第8話1.8 やっぱりもうちょっと抑えて欲しいかも?

「すると、ルミナは俺が寝てる間にもキスしまくっていたと」

「はい。申し訳ございません」


 マモルの膝の上に座っているルミナは恥ずかしそうに顔をそらした。3個ほどエーテル結晶を作った後、食堂に行くとき聞いた『自分を止められなくなる』発言についてマモルが問いただした答えだった。


「いや、まぁ、結果オーライでいいんだけど、そうか」


 いくら寝ている時とは言え、気づけよ、とマモルは自分を間抜けに思う。


「ってことは、初めて目覚めた時も?」

「はい。しておりました」


 目覚めた瞬間に美少女の顔が目に入って驚いていたが、何のことはない、その前にもっと驚くべきことをされていたということだった。


「分かった。とりあえず、今日からは起きている間に」

「はい」


 ルミナは恭しく頭を下げる。


「しかし、アンドロイド族の人って、みんな、そうやってキスしまくっているの?」


 いくらエーテル結晶を作るためとは言え、西洋人よりもキスしまくる文化は日本人にはちょっと受け入れがたいな、と今更ながらにマモルは考える。

 だが、大丈夫そうだった。


「いえ、そんなことはございません。通常、恋人や夫婦、親子、姉妹ぐらいでしょうか」

「西洋人並だな。それなのにルミナは……」

「それは、マモル様だからです。マモル様のアストラルはとても綺麗で、ひとめぼれしました。他の人ならしませんでした」


 顔を真っ赤にしてルミナが反論してくる。マモルは少し意地悪することにした。


「アストラルだけで決められても……」

「分かっております。姉様にも言われておりましたし、昨日までの態度には自分を律するだけでなく、マモル様を見極めるという理由もあったのです」

「ふーん、普通、あんな態度されたら嫌うと思うけど……」

「そうだと思います。ですが、それでもマモル様は私を助けてくださいました」


――極端な子だな。嫌いな人間でも命の危機を感じたら助けると思うけど

 

 マモルは苦笑を浮かべるだけで口にはしない。本当に嫌いだったら助けるために少しは戸惑うかもしれないなと、続けて思ってしまったから。

 そして少し返事までの間が明いただけで塞がれる唇。


――確かに、初対面でこれだったら怖くなって逆に嫌ってしまいそうだ


 マモルは呆れながらもルミナの侵入を許した。



「ふーん、ここを触るとキーボードが出るんだな」

「はい。ニホンゴが分からない私には使えませんが」

「なるほど、基本はタブレットと同じか。うん、大体わかった」

「よかったです」


 日本語の理解できないルミナはシステムの説明を、しきれないのではないかと心配していたが無事に終わって安堵の笑みを浮かべる。


「ふんふん。端末の種類を選んで、情報登録すると――」


 その間にもマモルはモニターをタッチしたりキーボードで入力したりしながら作業を進めていく。

 しばらくすると壁の一部がすっと開き、中からスマホが現れた。


「凄い、です。新しい端末なのですね」

「ああ、指輪型とか腕輪型とか選択支があったけど、使い慣れたスマホ型にしてみたよ」

「初めて見るタイプです」


 ルミナが、まじまじとスマホを見つめる。


――端末持っているのに何で知らないの?


 マモルはルミナに問いかけた。


「へぇ、それじゃ、ルミナの端末はどうやって手に入れたの? 作ったんじゃないの?」

「はい。これは代々受け継がれてきたものです」

「ん? それで使えるの、なんで?」

「おかしいのですか?」

「ああ、端末は個人登録みたいだったから……」


 マモルはポチポチとモニターに指を這わしていき。


「あ、あったあった、えーっと、なになに、現地語対応特別版か。あーなるほど、分かったよルミナ」


 モニターを見ながら声を上げた。


「ルミナの端末は、日本語が分からないアンドロイド族向けに作られた機能限定の特別版だね。個人登録を省略して誰でも利用できるようにしてあるみたい。だから代々使える」

「そうなのですね。教えていただき、ありがとうございます」

「いや、いいよ。それより、ルミナ専用の端末作ってみない? 使える機能が増えるよ」

「ですが――ニホンゴが読めませんので、不要かと」


 渋るルミナにマモルは語気を強めた。


「日本語なら教えるよ。先のことを考えるなら覚えておいて損はない、というより覚えるべきだ」

「は、はい。お願いします!」

「うん」


 頭を下げるルミナを微笑ましく眺めながらマモルはルミナの専用端末を作るべく、モニターに腕を伸ばした。


「それで、何型にする。慣れているならカチューシャ型がいいかな?」

「いえ、指輪型でお願いします。マモル様からの初めての贈り物ですし」

「え⁉」


 意味深な言葉に驚きを隠せないマモルがルミナへ目を向けると――ルミナは両手を頬に当てて物凄く恥ずかしそうに顔を赤らめていた。


――確かに好きだとは言った。でも、仕事用のタブレットを婚約指輪のような扱いにしなくても……


 マモルは戸惑いを隠しきれない。だが断ることは出来なかった。

 時間を追うごとにルミナの表情が、駄目なのですか、といわんばかりに愁いを帯びてきたために。


「ゆ、指輪型ね。すぐ、設定するから!」

「はい! ありがとうございます、マモル様‼」


 そして出来上がった指輪は、当然のようにルミナの左手薬指に収まり――今日一番の長いキスをすることとなった。

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