Scene.2 Action.9 魔法少女になれないの!

 あかりさん、かずさ、モモさん、椎さん。そして室津室長。私に友達が5人も増えました。

 全員ウィッチエイドの人絡みだけれど、仲間が出来るのはいいですね。これからの魔法少女生活、楽しくなりそうです。


「じゃあ、やることなくなったし、外行こうか」

 そうあかりに言われ、教室にいた私と、あかり、モモ、かずさ、椎は、ぞろぞろとどこかに移動する。途中、椎は仕事が溜まっているらしく離脱した。私の起こした案件「五條暴走事故」の処理がかなり溜まっているらしい。本当にごめんなさい……


◇ ◇ ◇


 やって来たのは庁舎の屋上だ。何もない殺風景な場所である。真夏の暑さと床のコンクリートの照り返しがきついが、風が吹いているのでまあまあ気持ちいい。


「最初は座学からやるのがセオリーやけど、飛行訓練をやります」

 とのこと。あかりが説明した。

 飛行訓練。

 魔法少女のいちばんの特徴は飛べること。人間が空を飛ぶという、航空力学どこいった的トンデモ能力が使えるのだ。今からその飛行訓練とやらをやるようだが、どういう事をするのか興味はある。


「まずは変身」

 そう言うと、あかりもモモもかずさも、いとも簡単に変身した。

 あかりは全身ピンクの……なにこれ? ぬいぐるみ? 全身タイツ? 何かの妖怪? とにかく、頭から足下まで、全てもこもこの布で覆われている。多分、綿の量は半端ないと思う。とにかく暑そうだ。彼女も変身した直後にフードを取った。

 モモはカッコイイ。鎧姿だ。日本風な感じはするが、詳しくは分からない。全体が卵色で統一されている。中の服はトレーナーかジャージのようである。こちらは赤みのかかった黄色だ。こんな格好をしているものの、頭の兜はヘルメットのような感じで、若干アンバランス気味である。

 かずさもカッコイイ。プラグスーツって言うやつだ。全身青にねずみ色のストライプをあしらったツートンカラーで、シャープネスだ。


 かずさとあかりの変身した姿は以前も見てはいるが、残念ながら私がダウナーだったり、瀕死の重傷を負っていた時なので、改めて見たのはこれが初めてだ。何というか、魔法少女っていうとフリフリした、「いかにも」系な衣装だと思っていたが、そうではないことに改めて気づく。


「じゃあテクラちゃんも変身してみて」

 とあかりに促されるが……

「どうやって変身するんですか?」

「え?」

「え?」

「え?」

「…………え?」

 聞き返してしまいました。


「ちょっとちょっと、今まで変身しとったでしょ、あれでええんよ」

 あかりに言われるが、理解出来なかった。

「変身って自分でやるもんなん?」

「え?」

「え?」

「え?」

「…………え?」

 うん、言葉は完璧に理解出来るのに、意思疎通が全く出来ない。こんな事は生まれて初めてだ。こういう時はどう対処したらいいのだろうか。


「えーと、変身の仕方が全くわからへんの?」

「はい。今までは、気づいたら変身してたんで、よくわかりません」

「あー」

「あー」

「あー」

 全員から生半可な返事を頂きました。それにしても、全員が同じ反応って、何かのコントかな?


 かずさから疑問がぶつけられます。

「じゃあな、あの騒動の後、自分で変身して空飛んだり、自分の能力とか確認せーへんかった?」

「え? なんで?」

「なんで?」

「なんで?」

「なんで?」

 今度はオウム返しされたぞ。ここまでみんな同じ反応されると少しおかしくなってきた。


「いやいや、普通、魔法少女になったら、嬉しくて、何度も変身したりするもんやん」

 と、かずさは言う。あ、そういうもんなんだ。

 魔法少女をあまりやりたくなかったから、その発想はなかった。

「そ、そうなんや……」


 真夏のビルの屋上で、みんな黙りこくってしまった。一陣の風が過ぎ去ったが熱風だった。ああ、早く涼しいところで涼みたい。




「テクラちゃん、魔法少女に変身するってイメージを思い浮かべてみて」

「あ、はい」

 あかりに言われるように、魔法少女に変身しろー! と、思いながら祈ってみた。でも変身しなかった。

「ネックレスを持ちながらやってみたら~」

 モモにそう言われた。再度やってはみるものの、変化なし。


 こめかみに手を当てながら、あかりは難しい顔をする。

「ふむ。ちょっとこれは難問やね。やっぱり、椎ちゃん呼んでくるわ」

 と言い、再度椎を連れてくるために階段に向かう。


 あかりがいない間も色々と試しはしたが、どれも無理っぽい。

 みんなの時はどうだったのと聞いてみた。すると、普通、ネックレスをもらったときに感じる「特別な何か」を思えば何となく出来るらしい。

 なるほど。私がもらったときは、自宅であかりからネックレスを渡された。その時は、石が光って、綺麗だな、吸い込まれそうだなって感覚があった。それが「特別な何か」なのかな?


 じーっと赤色の石を見ている。ネックレスをもらった最初の頃は吸い込まれそうな感覚が襲ってきて、少し意識が遠のいた。でも、今は何も感じない。


 ようやく椎と共に帰ってきたあかり。早速椎からアドバイスをもらう。

「テクラちゃん、私たちは石の力によって魔法を使うのよ。だから、石に願いを込めるようにすればうまくいくはずだよ」

 そう言いながらテクラの手を握りしめ、祈りのポーズをさせる。

「石に変身したいって願うのん?」

「そう」

 それ、さっきやったんですけど? けど、そう言いながらも再度実行してみる。結果はやはり。である。

「ダメです。出来る気がせーへん」

「なんで?」

「なんで?」

「なんで?」

「なんで?」

 同じ反応をする人が増えただけでした。


 「じゃあ最後の方法するか」と言い、みんなとまた別の場所に移動するのだった。


◇ ◇ ◇


 やって来たのは「南館」と呼ばれる合同庁舎の南側の建物。市の消防署が主に使っている。

 3階のとある部屋は全て畳敷だ。柔道部屋で、消防職員の訓練などで使っているそうだ。


 ここで椎は腕を出すように言われた。両手を出したが片手だけでいいみたいだ。

 右手を椎の前に出した。するとその腕を椎が引っぱったその瞬間、テクラは畳の上に倒れていた。

「…………はい?」

「テクラちゃんもう一度立って」

「え? なに?」

 椎に腕を引っぱってもらって立ちあがってみたが、一瞬何が起こったのか分からなかった。

「魔法?」

 そう思ったが、どうも違う。すると今度は、

「あ!」

 一瞬の間にまた倒れていた。

――私、椎さんに投げられた!?

 今度は分かった。椎さんに背負われて投げられた。しかも有無を言わない早さでだ。

「ちょっと待って、何これ」

「柔道かな」

 今度も椎に腕をつかまれていたので、強引に解く。


「びっくりしたー。え、何?」

「いやあ、テクラちゃんってもしかすると、危機になった時にしか変身できないタイプなのかなと思って」

「あー」

「あー」

「あー」

 みんな何となく分かったという返事をした。分からないで欲しい。

「だから、ちょっとここで投げて、危機を作ろうかと」

 意味がわかんない。ここで椎さんに一方的に投げられるの???

「それ、やらなあかんのん?」

「うん、まずは変身しないとどうしようもないし、危機になった場合必ず変身できるからね」

 なるほど、強制的に変身できる状況に持ち込むというのか…………いやです。こんな状況。


「さすが椎先生、柔道はそこそこ強いからなあ」

 かずさは言う。そんな人に今から蹂躙されると思うと、気持ちが萎える。どうしてこうなった。

「その前に、危ないから、ポケットに入れてるものとか、落ちやすいもの、時計とかは外してね」

 と言われる。

 勘弁して欲しい。今日はお気に入りのワンピースなのに。部屋はエアコンも効いていない室内なので、汗もかくだろう。何か適当なスポーツウェアに着替えさせてもらいたいのだ。とは思うものの、そう言える状況でもなく、おとなしく従う。

 壁際に財布とかケータイ、パスポートなどを置いて、ついでにネックレスも外した。


「ええ! ちょっと待って!」

「ちょっと待って~!」

「ちょっと待ったー!」

「ちょっと待て!」

 今度は少しだけタイミングが合わなかったぞ。


 みんなの方を見ると、全員が呆然となっている。理由は分からない。何か悪いようなことをしたのかな? あかりは顔が鬼みたいになっている。室長よりも怖いかも。


「ちょ……ちょっと待って、……なんでネックレスが取れんの?」

 私がネックレスを外したのがおかしかったようだ。そうだ、これ、今のうちに聞いておかなくちゃ。

「そう、このネックレス、外そうと思ったら、外す金具がどこか分からんくなって、外されへんようになっとってん」

「そりゃそうやわ。付けると外せんようになる仕様やから」

「えー、でもお風呂とか、違うネックレス付けたりとかする時に外されへんのん?」

「そういうもんやないし、錆びひんし」

「無理矢理切ろうと思っても全然傷すらつかへんかった」

「そら魔法で強化されてるから絶対に切れへんから」

「え……そうなんや」


 あかりがやって来て、ネックレスを持ち上げる。既にあかりの顔は真っ青だ。

「い……石の光が消えている!?」

 持つ手が極端に震えている。こんなにうろたえている人初めて見た。

 そのネックレスをテクラの胸元に押し当てる。

「え!?」

 今度は額に。

「ちょ、痛い。あかりさん!」

「やっぱり、光ってへんやん……」

 もうあかりの顔には悲壮感が漂っている。今にも死にそうだ。


「テクラちゃん。原因がわかったわ。変身できひん理由が」

「え、何?」


「魔法少女の力、なくなっちゃったね。あはっ」


 そう言うあかりの顔は尋常ではない顔をしている。少し涙を流しているのも分かった。

 そして畳の上に大の字になって寝っ転がると、


「あははははは!」


 大声を出して笑った。決しておかしいから笑ったのではない。

 今までやって来た行動が、一瞬のうちに無になったからの高笑いだ。


 その空しい笑い声は、柔道場に響き渡り、いつまでもその声は終わらなかった。


(Scene.2 完)


■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□


お知らせです。

ゾーンウィッチエイドスピンオフ作品(え、マジそんなんあるんや)Σ('◇'*)エェ!!


ゾーンウィッチエイド 魔法少女テクラの日記

https://kakuyomu.jp/works/16817330648393478453


は、不定期で更新中です。

少し先のお話が読めたり読めなかったり、今後は本編に吸収されるので、読むなら今のうちだー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る