第11話 風間由

 昼休みはあと半分になっていた。


 「あのさ」私はグループで仕切りの係的なことをしている菅原という女子に声をかけた。


 「どした、由」向かいにいる男子、松田とスマホゲームをしていた。私は少し息を吸ったあと、思っていた台詞を吐いた。


 「悪いけどさ、今日限りでこのグループと友達やめることにしたから」


 すると菅原は「は?」とメンチを切ってきた。まあそうなるよねえと思いつつ、目をそらさないようにした。


 「なに、突然。ねえ、松田、突然仲間はずれの宣言されたんだけど」


 松田は何も言わず私を睨んできた。ああ、ちょっとこええな。そんなことを思いながら話を続ける。


 「えとさ。ざっくりと言うと、菅原たちと私ってちょっと考えてることが解離し始めてると思っていたんだ。だって冷静に考えてみてよ。私たち、あの高橋なんかとつるんでたんだよ。おぞましくない?」


 「は?いやいや。ハッシーは殺された側じゃん。由こそ考えてみなよ。道端で北村と遭遇なんてしたら、ぶっちゃけぶん殴りたくもなるっしょ。ねー、松田」


 そう言っても松田はうんともすんとも言わなかった。おかしいと思った。いつもは調子に載って私の言動に合わせたりしてくるのに、まるで反応がない。まるで死んだような顔をしている。


 「キモすぎだろ」そして突然、ひねり出すように松田は声を出した。


 「だよね。まじでキモ……」菅原がそう言いかけたとき、松田は持っていたスマホを床に思い切り叩きつけた。無惨にもスマホは真っ二つに割れた。クラスの目が松田に集中する。


 「キモいのはお前だよ!菅原あ!」すると松田は立ち上がって菅原を睨み付ける。菅原はびくりと体を震わす。


 「今朝からよ、お前とか工藤が本岡と争ってたけどよ。ぶっちゃけてめえら屑過ぎるだろ。まじで反吐が出そうだった。それでもこのメンツに混じっとこうと考えてた俺もキモいけどもう無理だわ」


 「は?なにいってんの?」菅原は体を後ろに反らしながら言う。


 「北村と高橋がなんで争ったかは知らねえし、高橋が死ぬべきだったとは思わないけれども。聞いたろ?最初に襲ったのは高橋の方だって。まだどうのこうの言えない段階で北村が死ねばよかったとか、よくもしゃあしゃあと言えるなって。本岡の気持ちを考えろよ。あいつからしたら友達が突然教師に刺されたっていう状況なんだぞ。いまどんな気持ちを背負って授業受けてると思ってるんだよ!」


 菅原は怒りで震えていた。私は知らなかった。松田も私やハル側の人間だったんだ。


 「いや、知らねーし。て言うかハルの気持ちはどうなの?高橋が死んでショックで休んじゃったじゃん」そう言うと松田はふっと笑った。


 「高橋が死んでショックで休んだと思ってんのかよ。んなわけねえじゃん」


 「え、違うのかよ?」菅原はハルが休んだ理由を高橋の死だと思い込んでいたようだ。勿論違う。だが、この口調から言うと松田はハルが北村くんを好きだってことに感づいていたんだろう。以外に鋭い奴だな、と感心する。


 「松田くん。ありがとう。私の言いたいことを全て喋ってくれて」私は松田に素直にそう言った。松田は別に……、と小さく呟いた。なにより本岡くんのことをあんなにフォローしてくれるとは予想外だった。


 「へ、へえ。ってことは由も朝から私たちをキモいって思ってたんだ」すると菅原は不気味な笑みを浮かべて言った。


 「そうだよ。今朝さ、本岡くんを追い払ったときに小さく呟いた言葉、教えてあげよっか?『あんな最悪な奴ら殴ったって、どうしようもないでしょ』って言ったんだよ」


 そう言うと菅原は笑った。そして、後ろにいた工藤に向かって言う。


 「だって、工藤。私達最悪だってさあ。殴ったってどうしようもないって。ならあ、こっちから殴ろうよ?」にたあっという笑みを浮かべて言う菅原を見つめ、工藤は口を開いた。


 「もうどーでもいーわ」


 「は?」菅原は突然の工藤の断りにキョドった。


 「ハルもいねえし由もいねえってなったらこのメンツ、ブスばっかじゃん。気が滅入るよ」そう言って立ち上がって、廊下へ出ていった。


 「へ、ぶ、ブス?ちょっとなに言ってるの工藤!」


 そう言ってグループはあっという間に分裂した。工藤が私と由をプロットしていたのが気持ち悪いが、まあ結果オーライだろうか。ゆっくりと息を吸った。これで、もう何も遮る感情はない。


 「由。ありがとう。このグループを抜けるきっかけができた」すると松田は笑顔を作った。


 「いや。こっちこそ。まさか本岡くんのフォローもしてくれるなんて格好いいじゃん」


 そう言うと松田は少し照れたように笑った。


 「これで由も堂々と本岡に告ることが出来るね」突然、衝撃の発言をしてきた。


 「え、な、なんのことかなあ?」私はとぼけたように言う。こいつ、ハルと北村くんのことといい。鋭い!


 「え、違った?」そうやって不思議そうな顔をしてきた。私はふっと息を吐くと笑顔を作った。


 「違くないよ」


 「だよね。応援してるよ」そう言った。


 私は混沌とした教室のなかで小さく呟いた。


 ありがとう。

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