第15話 松田光太
「松田。最近明るくなったな!」野球部の監督、須川が言う。
「そうっすか?」しゃがんだ監督がトスしたボールをバットでかっ飛ばす。後輩たちがそのボールを追って走っていく。
「そうだとも。ここ最近、一年の奴らもいうんだよ。『ここ最近、松田先輩が優しすぎて色々と怖い』って」
「怖いのかよ!」俺は苦笑する。監督がまたボールをトスする。ボールは綺麗な弧を描いて、グラウンドの向こうに飛んでった。
「それにしても実際、何かあっただろ」
「まあ。ありましたよ」俺はふと本岡や金町、由や春のの顔を思い出す。友達とは素晴らしいものだと気が付かされた。あそこまで必死になって、互いを信じられるなんてすごいなって、漠然と感じた。俺もそんな仲間が欲しい。単純にそう思って、俺は今、必死にやっている。
「まあ、何があったのかは知らんが、今の松田は良いぞ」
そう言うと監督は立ち上がる。「休憩!」まるで拡声器でも使ったかのようにグラウンドに大きな声が響き渡った。
そういえば今日は、由が本岡に告白するそうだ。ようやくかよと思う。関係って言うのは以外に急発展はしないものなのだろう。だからこそ、人生はじれったいと言うか。
まあ、山あり谷あり、だ。険しい道や、邪悪な砂利道があるけれど。
俺はきっと、ようやく登りがいのある山へと踏み入れれた、筈だ。
「松田先輩!」1年の佐藤が駆け寄ってきた。
「なんだ」俺が聞き返すと、佐藤はにこやかに喋った。
「実は僕、いとこが本岡祐樹って言うんですけど、先輩同じクラスっすよね」
「マジか!お前本岡と血繋がってんだ。世間は狭いな」
「まあ、そうっすね。で、ですね。祐樹くん、松田先輩をめっちゃ感謝してましたよ。クラスメイトを信頼してくれる頼もしい奴だって」
「信頼ね」
そんな器じゃねえよ。俺はしばらく逃げていた。春しかり、由しかりだ。だが、変わった。気持ちを必死に表に出せれば人は変われるのだ。そのきっかけは、最悪なものではあったけれど。
だからこそ、俺は大切にしたいと思った。すべてのしがらみが消えた今だからこそ思うんだ。
今俺が人生を掛けていられるコミュニティー。この野球部のメンバーを大切にしたい。
そう思えたのはな。お前のお陰なんだよ。本岡!
「本岡ってホントに馬鹿だよな」
俺は呟いた。
馬鹿って最高。
最高じゃないか。
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