第11話1.11 おもてなししてみる
ギシャアアアアアアアアア‼
スカイタワーが揺れるほど大音量の鳴き声を出しながら白竜は近づいてくる。
その姿を見たマモルもルミナも焦っていた。
「どうすんの、これ本当に島にとって脅威だね。しかも、物凄く怒っているみたいだ。ルミナのエーテル砲で何とかならない?」
「む、無理です。あのサイズの生き物に私一人分のエーテル砲など、当たったことも気付いてもらえないほどかと」
「確かに。あの白竜からしたら人間なんて蟻ぐらいの大きさだもんな」
「ど、どうしましょう」
オロオロと不審な挙動をするルミナを見て、マモルはだんだんと落ち着いてきていた。
「うん、ちょっと気持ちを落ち着けようか」
「はい」
「人語を理解できるなら、まず話をしてみるしかないんじゃないかな。何か誤解があるかもしれないし」
マモルの提案を聞いていたルミナが物凄く渋い顔をしながら頷く。
――気持ちは分かる。でも、これしかないよな、戦っても絶対勝てないだろうし
マモルは震える手でスマホ型端末を操作して音声を外部スピーカーへと繋いだ。
ギシャアアアアアア!
鳴き声でガラスがびりびりと震える。そんな中、マモルは覚悟を決めて呼びかけた。
「あー、あー、白竜様聞こえますか。白竜様聞こえますか」
ギシャアアアアアア! ギシャアアアアアアアアアアアア!
変わらず強烈な鳴き声を発して島の上を旋回する白竜へマモルはさらに呼びかける。
「もしもし、白竜様? どうしましたか? 何をそんなに怒っておられるのですか? 訳を聞かせてください」
すると。
『うるさいのじゃ! 我と話をしたいのであれば姿を現すのじゃ!』
頭がくらくらするほど強烈な思念のような何かが脳内に届いた。どうやら、話しかけた相手を探しているようだった。
――どっちがうるさいんだよ……
マモルは内心で毒きながらも頭を押さえて蹲っているルミナが心配で膝をついて彼女の背中へ手を置いた。
「大丈夫?」
「はい、私は大丈夫でございます」
青ざめた顔を上げてルミナは、ぎこちなく笑みを浮かべる。
「そう、なら、俺はちょっと外へ出て話をしてくるよ」
マモルはそう言って立ち上がった。
「ま、マモル様。いけません。外に出るなど、危険です!」
「うーん、でも、話をしないとね。直接なら話聞いてくれるそうだし」
「ですが……」
よろよろと立ち上がったルミナが心配そうにマモルの手を握る。
「じゃぁ、一緒に行く?」
「……分かりました」
マモルの提案に悩んだ末、ルミナは頷いた。
――よかった。自分だけで行くって言いださないで
ルミナが提案を受け入れてくれたことにマモルは安堵していた。実のところ、マモルは今のスカイハイランドにとって一番大事なのは膨大なアストラルを持つ自分だということを認識していた。
エーテル結晶を作るという意味でルミナは必要だが、実のところルミナでなくとも構わない。代わりに眠っているアンドロイド族を起こせばいいだけだった。どんな婆さんが寝ているかも知れないけど。でもたったそれだけで、状況は大きく変わらないはずであった。
だが、マモルは嫌だった。自分の身を守るためにルミナを、好きな女性を、盾にすることなど考えたくもなかった。
何かあった時には、マモルが盾になるつもりだった。白竜がその気になればマモルが盾になろうとも、ルミナともども一瞬で消されると思うが。
二人で手を繋いで展望台の屋根の上へ登るための点検修理用の通路螺旋階段を進んでいく。
そして登り切ったマモルは一つ深呼吸をしてから階段終わりにある扉を開けた。
その時。
「ひっ!」
見えた光景に驚いたルミナは小さく悲鳴を上げた。真ん前に巨大な白竜の顔があったから。
いつの間にか白竜は着陸しており、しかも出てくるところを知っていたのか扉をぎろりと睨んでいた。白竜にとってはただ見ていただけかもしれないけれど、マモル達には、そう見えた。
間近で見る白竜の顔は翼竜など比較にならないほど大きかった。目玉だけでルミナの身長と変わらないのでは? と思ってしまうほどであり、口に並ぶ牙はスカイタワーを一噛みで砕いてしまいそうなほどの大きさだった。
白竜の迫力に負けないようにマモルはルミナによって強く握られた手に力を入れながら無理やり口角を上げた。
「初めまして。白竜様。ようこそ、スカイハイランドへ。今日は、どのようなご用件でしょうか?」
なるべく丁寧にマモルは問う。すると、しばらくの間じっとマモルを見つめていた白竜から頭の中に直接答えが返った。
『…………用件か。特にないのじゃ。強いて言うなれば――退屈しておった、じゃの』
「なるほど、退屈ですか」
『そうじゃ。退屈じゃ。我ほどになると対等に戦えるものもおらんのじゃからの』
「ははは、戦いがお好きなのですか?」
『ん? ……好きか、と言われると――微妙じゃの。刃向かってくる馬鹿を叩きのめすと気持ちはいいが、それだけじゃの。それよりも、この島を落とした方が楽しいかもしれんのじゃ』
軽く口を開けた白竜からの物騒な言葉を聞いたマモルは背中に冷たい汗が流れるのを感じる。
――やばい! 何とか興味を逸らさないと。でも、どうすれば……
考えるが、すぐにいいアイデアなど思いつかない。結局、白竜自身に聞くしかなかった。
「そうしましたら、白竜様は何か好きなことはございますか?」
『ふむ。考えたこともないのじゃ。しばし待つのじゃ』
マモルの質問に対して白竜は目をつぶって考え始める。そこに、ルミナが耳元で話しかけてきた。
「ま、マモル様。大丈夫なのですか? 問答などせずに、早めにお帰り頂いた方が良いのではないでしょうか。島を守るために」
「うーん、そうなんだけどね。折角来たお客さんなんだ。エーテル補給のためにも持て成した方がいいかと思って」
「危険です……」
ルミナは不安そうな目をマモルに向ける。
――まぁ、気持ちは分かるけど、島を落とすってのは冗談だし……多分、ここはちょっと冒険した方がいいと思う
内心で考えながらマモルは再び白竜へ笑みを向けた。
『話は終わったか?』
白竜はマモルとルミナを見つめる。二人にとっては、たったそれだけで背筋に冷たいものが走った。
「え、あ、はい。お待たせして、すみません白竜様。好きなことは見つかりましたか?」
『うむ、我は美味いものが食べたいのじゃ』
「美味いものですか。ちなみに普段の食事は……」
『ん? 今朝は、焼いた肉じゃったの。昨日――も焼いた肉じゃ。その前は――焼いた魚? じゃったかの、そのもう一つ前は――?』
白竜は巨大な首をひねって悩み始める。マモルは慌てて両手を振って止めさせた。首を捻るたびに強風に襲われてルミナが飛ばされそうになっていたから。
「あー、もう結構です。分かりました。では、お食事を用意いたします。そこで、もう一つ、食べられないものは?」
『無いのじゃ』
白竜は即答した後。
『食事なら下で待っておるのじゃ』
そう言い残して姿を消した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます