S.3 Act.5 魔法少女になれないの!(PARTⅡ)

 和歌山県下最大の川「紀の川」。そこで起こした、テクラの吐き出した8つの火球で「川が燃える」惨事はまだ続いていた。

 当の本人は落ち着きを取り戻したようだが、放った火球の燃え残りをめぐり、消防署とMGU(ウィッチエイド)の方で対立してしまう。

 しかし、かずさの機転で燃え残りの処理をMGUがすることが決まった。だが、それは化学消防車が到着するまでだ。

 時間がないが、一体どうするんだ?


◇ ◇ ◇


 あかりが「固形物」を収める容器を取りに行っている間、テクラはたまきに抱きかかえられている。大好きなおばあちゃんに甘えることは最近はなくなったが、今は体調が万全ではないため、看護と言う名目で甘えてしまっている。

 希美のぞみは大事な火消し役のストッパーだ。「固形物」が燃えた時に備え、今も臨戦態勢だ。

 しかし、かずさは暇をもてあましている。

 消火作業を手伝ってもいいが、先ほどのトラブルもあるため少し気恥ずかしいし、消防署員との「とある」約束もあるため、公には消火作業に参加できない。


 すると、燃えている現場のすぐ近くに行くと何かを拾ったようだ。

「かずちゃん、危ないで」

「あったあった」

 消防署員に注意されたが、かずさはそんなこと気にしない。

 手にした物は小さなガラスの容器だった。形からして、インスタントコーヒーが入っていたガラスビンだろう。

 落ちていたものなので汚れているが、かずさの魔法の能力で水を出し綺麗にすすいだ。

「うん。割れも欠けもない。いけるな」

 そう言いながら、燃え残りの「固形物」にそばに行き、おもむろにガラス容器に「固形物」を入れていった。


「確かに臭いもないし、結構軽いねんな。泥でもないし、油でもないし、やっぱり魔法の塊かな? たまきばあちゃんはどう思います?」

 かずさがたまきに問いかける。すると、たまきはびっくりしたような顔をして、

「かずさちゃん、その服……」

「え? 服?」

 かずさのウィッチ服はプラグスーツと呼ばれる戦闘服。かなりカッコイイのでファンからも大人気だ。青地にグレーのストライプが入り、デザイン的にもシャープなイメージである。そのウィッチ服が一部分だけ赤色に染まっている。

 どうも「固形物」が付着したと思われる部分のみ変色しているので、これも「固形物」の影響だろうか。

「ええ!? 何これ赤くなってる!」

「かずさちゃん、やっぱりこれはテクラちゃんの赤色魔法少女の能力が顕在化したものだねえ」

「じゃあ、やっぱりテクラの魔法の力がこもった泥って事?」

「まあ、そうなるか」

「すげーすげー! こんなの初めて見た。魔法ってこんななんだー」


 その時、上空からあかりが舞い下りて来た。バケツやら鍋など、ありったけの物を持ちながら。

「お待たせー。とりあえず、ありったけの物を持って来た。私とかずさで回収作業をしまーす」

 テクラとたまきは病人と病人を介抱する人。希美は消火作業役。残るはあかりとかずさだけだ。

「おっしゃー!がんばるぞ!」

 かずさが勢いよくかけ声をかけると同時に、後ろからも声がかかった。

「ちょっと待ってー!」

 さきほどの消防隊員の人だ。

「え、まだ何かあるんですか?」

 あかりが少し不機嫌になる。

「もしかしてそれに入れるんですか?」

「そうですけど」

「その、衣装タンスはやめてください。それポリプロピレン言うて、静電気を貯める性質があるので、可燃物を入れると爆発する危険があります!」

「でも、持って来た中でこれが一番大きいねんけどなあ」

「いや、どれだけ持って帰るつもりですか」

「ほぼ全部?」

「ええ……」

 消防隊員は絶句した。

「これだけの可燃物を保管する場所ってあります?」

「とりあえず駐車場に置いておこうかと」

「可燃物を保管する場合は、きちんと保管場所を確保して、防火責任者を置く必要があります」

「あ、その点は大丈夫です。五條のウィッチエイド本部に置きますから。あそこほら、五條の消防本部もありますし、あそこで適切にやります」

「あと、容器も密閉できる物にせんとあきません」

「はい、何とかします」

「桃色ウィッチさん」

「はい、何でしょうか」

「目、泳いではりますけど」

「……えー……」

 消防署員は、今度は保管場所や方法をめぐり意見を対立さす。燃えだしたら水蒸気爆発をするくらい火力が高い可燃物である。消防職員の職務として当然のことを言っているのはわかるが……


 そんなやりとりをしていると、たまきが大声で叫んだ。

「テクラちゃん。ちょっと辛抱や!」

「え?」

 あかりが振り向くと、テクラが真っ赤な顔をしてもがいていた。


 まるで、また火球を出すかのように……


 あかりと消防署員は青ざめた。

「待避ー!!!!」

「みんな逃げてー!!」

 本能がそうさせた。テクラがまた吐き出す。と。


 そうすると、やはり火球が現れた。でも、先ほどの物とは大きさが小さい。通常のものよりも少し大きい程度のようだ。

 吐き出したかと思うと、その火球はあの泥がある場所の真上付近で制止し…………落ちた。


「ああああああああ!!!!!!!」

「うわああああああ!!!!!!!」

 あかりと消防署員は絶叫する。前者は採取できるゲロ違う、泥がなくなる絶望と、後者は火災が酷くなる状況を嘆いての絶叫だった。


( ぼ む っ ! )

 低音の発火音とともに火柱が上がる。

火球は大きくはなかったが、燃え残りの「可燃物」に引火して、火災現場が広くなった。


 あかりは絶望し、ひざをついた。消防署員はただちに隊に戻り指示を出していた。

「ああ……貴重なゲロが……」

 そばにいた希美は、

「あかりサーン、この火事。消しマスカ?」

「もういいわー、消防署に任せましょう」

 と、覇気のない顔で答えた。


 テクラを抱いていたたまきがあかりを呼ぶ。

「あかりちゃん、やっぱりこれも無理やったみたい」

 8つの火球を出すという前代未聞の記録を出したテクラは、ついに変身が解けて自身の服に替わった。それと同時に、特注のネックレスの光がなくなり、またもやネックレスが外せる状態になってしまった。

 またもや魔法少女の力が無くなってしまったことを意味している。


 たまきから呼びかけていたのにもかかわらず、あかりは四つん這いの格好になり、反応がない。

「あぁあぁぁ……ゲロ……ゲロが……」

 その横に立ったのはかずさだった。あかりはかずさに気づき、顔を上げた。

「あかり先生、帰りましょう」

 そう言って手を出した。その手を取り、あかりたちウィッチエイド一行は、とぼとぼとテクラの家に行くことになった。


◇ ◇ ◇


 帰り道、ウィッチ服のままだと混乱すること請け合いなので解除する。堤防を上り、テクラの家の近くまで来るウィッチエイド一行の5人。

「あの固形物も回収できひんばっかりか、テクラちゃん魔法少女化も失敗。時間もないし、もう無理なんや……」

 ぼそっと漏らすあかりの愚痴に、みんなは「大丈夫」「何とかなる」といっては見るものの、あかりに変化の兆しはない。

 そのとき、かずさはあかりにあるものを見せた。

「あかり先生、これなーんだ?」

「はっ!」

 あかりの顔がみるみるうちに明るくなった。

「こ、これはどこで?」

「あかり先生が帰ってる間にちょっとだけ拾ってたんや」

 それは、かずさがインスタントコーヒーのガラスビンに詰めていた、あの、魔法の固形物であった。

「よくやったー! さすが吉野のエース! かずさしか勝たん! キャー! 好きー!」

「うっひょー、久々のあかり先生の魅惑キター!」

 そう言い、あかりとかずさのふたりは抱きしめ合ったのだ。

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