S.3 Act.6 事後処理ミーティング

「……以上が説明になりますが、何か質問は」


 会議室にいる一同は黙って誰も発言しなかった。あまりにも常識外れな行動に、ミーティング出席者は一同ため息をついた。


 翌々日月曜日の午前中、五條合同庁舎にある奈良県教育委員会では緊急会議が開かれた。議題はもちろん、土曜日に起こったテクラの「紀の川放火事件」についてだ。

 赤色魔法少女でも難易度の高い魔法「火球」をポンポン放出する、空前絶後の大型新人。彼女が「川を燃やす」という、とんちの効いた大喜利のお題みたいな事件の事後対応策を話し合うと言う、誰も関わりたくない案件である。

 なお、今回重要案件と言うことで、教育委員会の主任以上と、ウィッチエイド担当の全員、現役ウィッチの木下モモ、青少年対策室の「極道の妻」室津室長が出席している。


「本当に質問ありませんか?」

 と、あかりは聞く。

「総務や施設課の人は分からないところが分からんのだろう。私でも一部分からんところがあるのだから仕方がない」

 室長も不明点があるとのことなので、魔法少女に関わっていない部署の人たちが黙っているのも納得だ。

「じゃあ、室長はどこが分からないんですか?」

「それは彼女の能力の高さだ。あそこまで火球を出せるものなのか? それと、またネックレスが外れたそうじゃないか」

「あー、テクラちゃん本人のことですね。今は事後対応策を話したいので、後回しでもいいですか?」

「わかった」

 室長はどうしてもテクラの方に興味があるようだ。


「これからの事後対応策としては、まず、警察と消防から経緯の説明を求められています。それと国交省とマスコミ対応でしょうか」

 警察は、現段階では立件するつもりはない。ただ、あれだけのことをやったのだ。詳しい話は聞きたいとの事。

 消防はキツいお灸を据えたいらしく、あれだけの火力がある魔法少女に対してきちんとした育成計画を出させたいらしい。

「これに関しては……やはり鈴木課長でしょうか」

「ええ!? 遠藤君なんでこっちに振るの?」

「いや、謝りなれてるだろうと思って」

 暴走事件の時も、県知事と同じ机に座って謝罪会見を済ませた課長。あかりの尻拭いはいつも鈴木課長だ。

「謝っているのは全部遠藤君絡みじゃないですか。たまには室津君にもお願いしたいんですが」

「はぁ!?」

 眼光鋭い室津室長は鈴木課長を睨む。

「ひいぃ! む……室津君も課長待遇の室長じゃないですか。ウィッチにも詳しいので適任ですよね」

「何を言ってるんですか。今回は特務外の行動が問題になっているんですよ。うちの所は関係ない」

「いや、魔法少女が絡んでいますし……」

「関係ない!」

「あ、はい!」

 警察と消防署には鈴木所長とあかりが出向くことに。


 あかりは続ける。

「国土交通省からは、死んだ魚の回収費用請求をされそうです。あと漁協からも損失補填を要求されそうですが」

「アユの時期ですからねえ。」

 堀江がぼそっとつぶやく。紀の川では地元の漁協などが積極的にアユの放流事業を展開している。吉野でもアユは特産品だ。

 これに対してみんなは「結構高額な要求が来るんじゃないか?」「うちらの予算で賄えても、透明会計にするには無理があるよな」「追加予算は奈良県か和歌山県かどちらに要求する?」など、口々に意見が出る。

「国交省の分は出してやれ。金は潤沢にある」

 室長はそう答えた。

「モモ、何とか出来る?」

「りょうか~い」

 ウィッチエイドの経理を担当する総務課のモモは、気軽に返事をする。

「漁協に関してはどう出てくるか正直わからんから、話が来た時に対応でいいんじゃないか? どのみち国交省の件もあくまで可能性だけだろ。見守ろうや」

 室長の意見でこの場はやはりまとまった。


「続いてマスコミ対応ですが……」

 と、あかりは次に進めたが、

「それはアカリちゃんに一任」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」「賛成」

「は?」

 ほぼ全ての人があかりを推した。

「そりゃ実績があるし、それでいいんじゃない?」

 今日初めて発言する椎。

「関係者も知ってるでしょ~。何とかしてね」

 モモも肯定する。

 実のところ、魔法少女現役時代からテレビの出演を結構していたお陰で、マスコミとのパイプがある。

「でも、バラエティと報道って、あまり繋がらないんだけどな」

 ため息をつきながらあかりは渋々了承する。


「さあ、ここからが本番なんですが、ちょっととあるところからクレームがあってですね……」

 議題を進めようとしたところに、室長の電話が鳴った。

「……はい。……はあ……それで出ろと!? ……うっ、わかりました」

 とても顔色が悪い。何事だろうと思ったら。

「かずさを特務に出すからミーティングは抜ける」

「え、いやいや、今から室長にお願いしなきゃならない一件が……」

「後にしてくれ」

 あかりが言っても特務が発生すると誰かが指令室にこもらなければならない。魔法少女をサポートするために必須事案だかだ。


「しょうがないか。いちおうここまでが対応策となります。総務や施設課の方々はあまり関係ないとは思いますが、一応動きだけは覚えておいてください」

 あかりが言うと、これでいいんですか?と施設課の主任が質問してきた。

「これ以降は魔法少女についてですので、こちらで対応します。今日はありがとうございました」



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毎日更新を心がけてきましたが、数日更新が開きます。

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