第10話1.10 方向性を考えてみる
スカイハイランドには、いくつかの主要な建物がある。
まず一つ目は今、マモルが暮らしている、『創造主の館』だ。この館は簡単に言えばかつて創造主が住んでいた建物だ。シンプルながら凝った作りのため、近年は迎賓館しかも最重要人物用として使われているそうだった。
マモルの扱いが窺い知れる建物だった。
次に挙げられるのが『スカイキャッスル』である。
マモルがこの世界に来た時に見惚れた景色の中にあった白亜の城だ。場所としては『創造主の館』の横に立っており、かつてはアンドロイド族の王族が住んでいた建物でもある。ただ、今はエーテル節約のため機能のほとんどを停止させており、マモルも一度行ったきり近づいていない建物だった。
それ以外では、ルミナが毎日祈りに行く『礼拝堂』と――スカイハイランドで最も高い建物である、『スカイタワー』があった。
「今日はどちらに?」
「そうだな。いつものように、まずはスカイタワーへ行こうか」
スカイハイランドにルミナしかいないと知ってからマモルは積極的に島の様子を見て回っていた。
以前のように翼竜が現れて核を手に入れるチャンスを逃したくないので――とは言っても、島には雪をかぶった山も、先の見通せない森も、多くの水をたたえた湖も、だだっ広い草原もある。とても自分の足で見て回れるような広さではなかった。
だからこそマモルはスカイタワーへよく足を延ばした。
「あそこなら島のほとんどを見渡せるしね」
「では」
歩きながらルミナは指輪型端末に手を添える。するとルミナの前に操作パネルが現れた。
「便利だね。歩いていてもパネルは付いてくるんだから」
「創造主様が作られたものですから」
にっこりと微笑みながら、ルミナは操作を続ける。しばらくしてスカイタワーの方から音が聞こえ始めた。
「扉が開いた?」
「エレベーターも起動させました」
「ありがとう」
エーテル節約のためにスカイタワーも普段はエネルギー供給を停止していた。そのスカイタワーを起動させる。実は、これも以前のルミナではできないことだった。
「いえ、礼を言わないといけないのは私の方です。日本語が読めるようになったおかげで操作が分かりましたから」
少しずつ進めている日本語教育の結果だった。
背後で頭を下げる気配を感じたマモルは、何てことないよ、と手を振り返す。
やがて二人はたどり着いたスカイタワーのエレベーターに乗り込んだ。
「エーテル結晶、作成」
エレベーターを降りたマモルの後ろでルミナは小声でつぶやいた。エレベーターの中で取り込んだエーテルを結晶化するために。
その後、展望台で望遠鏡をのぞくマモルの元へと駆けつけた。
「お待たせしました。マモル様」
「大丈夫だよ、ゆっくりしていていいよ。一通り見ていくから」
「はい」
了承しながらもルミナはマモルの側から離れない。まるでマモルの側が最もゆっくり出来る場所である、と言っているかのようであった。
「しかし、いつ見ても雄大な景色だね」
「そう、でしょうか?」
「ははは、ルミナは生まれてからずっと見ているから思わないだけだよ。空に浮かぶ島、雪帽子の独立峰、白亜の城、どんなアミューズメントパークに行っても見られない景色なんだから」
望遠鏡から目を離しマモルは肉眼で景色を眺める。
そんな中、考えることはエーテルをどうやって恒久的に賄うかということだった。
――俺がいる間はいいんだけどな
膨大なアストラルを持つマモルと、そのアストラルをエーテルへと変換できるルミナがいれば大丈夫だが、それは綱渡りに近かった。
――どちらかが欠けると終わり
病気、怪我、どれだけ超科学があろうとも何が起こるか分からない。
だからこそ、マモルは考える。
――ここをリゾート開発したら、人が途切れることないだろうな。そしたらエーテルを賄える
生きている限り、普通の人ならアストラルを含んだ体液を少しずつ体外に出していく。ゆえに人がたくさんいるだけでエーテル補給が可能だった。客などいるはずもない現状では、まさに絵に描いた餅たが。
「どうかされましたか?」
考え込んでいたマモルをルミナが心配そうにのぞき込む。
「いや、焦っても仕方ないんだけどね。少し先のことを考えていた」
「先、ですか」
「ああ、ルミナと幸せに暮らすためのね」
「!」
目を見開くルミナ。マモルはそんなルミナの手を取る。するとルミナは目を閉じて――二人の唇が近づいていく、その時!
ウゥウウウウウ、ウゥウウウウウ‼‼
『緊急事態発生。スカイハイランドの脅威となる生物が接近中』
不快なアラームと共に急を告げるアナウンスが流れ始めた。
「脅威となる生物? 翼竜とか?」
アラームが一段小さくなったところでマモルが首を傾げる。ルミナは首を横に振った。
「いえ、翼竜ではこのような警告音は鳴りません。もっともっと強大でスカイハイランドそのものを破壊できる生物だと思います」
「いるの? そんな生き物」
「はい。竜族とか……」
「ああ、そういえば読んだな。最大の生命体だって」
「はい。最強の種族です。人語を理解する知性を持ちながら凶暴だと、本には記載されています」
「俺の読んだ文書にも似たようなことが書いてあったな。というか、その近づいてくる生物って、ここから見えないのか?」
竜族の姿を思い出しながらマモルはスマホ型端末を操作し始める。すると展望台を覆っていたガラスの一部がモニターとなり映像が表示された。
そこには。
「なんつーデカい牙だ」
「真っ白ですね」
翼竜など比べ物にならないほど巨大な白竜が映し出された。
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