第9話1.9 問題を整理してみる
マモルが異次元の世界『タランテイウム』に転移してきたと知って一週間が経っていた。
その間、マモルが何をしていたかというと、ひたすらパソコンに噛り付いていた――が決して溜まりに溜まった仕事をしていたわけではない。
アンドロイド族の、いや、ルミナの苦境を救う方法を調べていたのだ。パソコンを使って。
最初の時、マモルは気づいていなかったがパソコンの電源を繋いで立ち上げた瞬間にスカイハイランドの端末の一つとして認識されていた。しかも全ての情報にアクセスできる上位管理者権限を持った端末として。どういう訳か地球産の端末は全て同じ権限を与えられるようにシステム設定されていた。
端末化していることを知ったのは後腐れなく仕事のファイルを全て消去するためにパソコンを立ち上げた時だった。
合わせて現状はエーテル不足で屋敷周りの最低限のシステムだけしか稼働していことも知った。それでも中央のシステムは動いていたため、スカイハイランドの設計図や創造主が残した文書なども共有されているものは閲覧が可能となっていた。
マモルは一週間かけて、それらの文書を読み解き、自分用のメモを作っていた。
・創造主について
“日本人。アニメ好き”
“アストラルが膨大→俺と同じ”
“運動能力が高かった→俺も同じか? 要検証!”
・スカイハイランドについて
“浮遊鉱石で浮いている。エーテルが切れると島の周りが崩れ、落下ではなく上空へ登っていく→ラピ〇タと同じかよ。本当に好きだね⁉”
“エーテルをエネルギー源とした超科学とも言える設備が眠っている→整備不足、起動は慎重に。でも温泉は早めに動かしたい”
“島を外敵から守るバリア的な物がある。最近まで動いていたがエーテル不足が深刻になったため動作停止中→翼竜が侵入してきたのはこれのせい”
“神の裁きと呼ばれる兵器がある→やばいやつ、絶対に使ってはいけない”
“滅びの言葉製作は断念した→当然だろ! 自爆がロマンとかいらないから‼”
“エーテル補給はエーテル結晶が最も効率的”
“魔物の核でもエーテル結晶の代用可能”
“他に動物の排泄物や死体に残された低濃度アストラルからでもエーテル補給可能、ただし効率が悪い→アストラルとエーテルって何なんだ、詳細不明”
・アンドロイド族について
“創造主によって作られた人工生命”
“実際に人工的に作られたのは初代のみ。以降は子供を作って繁殖”
“初代は創造主との間で子供を作った→ってことは俺も……”
“取り込んだ動物のアストラルをエーテルへ変換できる”
“アストラルは食べることにより取り込み可能→キスじゃなくて、実は食べられている……怖!”
“エーテル砲と呼ばれるエネルギー砲を発射可能。ただし、体内エーテル量が少ない時は不可。死に至る。→あの時のキスは長かった。多分、理由はこれ?”
“濃い体液を注入することでアストラルを譲渡できる→これ、ルミナには言ってはいけないやつ。絶対‼”
・異次元の世界、タランテイウムについて
“魔物が跋扈している→翼竜だけじゃなく、人間を襲う化け物が多数生息”
“最大の魔物は竜。人語を理解するほどの知能を持つが好戦的→スカイハイランドに住んでいたらしい……本当か?”
“二足歩行の獣や地球ではおとぎ話にしか存在しなかった知性を持つ種族が多数生息→いつか会ってみたい”
“人間以外の知的生命体を魔族と呼び領土争いをしている→古い情報。現状は不明”
「今、分かっているところは、こんなものか? 追々読んでいく必要があるが……」
マモルはメモを見返し終えて一息つく。
そこに――トン、トン、トン、ノックする音が聞こえた。
「入っていいよ」
誰、とも問わずにマモルは即座に許可を出す。だが、ノックをした人物はすぐには入ってこない。代わりに声がした。
「マモル様、ルミナです。お茶いかがですか?」
「もちろん飲むよ。入って来て」
またしてもマモルはすぐに返事をする。それで、ようやくルミナは扉を開けて部屋へと入って来た。手に、お茶と茶菓子が乗ったトレイを持って。
「ルミナ、二人しかいないんだからもっと気軽に入っていいよ」
「いえ、そうはいきません。きちんと手順を踏まなければ」
少し口を尖らせて反論するルミナにマモルは。
――最初のころは、勝手にベッドの上に乗って来ていたのに
内心では呆れるが口には出さない。ただ苦笑いだけを浮かべた。
その間にもルミナは、お茶の準備を進める。そして。
「失礼します」
マモルの前にお茶とお菓子を置いた。
「ありがとう」
礼を言う客に対して普通のメイドなら一礼して下がる。だがルミナは違った。何かを待っていた。目を閉じて。
またしても苦笑を浮かべたマモルはルミナに手を伸ばし抱き寄せ――唇を重ねた。そう、ルミナは礼の言葉よりもキスを希望していたのだった。
「隣、失礼します」
しばらくして、エーテル結晶を作り終えたルミナは自らも椅子に座ってお茶を飲み始めていた。
「今日の作業は終わったの?」
「はい、掃除、洗濯、創造主様へのお祈り、作成したエーテル結晶の投入、すべて終わらせております」
「そうか」
投入したと聞いて、どれだけエーテル残量が増えたかとマモルはパソコンで確認する。見えてきたのは。
『危険! エーテル残量、2%未満。至急避難してください』
相も変わらない数字だった。
「あー、変わらないか」
「すみません。ご協力いただいているのに」
「ルミナのせいじゃないから、気にしなくていいよ」
「はい」
表情を暗くするルミナにマモルは懸命のフォローを入れる。だが。
「しかし、先は長そうだね。のんびりやるしかないのか……」
漏れる言葉は暗い物だった。
「今日は、18個のエーテル結晶を投入しました」
「昨日は、20個ぐらいだったっけ」
「はい、平均20個ぐらいかと」
「ということは、これまでに140個ぐらい入れた計算だね。それだけ入れても変化なしか。2%にはすぐに上がったのにね」
「そうですね。ですが、1%未満という表示では小数点以下の数値が分かりません。それに、魔物の核もありましたし」
「なるほど。翼竜の核か。俺は見てないけど大きかった?」
「はい。機械が解体した後に見ましたが、これぐらいはありました」
ルミナが両手の指を目一杯広げて球を作る。
「それほどか。エーテル結晶10個以上ってことだね」
「はい。大きくなればなるほど密度も上がるはずですので、実際はそれ以上かと」
「数十個分か――ずっとキスしてないといけないね……」
「はい……」
苦笑を浮かべるマモルに対してルミナは嬉しいのか悲しいのか分からない表情を浮かべる。
そんな中。
――実際、これ以上キスの回数を増やすのは無理だ
ルミナとキスをするのが嫌なわけじゃないが、とマモルは手に茶菓子を持ちながら考えていた。
20個のエーテル結晶を作るためには20回キスしている計算だ。ただし、唾液の量が少なかったりすると、一つのエーテル結晶を作るのに複数回する必要がある。
起きている時間で割ると30分に一回ぐらいしている計算だ。
――ルミナの方にもいろいろ制限があるみたいだし
時間当たりの作成回数に限界があるとのことだった。だからといって、キス3回分を一つの結晶に、というのは出来なかった。キス、つまりは唾液で得られるアストラルの濃度では大きさもピンポン玉サイズが限界ということだった。
――解決方法があるにはあるが……
つい先ほどシステムの中で読んだキス以外でアストラルを渡す具体的な方法を思い出す。
それは――
『血もしくはそれに準じた濃い体液を直接注入する』
という記載だった。
――血は短期的にはいい。だけど毎日は無理だ。俺が本当に死ぬ。毎日と考えると……
マモルは視線を下に向ける。そこには、若返って元気になったシンボルがあった。毎晩のように自分で処理しているにもかかわらずキスしただけで元気になる困ったヤツが。
これを使えば濃いアストラルを渡すことが可能だと推測された。
さらには。
――ルミナは絶対に断らない!
マモルがベッドに誘えばルミナは二つ返事ですべてを受け入れてくれる。ルミナの態度を見ている限り、それは間違いがなかった。
だからこそマモルは言えない。いくら見た目が若返ったとしても、中身は大人というよりおっさんだ。ルミナみたいな素直で良い娘をエーテル結晶のために誘うなんて無理だった。
――据え膳食わぬは男の恥、とは言うけど
「食えるか!」
思わずマモルは天井に向かって叫んでいた。すると、そこに悲し気な声が届いた。
「今日のお菓子はお口に会いませんでしたか? 機械ではなく手作りしてみたのですが……」
「いや、いやいや、お菓子の話じゃないよ。うん、おいしい」
勘違いだよ! とマモルは懸命にルミナが作ってくれたクッキーを食べながらフォローを入れる。
「でしたら、何が食べられないのでしょうか?」
「いや、それは、何でもない……」
ルミナから顔を背けるマモルだが、その視線は良く育っているルミナの体から離れいない。未練たらたらだった。
――ダメだ。せめて他の方法でエーテルを補給できる方法を確立してからでないと!
首を横に振り邪念を振り払ったマモルは気持ちを切り替える。
「見回り、行くか」
立ち上がって歩き出す。ルミナは二つ返事で後に続いた。
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