで、友人。少し気になる人。


 いつも見ていた綺麗な髪を見間違えるはずは無かった。


 ……どうしてロズが……


 ロズイエの商人の家の息子ではなかったの?ロズが第二王子殿下?!ロズではなく、オリヴァー殿下だった?!


 パニックになった私は固まってしまった。


 ベールをかけている私の顔は、オリヴァー殿下には見えない。


 私の様子をおかしく思ったオリヴァー殿下は、首を傾げると、優しく耳元で囁いた。


「すまない、我慢してくれ」


 そう言うと殿下は、ベールを上げる行程をせずに、そのままベール越しに私に口づけをした。


 前代未聞の誓いのキスに、場内はざわついたけど、私はロズがオリヴァー殿下だったという真実と、ベール越しとはいえ、初めてのキスの相手がロズだということに頭がパニックで、それどころではなかった。

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