S.3 Act.3 燃える川

 テクラがまた熱暴走を起こして、紀の川を燃やす「奇跡の暴挙」を起こす。

 ありえないくらい大きな火球を4つも吐いたテクラだが、まだまだ予断を許さない。

 そこであかりの取った行動は、警察と消防に応援要請することだけだった。


◇ ◇ ◇


 消火できない厄介な炎ということが分かったので、かずさは河川敷の燃えている夏草の方を消化中だ。

 あかりの言うとおり火に直接水をかけず、周りの草に水をかけて延焼を抑えるという地味な作業となる。たまに炎に水がかかって熱湯になった水しぶきや水蒸気が発生し、その度にかずさは待避する場面もあり、一筋縄ではいかなかった。


 延焼は食い止めてはいるものの、肝心の火の勢いは衰えない。普通なら燃えるものがなくなれば火は消えていくのだが、そんな様子は微塵も感じられない。


「これ、別のもんが燃えてへんか?」


 かずさは近くに落ちていた木を持ち、燃えている火のあたりに木を突っ込んだ。

 木の先は当然燃えるが、その燃え方が激しい。拾った木は生木だったが、それがすぐに発火するのだ。よく見ると、木の先に付着している泥のような物体が燃えているように思えた。

 試しに、その泥を何もないグラウンドの土の上に落とすと、その泥が燃えている。

「やっぱり。泥が燃えてる。いや、油かな?」

 かずさはあかりに報告に行く。


◇ ◇ ◇


 あかりは電話をしているが、構わず報告をする。

「あかり先生。あれ、普通に燃えてるんちゃう。泥か油が燃えてるから消されへん」

「は? どういうこと?」

「燃えてるんは雑草とかやなくて、泥か油みたいなやつが発火しているというか、それが燃えてんねん」

「もしもし、何か泥か油のような固形物が燃えているらしいって報告が入った。うん。消防にもそう伝えて」

 電話の向こうの人にそう伝えた。その人は橋本警察署に勤めている刑事らしく、ここから各方面に情報を流してくれるように頼み込んだ。


 しかし、少し前から消防車やパトカーのサイレンがひっきりなしに鳴っている。この騒ぎを誰かが通報したのだろう。

 そのうち1台の消防車がどこからともなく現れて、草が燃えている現場に到着した。

「かずさ、消防に現状を伝えてね」

「了解」

 かずさは消防隊に向かって行った。魔法少女になってもう2年のかずさは、現場の消防隊の人と顔なじみの人も多く、それなりに仲良くやっている。うまく説明してくれるだろう。


「げはぁあ!」

 そして、テクラは本日5つめの火球を出す。もうあかりも驚かなくなった。

 ただ、消防車から降りてきた消防士は、いきなり落ちてきた火の玉に少々驚いたような仕草を見せた。

 さらに、1分も経たないうちに、さらに6つめを放出した。一体どこまで出せば気が済むのだろう。

「すいません。大分よくなりました」

 と、テクラは言う。

「もう大丈夫?」

「多分」

「そう、よかった」

 6つの火球を出した時点でようやく落ち着いたようだ。あかりは後ろから抱きかかえていたためテクラの表情は伺い知れないが、これで希美の「魔法の矢」を打って打ち止めかな。と思った。


「いや、大惨事だと思いマース」

 希美が呟いた。

 確かに。火球を6つも吐き出したため、川に落ちた火の勢いは増すばかり。パトカーと消防車のサイレンはまだまだ止まる気配がない、橋の上には消防車が常駐だ。堤防や河川敷には多くの一般市民が見物にやって来ている。川の水が燃えているという「奇跡」としか言いようのない現象を、しきりにスマホなりで撮影している人がほとんどだ。私たち、魔法少女やウィッチに気づいた人もいる。魔法少女がいて川が燃えていると言うことは、私たちが原因と言うことは既に承知しているだろう。


「私、またやってもうたんや」

「心配せんでもええ。前にも言うたけど、大人に任せといたらええねん」

 テクラはまた心配そうに空から消火作業を見守っていた。


「よーし、そんじゃ地上に戻ってテクラちゃんを正気に戻そうか。」

 3人は、消防隊員が活動している場所と少し離れた場所に着地し、グラウンド横のベンチにテクラを寝かせた。

 そこにかずさがやって来た。

「あかり先生、これ」

 かずさが燃えさかる木の棒を持って来た。

 その木の先についていた泥か油のようなものを地面にこすりつけると、それが燃えている事が分かった。

「な、ほら、これ。」

「確かにそいつが燃えてるんかー」

「コレ、ナンデスカ?」

「うーん、まー普通に考えると、テクラちゃんから飛びだした…………ゲロ?」

「ゲ……」

「オー、ゲロゲーロ」

「ええ、あかりさん……酷い……」

「あはは、ごめんごめん」

 笑顔でさらっと答えてしまうのが、あかりの良いところでもあるし悪いところでもある。テクラは恥ずかしがった。それにしても希美の表現はどうした物だろう。微妙にオッサン臭い。

「でも、あながち間違えてないかもしれん。もしかすると、これって魔法が固まったみたいなもんかもしれんな」

「先生、これが魔法の正体ですか」

「知らんけど」

 かずさはコケた。毎度ノリがいい。


 そんな話をしていると、後ろから誰かがやって来た。

「テクラちゃん大丈夫?」

「おばあちゃん!」

 テクラの祖母、たまきであった。不安そうな顔をしてテクラを見つめる。テクラは起き上がって二人は抱きしめ合った。スキンシップを嫌うテクラだが、この時は別だったようだ。

「騒ぎがあるって聞いたから来てみたら、やっぱりテクラちゃんか」

「師匠すいません!全て私の責任です。テクラちゃんを危険な目に遭わせてしまいました!」

「まあ、済んだことは仕方がない。今はどういう状況?」

「はい、テクラちゃんは火球を6つ吐いて今は落ち着きを取り戻しています。これから希美の魔法でテクラちゃんを正気に戻そうと」

「そうか。6つもか……やはり、うちの孫はウィッチとしては優秀か。いや、優秀すぎる」

「はい。ネックレスを付けて1分も経たないうちに魔力酔いを起こしています。魔法の操作能力は異様に高いですが、この現状はちょっと……」

「そうだろうねえ、逆に使い物にならないだろうね。ちょっと私も少し調べてみるよ」

「よろしくお願いします」

 たまきはテクラの頭をなでたりしてご機嫌を取る。テクラの顔色も元に戻っているみたいだ。

「テクラちゃん、本当にごめんね。私のわがままに付き合ってくれて」

「ううん。大丈夫。おばあちゃんの役に立ちたい」

「ありがとね」


 あかりはテクラの顔色を確認すると、

「よし、とりあえず、テクラちゃんを元に戻すか。希美ちゃんお願い」

「ハイナ!」

「テクラちゃんはここに座ってて」

「あ、はい」

 テクラをベンチに残し、あかり達は少し下がった。希美は水の弓と矢を出し、テクラの方に向いて構えた。かずさもあかりと一緒に見守る。

 これでこの騒動はようやく鎮静化する。誰もがそう思った。


 希美が矢をつがえ、発射しようとしたその瞬間、テクラは再度火球を吹き出した。

「あっ!」

 止める暇もなく希美は矢の放ち、テクラに当たってたちまち周囲が水蒸気にに包まれた。しかし、希美の魔法は水だ。火球と水とが反応し、前回の山火事の時とは比べものにならないほどの水蒸気だ。

 しかも、『バフッ』っという破裂音も聞こえた。水蒸気爆発を起こした可能性がある。その爆心地にいるのは、テクラだ。

「熱っつ!」

「テクラ!」

「テクラちゃんーーー!」

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