第17話1.17 飽きないのかな
「くっそ、もう少しで理想の着水が出来るはずなのじゃ」
マモルやルミナの介入する暇もなく連続で何十回と滑ったシラユキが熱く語る。
「そうですか。頑張ってください」
マモルは笑顔で返しながらも内心では、ゆっくり休みたかった。
――人が滑るところ見ているだけじゃぁね。眠い……
睡眠の足りていないマモルはあくびをかみ殺す。そんなマモルが、ちらりとルミナへ目をやると――彼女は寂し気にマモルを見ていた。
――そういえば、今日は起きてからずっとしてないな
ルミナの視線を勝手に理解したつもりのマモルは彼女を連れて木の陰へと移動する。
「遅くなってごめん」
軽く頭を下げてから唇を重ねた。
「ん!」
いつものようにキスを始めたマモルは驚いていた。
なにしろ、伝わる体温が、肌と肌の触れ合う面積が、普段と段違いなのだ。ルミナは布面積の少ないビキニ姿だしマモルもトランクス型の水着一枚だったのだから。
――刺激が強すぎる
マモルはルミナを引きはがそうと肩を掴もうとする。だが、その肩すら素肌だったため戸惑ってしまったマモルは手をワタワタさせるしか出来ない。
そのうちに、ルミナの方から離れていった。
「あ……」
離れないといけない! と思っていた温もりだったが、いざ離れてみるともったいない気がしてしまう。マモルは温もりを求めて手を差し出した。
「す、滑りに行こうか」
「は、はい」
赤い顔して頷くルミナと手を繋ぎ、ウォータースライダーの最上部へと戻る。そこではシラユキがにやにやと笑みを浮かべて待っていた。
「おらぬと思ったら、何をしておったのじゃ。ククク」
「ちょ、ちょっと打ち合わせしていただけです」
「ふふん、そういう事にしておいてやるのじゃ!」
キスしていたこと完全にばれている、と顔をひきつらせたマモルは無理やり話題を変えることにした。
「そ、それより、ウォータースライダーはもうよろしいのですか?」
「うむ、完璧じゃ。どんな体制で滑っても着水に失敗するとこはない!」
「それはすごい」
どや顔で胸を張るシラユキへ向けてマモルとルミナは拍手を送る。
しばらくは喜んでいたシラユキだが、次第に不満顔へと変わっていった。
「ところでマモルよ。我を楽しませる遊具はこれで終わりなのか?」
「ひょっとして、飽きてしまわれましたか?」
「そうじゃのー。これ一つではのー」
「なるほど、なるほど。でしたら、こちらを――」
マモルは頷きながらスマホ型端末を操作し始める。するとウォータースライダーの隣、何も無いはずの空間が光り始めた。
その様子を逐次確認しながらマモルは操作を続ける。
やがて――
空中を水が流れ始めた。
「な、なんじゃ?」
「同じです。ウォータースライダーです。ただし、透明の」
「ほほぉ。ワクワクするの!」
にやりと口角を上げたシラユキが透明のウォータースライダーへと突撃していく。
すると、「うぉ、今度は曲がるのかー!」とか「コースが読めんぞー!」などの絶叫が聞こえた。
そして、どぼーーーーん! と普通のスライダーと同じ温水プールから着水音が聞こえる。その直後!
「くくく、これは、難しいが、楽しいの! くくくはぁーはははっ!」
悪の帝王のような笑い声を上げながらシラユキが飛び上がってくる。そしてすぐに、それこそマモルが口を開くよりも早く再びウォータースライダーへと消えていった。
「凄い食い付きだな」
「シラユキ様、怖くないのでしょうか?」
「竜族にとっては空中も怖くないんじゃない? 一応、水が見えているから下があるのも分かるだろうし」
「そういうものなのですね」
ルミナは少し首を傾げつつも納得したようだった。
「ところで、この透明なウォータースライダー、材質は何で作っておられるのですか? 何もないところから出現したように見えましたけど」
「ん? 分からないかい」
「真っすぐな方は、木で出来ているのが分かるのですが、透明な方は見当が付きません」
「そうか、まぁ、もったいぶっても仕方ないから素直に言うよ。これは積層フィールドで作っているんだ」
「積層フィールド、ですか。スカイハイランドを外敵から守るために設置されていた壁の――」
「そう、それ。今のところエーテル不足で、とても島全体は覆えないけど局所的になら使えるみたいだったんで、流用してみたんだ。遊具にね」
「……思い切ったことをなさいましたね」
防衛設備を遊びに使うという自身では思いつかない発想にルミナは驚きを隠せない。
マモルは、そんなルミナに提案した。
「さ、シラユキ様はあっちで楽しんでいるみたいだし、俺達は普通のスライダー滑ってみようか?」
木で出来た真っすぐのウォータースライダーを指さしたマモルはルミナに笑いかけてから滑り始めた。
ウォータースライダーはマモルの想像よりもスピードが出た。白竜であるシラユキが楽しめる様にと斜度をきつくしたためなのだが、ルミナと話をしていたマモルはすっかり忘れていた。
その結果、スピードコントロールを誤り着水に盛大に失敗し――湯船に沈んだ。
「うぇ、ぺ、ぺ、水飲んじゃった……」
溺れそうになったマモルが水を吐きながら縁から顔を出す。
そこに。
「自分で作っておいてなんじゃ、その滑りは、くくく」
シラユキの嘲笑が聞こえてきた。マモルの滑りを見るために、透明スライダーの着水後わざわざ待っていたようだ。
「作っておいてなんですが、私には急すぎます!」
「ぶわっはははははーーーー!」
マモルの弱りきった顔が面白かったのかシラユキは大爆笑を始める。
そこにシラユキ以上の大声が響いた。
「きゃぁあああああああ!」
スライダーを滑り始めたルミナの悲鳴だった。
初めて滑るためかスピードを一切コントロールできていないルミナは、マモル以上の速度でウォータースライダーを駆け下りてくる。やがて、スライダーから放り出されたルミナは、ドボン! と頭から水面に突っ込んだ。
「ルミナ、大丈夫⁉」
マモルはルミナの元へ駆け寄り水中から助け上げて、目をそらした。
ルミナの上半身にあるべき布が失われていたから。そう、大きなオッパイがモロ出しだったのだ。
「ま、マモル様。す、すみません。スピードの押さえ方が分からなくて……」
「うんうん、だろうね。俺でも難しかったから――というか、あの、早く隠して」
「何を、ですか」
言いたいことが分からないのか首を傾げるルミナの胸元をマモルは指さす。
ルミナはマモルの指さす先を見て――
「きゃぁああああ‼‼‼‼‼」
スライダーの時よりも、さらに大きな悲鳴を上げ湯の中に座り込んだ。全力でマモルを押し飛ばした後で。
「ご、ごめん」
「いえ、私こそ申し訳ございません。無我夢中で押してしまいました」
騒動からしばらくしてマモルとルミナは互いに頭を下げていた。
「俺の方は大丈夫だよ。ちょっと縁で頭打っただけだから」
「わ、私の方も大丈夫です。それで、あの、見ましたか……」
何がとは言わないルミナだがマモルには全て伝わったようで。
「ごめん」
マモルは再び頭を下げる。すると、真っ赤になったルミナはどこかへ走って行ってしまった。
恥ずかしさが限界を超えてしまったようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます