第2話1.2 温かいものを感じて目を開けてみる
ぼんやりとした意識の中、マモルは体の上に何かがのっかっている感触を感じていた。
――俺、何してたんだっけ?
夢現な意識の中でマモルは何か大事なことを忘れているような感覚に襲われる。そんな時、唇に何か温かいものを感じた。
「ん……」
なんだろう、この温かさは……そういえば、地面とキスしたような、理解が追い付かないままマモルは意識を覚醒させ始める。そして――
「へっ⁉」
マモルは、目を開けた瞬間に変な声を出した。
目の前の状況に驚いてしまったのだ。目と鼻の先に女性の顔があったのだから。
しかも、ただの女性ではない。近すぎて髪型はよく分からないが、艶のある黒髪、くりっとして大きな黒い瞳、すっと通った鼻筋、薄いピンク色に輝く小さな唇を持つ、100人いれば120人ぐらいが美少女だというぐらい魅力的な女性が、だ。
状況がつかめずにマモルは目をぱちくりする。
「フン、起キタカ」
少女は顔色一つ変えず、その小さな口を動かしてから顔を離した。そして、いそいそとベッドから、いや、マモルの上から降りていく。
マモルが何かが乗っていると思っていたものは少女だった。
ベッドの横にすっと立った少女は来ているシックなメイド服の裾をさっと直して背筋を伸ばした。
すると強調される胸元。背は低めだが、出るところは出て引っ込むところは引っ込む理想的な体系だった。
――はぁ~、顔だけじゃないな。スタイルもいいし、なにより理立ち振る舞いに気品がある。本物のメイドってすごいな
その姿に感心するマモル。彼の中では一つの結論に達していた。
――目的の国に到着できたみたいだな
と。
社長の説明にあった、王族からの依頼で、しかも美人が多い、という文言に合致すると考えて。
その上でマモルは口を開いた。
「えーっと、助けてくださってありがとうございます。って日本語分かりますか? 英語にしますか?」
「日本語、続ケロ」
美少女メイドはぶっきらぼうながら日本語で返事を返してくれる。マモルは頷きながら考えていた。
――日本語まだ苦手なのかな? 仕方ないよね。この国の母国語が何か知らないけど、聞いたことないような小さな島国みたいだから。気を使ってもらったんだろうな
そう考えると、マモルの顔に自然と笑みが浮かんでくる。
そこに。
「笑ウナ。キモイ」
容赦ない言葉が返ってきた。
「……」
マモルは絶句する。だが、マモルが黙っていると美少女メイドも何も話さない。仕方なく、マモルから口を開いた。
「えっと、すみません。俺の荷物はどこにありますか」
本当は名前を聞きたかった。だが、返ってくる言葉が怖かった。だから、無難な話をする。
結果。
「ソコダ」
美少女メイドは部屋の隅を指さした。
マモルは指さす方へ目をやる。すると高級そうな机の上に、確かにマモルが空中でも必死に握っていたカバンがあった。
だが、それだけだった。飛行機に積んでいたはずのスーツケースがなかった。
マモルは不安になった。
「えぇっと、あれだけですか、他には?」
「アン? イス、必要、カ?」
なんに使うんだと言わんばかりに、美少女メイドは眉根を寄せる。
マモルは手を横に振って否定した。
「いや、座席は要らない。俺が欲しいのは、着替えが入ったスーツケースなんだけど――」
「諦メロ」
早い否定だった。
――そうか。俺は助かったけど、飛行機は海の藻屑と消えたか……
馬鹿なパイロットだったけど死んだとなると悲しい、落ち込むマモルに声が届いた。
「……着替エ、用意スル」
「ありが……」
マモルが返事し終える前には美少女メイドは部屋から出て行ってしまう。
――気を遣わせたみたいだな
マモルは勝手に一人で納得した。
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