S.3 Act.1 レベルが違うんだよ……レベルが……

 夏の暑さはまだまだ続いています。

 おはようございます。テクラです。

 8月の後半にもなると、あのうるさかったセミも鳴かなくなり、惰眠を貪ることが出来ます。けれど、あと少しで学校が始まるのです。準備はしなくていいんでしょうか。何が必要なのかな?


 あのあと、ウィッチエイドの人たちとは会っていません。あの五條庁舎の柔道場で、私の付けていたネックレスが光を失い、外れてしまいました。これは私の魔法の力が無くなったことを意味しています。もう、ウィッチエイドの活動は出来なくなったと言うことです。

 だから、もうあの人たちとは会うこともないと思います。せっかく「友達、仲間」って言ってもらったのに。残念です。


◇ ◇ ◇


「コンニチワー!呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」

 自宅でゴロゴロしていると、この前私を火事から救ってくれた希美のぞみが遊びに来たようだ。

「あ、希美、どうしたの? 家わかった?」

「はーい! この前たまきばーちゃんから教わってましたー!」

「あ、そっかそっか。上がって」

 一年前、先に日本に帰った彼女はドイツ時代からの幼馴染みだ。帰って行った以降遊ぶこともなかった。

 その希美の後ろから、ぴょこっと顔を出す人がいた。

「おはよーございまーす」

「あ……おはよう……」

 この前〈友達・仲間〉って言ってくれた魔法少女のかずさ。その顔を見ると少し涙を流してしまう。

「うわぁ、だ、大丈夫? もしかして、お邪魔?」

「ううん……私、ウィッチになれなくてごめんね」

「ああ、それかあ。まあ気にしないで。というか、テクラちゃんの方こそ大丈夫?」

「うん、まだどうしたいのかわからないけど、なんとかね」

「そっか」

 涙を拭いて、ふたりを自分の部屋に招き入れた。


◇ ◇ ◇


「おー、スゴイデスねー。やーぱんはうすでーす」

「やーぱん? 何それ?」

「ドイツ語では日本は〈やーぱん〉言うです」

「へええ、そうなんや。かわいいな」

 希美とかずさは、私の部屋を見てそんな話をしていた。

 確かに、築60年を超えている日本家屋。6畳間の畳部屋に土壁?(漆喰)という、昔ながらの日本の部屋だ。

「ドイツの人って言うから、もっと洋風なのかと思ってたわ。けど、すっきりしてない?」

 かずさは言う。

 確かに。

 この6畳間にはベッドとタンス、小さなテレビと机しかない。本当はもう少し家具を増やしたい。日本に来てから買いに行きたかったが、使えるお小遣いが少ないので我慢しているのだ。


 ジュースを飲みながらとりとめのない話をする。

 大体が日本とドイツの違いについての話だった。今何が流行っているとか、気候や食べ物の話とかだ。かずさは初めての異国の話に興味を持ち、希美は住んでいた場所を懐かしながら話に花を咲かせる。

 ただ、この3人が集まって魔法少女の話が出ないのは少し気になる。何か気を遣われているのかなあ?

 会っていきなり泣いたから遠慮されてる気がするけど、もっと自然に接して欲しい気もする。


 そのうち飽きてきたようで、かずさが、「何かゲームとかないん?」と聞いてきた。

「TVゲームとかはないけど、ボードゲームならあんで」

「人生ゲームとか億万長者ゲームとか? てか、なんでボードゲーム?」

「ドイツはボードゲームの本場みたいなところあるから」

「へえ、そうなんや」

 とりあえず、話も尽きそうだったのでボードゲームをすることにした。


「このゲームは、自分が国王になって国を発展さすゲームやけど、相手に刺客を送られて、死んだらゲームオーバーになんねん」

「え、それだけやったらわからん」

 ゲームは六角形の盤で、同じく六角形のマス目が入っている。まず六角形の各コーナーに自分の城を建てる。その周辺に町(城壁)を発展させていくゲームだ。

 その場に刺客を放ち、その刺客を相手の城に攻め込ませる事でゲームセットになる。

 町を発展させていくと、自分の町(マス)に入った相手の刺客からは宿泊料としてお金をもらえる。逆ならお金を支払う。そのお金で街を発展させてもよし、サイコロを振ってお金儲けをしてもよし、刺客のマスを動かして攻め入る事も出来る。


 このゲームで最初にやることは〈町の発展〉か〈お金を稼ぐ〉。これがセオリーだ。初動で〈刺客を動かす〉のは自殺行為なのだが、かずさはいきなりテクラの城に刺客を送り込んだ。

 テクラはすかさず防衛に専念する。町を作ってかずさの刺客をガードした。まごまごしているうちにかずさのコマが壁際に追い込まれると、希美がすかさず隣のマスに自分の町を作った。これでかずさの刺客は動こうとしても、テクラか希美のどちらかに宿泊料を払わないと脱出できなくなった。かずさがお金を稼いでいないことは分かっていたので、これで刺客の封じ込めに成功した。かずさがやれることは、お金を稼ぐか、まだ少ない町を取り壊してお金を作るしかない。

 その間に、希美はかずさの城の近くまで刺客を送り込んでいたようで、あっという間にゲームセットになった。


「ハーイ! 私が勝ちました! そして金額も私が一番デース!」

「最初はお金か町かどっちかにせなあかん言うたやん」

「ダッシュで行けるかなと……」

「その戦略はたまにやって成功するけど……5分で終わったん最速やわ」

「もう1回!」


 初心者のかずさに悪いので、もう一番勝負をすることになった。今度はかずさもきちんとお金を稼ぐようになり、戦力は均衡したと思う。

 しかし、町の建て方や刺客のコマの動かし方がワンテンポ遅く、攻めきれず・守り切れずでやはり大敗してしまう。


「うう、これ、結構難しいんちゃうん?」

「このゲームは攻守のバランスが重要デース」

「まあ、これ3人だけでやったら誰に攻められてるか分かってまうからなあ、やっぱり4人以上でやるゲームやで」

「よし! じゃあ私が4人目で参戦しまーす!!!」


 いきなりフスマが開いて、勢いよく誰かが入ってきた。


「あかり先生!」

「いやーん、テクラちゃん元気にしてたーん? あかりはいつも元気です!」

――何で私だけに抱きつくかな、この人は……

「はい、希美ちゃんもオイッス!」

「オイッスー!」

「あ、かずさ。昨日会うたからもうええやろ」

「ひどい」

「え、なんでここに?」

 もう会わないと思っていたウィッチエイドの人の中のあかり。一番もう会わないだろうと思っていた人が目の前にいる。どういう事だろう。

「ああ、師匠とお話しに来ました。よろしくお願いします!」

 そうだった。あかりとたまきはウィッチ繋がりだから、私の家に来ても問題ないのだった。今度はかずさが質問する番だ。

「ていうか、遊んでてええのん?」

「今日土曜日やし。仕事休みやし」

「MGUは? 今日誰?」

「和歌山の青の子やで。粉河常駐や」

「あ~」

「おー、オテントさん。カッコいいデース」


 いきなりテクラの部屋が賑やかになる。あかりの成せる技か。


「さて、ここからが本題です……」


 今までおちゃらけていたあかりが無口になる。それだけでこの場が静まるのも、技なのだろうか。




「魔法少女の力が無くなった原因が分かりました」




「……え」

「おー」

「ワォ」

 この前あかりと会ったのは、テクラが魔法の力が使えなくなった時以来だ。その時は顔面蒼白で、今にも死にそうな顔になっていた。

――なに、このドヤ顔。

 今は生き生きとしたしゃべり方で、親指を立てながらテクラにウインクをしている。お気楽な彼女が完全復活したようである。

「で、なんでなん?」

 かずさが聞いてきた。

「ふっふっふ。その対策として、これやー!!!」


 (ごそごそ)


「じゃじゃじゃじゃっじゃじゃーん。てんねんまほうしょうじょねっくれすー」

 あかりが出したのは、魔法少女になるための石入りネックレスだ。

 しかし、今までのものとは違う。5つあった石はひとつの赤い石だけとなり、その石はかなり大きい。比べると三倍くらいある。もうこれはネックレスじゃなく、赤い石のペンダントかもしれない。

「これでひとまず様子を見よ。テクラちゃん。はい」

 あかりにネックレスを胸に押し当てられ、様子を見る。テクラはそのネックレスを自分で支えた。

「ふむ。やっぱり今はまだ反応せーへんか」

「あかり先生、天然魔法少女って、何?」

 かずさからの質問だった。それを聞いて、あかりはかずさの両肩を掴みうなだれた。

「かずさあー。私ら〈養殖物の魔法少女〉とはレベルが違うんだよ……レベルが……」

「え、そんなにすごいん?」

「かずさも見たやろ。暴走事故と山火事。記憶を飛ばしながらあそこまで魔法使われへんやろ」

「ああ、確かに。普通は墜落するはずやし」

「テクラは巨大魔法少女デース」

 3人はテクラの凄さを語り出した。


『やめて欲しい。私、そんな人間離れしたことやってないよ。

 あ、でも魔法少女だから人間離れはしてる。……してる……してるのか?』


「そこでこの天然魔法少女ネックレス。赤石だけ約4倍の大きさにして、大量の魔法の力を制御する事に成功しました!」

「おー」

「ヨンバーイ!」

 この赤い石は本当に大きい。今までのものとは比べものにならない。しかも赤みが深い。真紅といっていいほどの美しさだ。

「特注品ですが、これで様子を見ようと思いまーす。そしてー……今なら何と、石のメンテに最適な、ミニクロスを2枚お付けします!」

「やったー」

「キレイデース!」

「そして気になるお値段ですが……」

 何やら通販番組のコントが始まったようだが、私は気にせずに石を眺めていた。そして、何気なく、まるで石に惹かれるがままに、テクラはそのネックレスを自分で付けていた。


「あーーー!!!」

 テクラがネックレスを付けるのを見てあかりが大声を上げた。どうもそれがマズかったようだ。

「まだしちゃダメ、外れる? 外れそう?」

 あかりがやって来て外そうとするが、既に遅く、もう外れない。

「あちゃー、もう外れへん……」

「やったらあかんかったん?」

「うん。このネックレスは特殊で、〈魔女因子〉がある人に付けたら外されへんようになるねん」

「ああ、前もらったネックレスも外れへんかった」

「魔法の力で外れへんようになるからな」

「ええ、どうしたらいいんですか?」

「まー、やってもーたもんはしょーがない。前向きに考えよ」

 かずさがその話に割って入る。

「あかり先生、で、それで魔法少女が復活するんですか?」

「わからん。一応、これは天然物の魔法少女の対策のうちのひとつらしいねんけど、これが本当に合うんかはやって見んことには……って、あれ? テクラちゃん?」

 あかりはすぐ異変に気づく。テクラの様子がおかしい。少し揺さぶってみる。

「あかりさん、ちょっと、気持ち悪い……」

「テクラちゃん、大丈夫?」

「あかり先生…………もう、石光ってんで」

「え?」

 あかりはネックレスを外そうと、テクラの後ろに立っていたので分からなかった。テクラの後ろからのぞき込んでみると、今付けたネックレスの赤い石が光り輝いている。しかも尋常じゃない強い光を放っている。


「あっっつ!!!」

 あかりはテクラを放り投げた。


(どさっ)


「え、ちょ……」

「大丈夫デスカ?」

「むっちゃ熱い、熱暴走してる! ちょっと緊急事態!!! 師匠!!! テクラちゃん借ります!!!」

 あかりは大声で1階にいるたまきに声をかける。と同時に、自身はウィッチ服に変身する。

 そして、窓を開けるとテクラを後ろから抱きかかえ、窓から出て行こうとする。

「かずさも希美ちゃんも付いてきて!」

「あかり先生、一体どうしたん」


「この一帯……吹っ飛ぶかも……」



…………



「ええぇぇぇー!!!」

「ワォゥ!」

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