第5話 ギルド設立申請
眩しい……まぶたに陽光が射し込んできた。
小鳥が通りの街路でちゅんちゅんと鳴いている、朝チュン。
目が覚めると、僕を自宅に泊めてくれたジニーの姿はなくて。
ジニーは食卓に鍵を重りにしてメモを残していた。
『お早う御座いますウィル。私は早朝から騎士としての務めがあるので先に家を出ます。昨日はありがとう、私の唐突な申し出を快諾してくれて。ですから貴方にはこの家の鍵を渡しておきます。昨日取り決めた貴方の部屋は好きに使ってくれて構いません。と言っても、賃貸ですので、出来るだけ丁寧に使ってくださると助かります。追伸、今日はウィルが所望していたジビエ肉をちゃんと頂いて帰るから、安心してね』
ごていねいにどうも。
朝は日が昇る前から出勤、夕方に引継ぎをして有事の際には緊急出動もある。
彼女の給料は把握してないけど、昨日の感じだと評価は低そうだよな。
職場での影口は当然のようにあるだろうし、なんかこっちが悲しくなってくる。
「……よし、頑張ろう」
色々と思うところはあるけれど、それは追々彼女に打ち明けよう。
ジニーに次いで起きた僕は先ず、王都の大衆浴場へと向かった。
大衆浴場は午前中から開いており、中にはご老人がちらほらといる。
広さは平方メートルに換算していえば、大体1万はあるかな。
自分では見えない汚れや、臭いはできるだけ拭いとっておく。
これは師匠の受け売りの一つでもある。
浴場で長旅の汚れをとったあとは、部屋に戻った。
起床後に解いた荷の中から、地元の商人ギルドで使っていた正装に着替える。
白麻で仕立てられたスーツで、実はこれ、母の手作り。
父が木工技師の一方で、母は裁縫師だったのだ。
たぶん母は今でも裁縫師として僕が元居た商人ギルドに麻のスーツを卸していると思う。
正装に着替えた後は、さっそく王都にあるギルド組合の本拠地へと向かった。
「……でかい」
さすがは王国にあるすべてのギルドを管轄する組合本部だ。
首を後ろに倒さないと、ギルド組合本部の建物の頂上は見えない。
加えて建物の敷地は大衆浴場と同じか、それ以上だった。
本部の一階部はドアと言った仕切りがなかったので、そのまま入ると。
「いらっしゃいませ」
入口付近には受付のような男性が立っていて、僕を迎えていた。
「何か御用でしょうか?」
「はい、今日は自分のギルドを作りたくて来ました」
「……」
そう言うと、男性は僕を下から上まで目をはわせた。
「さようでしたか、でしたらこちらの紙をお持ちになられて三階窓口までお越しください」
「ありがとうございます」
と、正面階段から三階へ向かおうとした時。
本部に備えられたエレベーターらしきものを見て僕は目を見開いた。
てっきり、この世界にはまだ機械といった代物は存在しないと思っていたから。
前世の知識で無双するには、ちょっと無理があるかもしれない、くそう。
まぁいい、とりあえずエレベーターの乗り心地をたしかめよう。
「よう、坊ちゃん。何階に行くんだ?」
「三階をお願いします」
たまたま居合わせたライオン頭の人に行く先を聞かれ、お願いするとエレベーターはゴウンという振動音を立てて仰々しく動き、僕はM78星雲に向かう感じで右手を天井に伸ばす。
「お前、何やってんだ?」
「もの凄い人の真似を、ありがとうございました、ジュワッチ」
三階に着くと、日本の区役所みたいな光景が広がっている。
手前に長いカウンターがあって、奥手にギルド本部の従業員のデスクがある。
パソコンや電話まではさすがにないが、どの従業員も忙しなくしていた。
「いらっしゃいませ」
三階には一階にいた男性とは違った受付の女性が立っている。
僕は彼女に自分のギルドを作りに来たのですが、と聞くと。
彼女はにっこりと微笑み、僕を適切な窓口に通してくれた。
三十分ぐらいは優に待たされた。
先客もいて、僕の後にもギルド創設の候補者がやって来る。
「次の方、九番の方どうぞー」
一階で渡された九番の紙を手にして、僕は受付へと向かった。
「今回は王都ヴァリアブルのギルド管理組合本部にお越しくださりありがとう御座います。早速ですがご用件を承ってもよろしいでしょうか?」
「はい、今回は私のギルドを作りたくてやって来ました」
「それでしたらいくつかご質問いたしますね、先ず当組合で管理しているギルドは二種類から三種類御座います。一つは冒険者などの活動に認可を出すための冒険者ギルド、もう一つは王国での商業活動に認可を出すための商人ギルド。残る一つはそれら二つのギルドを統合したユニオンギルドでして、お客様のご希望は商人ギルドでよろしかったでしょうか?」
「そうなります」
「商人ギルドの設立に関するご案内は必要でしょうか?」
「大丈夫です、あらかじめ目を通して来ました」
地元のギルド組合にあるパンフレットは王都への長旅中、すでに熟読している。
受付の人は頭をさげて一礼したあと、ギルド設立に必要な書類を渡してきた。
「こちらの項目にご記入頂き、終わりましたら隣のカウンターまでお越しください。本日は大変混雑しておりますのでお時間少々頂ければと思います」
はいはい。
しかし、僕はいいが他の人のいら立ちが手に取るように伝わって来るな。
俺の番はまだか。おう、あくしろ。も、もれ! みたいな表情でいる。
どんな時でも、どんな場面だろうと、度胸が肝心、どうせ人間みんな死ぬ。
これも師匠の受け売りだ。
とりあえず渡された書類にペンで記入していって、と、でーきた。
僕は長らく商売してたんで、書類の記入も早くて字も上手い。
そのまま案内された隣のカウンターに持っていく。
「ギルド申請の書類記入が終わったのですが」
「はい、ありがとう御座います。それでしたら順番にご案内しておりますので少々お待ちください」
ざ・お役所。
しょうがないこととは言え、役所あるあるだよな、待たされるのは。
言われるがまま窓口カウンター前に備え付けられた長椅子に座る。
「……初めまして、貴方もギルド設立しに来たの?」
隣の白い毛並みが美しい猫耳さんから声を掛けられた。
僕は笑顔をうかべ、彼女にはいそうですと返答する。
「なんていう名前のギルドにするの?」
「ギルドの名前ですか?」
「うん、大事だよね。だってギルドの看板になるんだから、変な名前つけたくない」
「ははは、ちなみに貴方のギルド名は何にするつもりですか?」
「白猫亭、っていう名前のギルドにするつもり」
お似合いですね、本心から思ったことを言うと彼女は照れくさそうにしていた。
彼女のような純真無垢な人もここにはやって来るもんなんだなぁ。
「それで、貴方のギルド名は何にするつもりなの?」
と、彼女が再度僕のギルド名を聞くと同時に、カウンターの奥手から大音声が上がった。
「エッグオブタイクーン・ウィル!? どこにいるんだ、彼は!?」
「ギルド申請の窓口にお出でらしいですが」
「大変だ、今すぐ応接室にご案内さしあげて、出来ればお茶とお茶菓子も用意して」
「は、はい!」
声が上がった方を、隣にいた彼女と一緒になって見ていると、声の主は急ぎ足でこちらにやって来た。僕はその方に見覚えがあって、作り笑顔から眉を開いてちょっとだけ安堵した心境でいた。
「お久しぶりにしておりますウィル様」
「お久しぶりにしておりますマケイン様」
マケイン、彼は師匠の所によく出入りしていた僕の地元にあるギルド組合支部にいた若手ホープだった人材だ。師匠を通じて彼とは面識がそれなりにあったので、僕たちは二年ぶりの再会を祝い合うよう握手を交わした。
「ルドルフ様がお亡くなりになられたことは既知だったのですが、ウィル様はどうしてここに?」
「あー、聞き苦しい話ですが、実は兄弟子との仲が険悪になって、ギルドを追放されてしまったもので」
「な…………開いた口がふさがりませんよ。ルドルフ様が亡き今、ウィル様までいなくなればあのギルドは存続すら危ういというのに、なんて馬鹿な真似を」
「そう言って頂けるだけ光栄です」
「いや、失礼しました。私としたことがとんだ失言を。ウィル様、ここではなんですから奥にある応接室でお話を聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
マケインはそう言うと僕を応接室に通し、何かとゆうずうしてもらえることになった。
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