Scene.2 Action.8 友達が、出来ました。
やって来たのはお馴染み五條合同庁舎。今日はここで入団届けを出すそうです。そういう面倒くさいのはWedで手続きすればいいのにね。
課長とあかり、そしてテクラ一行は2階に上がり、そしてあの、テクラが一番最初に逃げ出した会議室に入る。そこで用紙に名前など、必要事項を書き手続きあっけなく終了。
これで用事は済んだ。2件の用事は合計でも30分くらいだった。移動時間の方が長い。
「これで終わったんならはよ帰ろ」
と、テクラは言った。アカリさん主導の話はロクな事がないからだ。
「えー、せっかくこっちに来たんだから、職員の紹介するねー」
まあそれだけなら、と、言われままに会議室をあとにする。
「はい。これ」
カードを渡される。SECURITYと書いてある。英語かな? せきゅりてぃ? 防犯?
会議室を出て、とある扉の前に立った。
「このカードは、この部屋に入る時、出る時に使います。無くさないでね」
どうやら貸与されたようだ。機械にかざすと扉が開く。カードはICカードのようで、扉は引き戸で自動扉だ。
かなり先進的というか、こんなカードが必要な部屋があるとは驚きだ。
部屋に入るとひとりの女性が座っていた。
「室長、ごあいさつです。テクラちゃんが来ました」
「何!」
「ひぃっ!」
彼女が振り向くと空気が変わった。立ち上がりこちらに向かってくると、部屋全体にヤバイ空気が充満してくる。私の前に顔を近づけてきた。間違いなく、殺気がテクラの眉間に突き刺さった。
「お前がテクラか! 色々騒動起こしやがって! 反省したのか!」
「ひゃぃ!」
間違いなく気絶すると思った。しかしなんとか耐え抜いた。
じっと見つめる恐い顔。まずい。一瞬でも目を逸らすと本気で殺られる……
「そうか。私が司令室を担当する室津だ。よろしくな」
室津という人の顔が私の顔から離れていく。危機は去ったようだ。しかし、テクラの体は立っているのがやっとのようだった。見たところ40代後半くらいか。本当に恐い顔で、恐らく親戚にギャングがいる。そう思うような出で立ちだ。
「はーい、テクラちゃん聞いて。ここが指令室。現場に出ている時は、ここから無線で連絡を入れまーす。だから室長とは仲良くしてたほうがいいよー」
「はい!?」
ここがウィッチエイドの本部か何かのようだ。何かの指示があれば、ここにいる室津室長から連絡が来る。仲良く出来るとは……到底思えないが。
「この棚にエイドバッグがあって、これと無線は最低限持って行きます。現場に行く時ね。覚えててね。じゃ、次行ってみよー」
ヘトヘトになりながら部屋を出る。もしかして、大変なところに来たんじゃないか。そう思った。
◇ ◇ ◇
司令室を出ると、あかりが誰かに声をかける。
「椎先輩。かずさは教室?」
「うん、教室だよ」
「と言うことは、堀江もか……オッケー、椎先輩も一緒に教室に来て下さい」
事務所にいたひとりの女性は椎さんと言うらしい。40代くらいの女性だ。おしとやかそう。あかりさんとは真反対のキャラだ。そして、あかりはどこかに電話をして誰かを呼ぶ。
「あ、モモ、暇でしょ。今すぐに教室に来て」
テクラは、あかりと椎と3人で移動する。移動先は教室。最初、ここに来た時に寝ていた場所である。
教室に入るとあかりは、
「堀江ー、もういいよー。仕事に戻ってー」
「ええ、でも今は小テストの最中ですけど」
「うん。私が見てあげるから」
「おっしゃー!ラッキー! 勉強終わり!」
そこにはあの堀江という人と、かずさがいた。なるほど。ここは魔法少女が勉強する教室だったのか。少しすると、あかりに呼ばれたらしき人が入ってくる。
「じゃあ揃ったので自己紹介していきまーす。まずは椎先輩から」
「初めまして、若葉椎です。数学の教師をしています」
あ、なるほど、この教室の先生だったのか。
「木下モモで~す。担当は~英語と理科だけど~、基本的に英語を教えていま~す」
最後に入ってきた人。なんだか雰囲気が「ぽわんぽわん」している。つかみどころがない人だ。
「あかりでーす。社会の先生でーす。自己紹介4回目でーす」
え、あかりさんも先生なのか。大丈夫かな?
「かずさでーす。あなたの、青色魔法少女でーす」
かずさはすごく馴れ馴れしい。まだ私が憧れている魔法少女だって思っているのかな?
「あ、はい、テクラです。テクラケーニッヒです。よろしく」
「あと、この4人とね、さっきいた室長はウィッチだから」
あかりが補足した。ということは、ここにウィッチが5人もいるんだ。結構な人口密度である。かずさも補足した。
「私は現役の魔法少女でーす」
「室長と椎ちゃんは引退して魔法使えないけどねー」
「もう一人、元ウィッチがいるけど、話しやすいのはこの4人かな。だから、何かあったらこの5人に頼ってね」
「あの室長も? ですか?」
「うんうん。室長って、話せば怖いけど、私たちのいうことは聞いてくれるからね」
え、本当ですか。そうは見えないけど……
その直後、またあかりが私の顔を見て、「これで、テクラちゃんの望みが叶ったね」と言われた。少し意味がわからなかった。
「車の中で友達が欲しいって言ったやん。だから、私たちが友達になってあげる」
なるほど、先ほどここまで来る間の車中で、プレゼント何が欲しいという問いの答えを気にしてくれていたんだ。
正直ありがたいとは思うけど、かずさはともかく、椎さんは40代で、どちらかというと友達と言うよりもお母さんだと思う。室長にいたっては、あまり関わりたくはない。
「でも、そんな突然言われても、どうしていいか……」
「みんな、いいよね」
あかりちゃんが同意を求めると、みんなは笑顔で答える。
「もちろん」
今から友達だよ。と宣言されて、正直嬉しい。けれど、突然だったので多少戸惑いもある。そうすると、あかりがまた抱きしめてきた。
「あのね、今からウィッチエイドの仲間になるやん。正直、これから嫌な思いも、面倒くさいことも、しんどい時もいっぱい出てくると思う。だからね、あなたがもし辛くなった時、そういう時は友達に頼りなさい」
「友達」
「そう、だから、私たちは友達なの。私たちに頼りなさい。いつだって味方です」
あかりに抱きしめられながらそんな話をする。
「この吉野郡は本当に人が少ないから、ひとりでいろんな事をやらなあかんねん。最初は辛い時もある。だから本当に頼って」
そばで私を見ていたかずさもつぶやいた。そうか、ウィッチとしてこれからいろんな事が起こるから、そのためのアドバイスなのか。
「もう一度言うね。私たちは今から友達。そして仲間。助け合う。いいね」
友達、仲間。テクラが日本に来てから欲しいと思っていたものだ。
「友達、仲間、助け合う。ありがとうございます。もう、友達ですね」
いい響きだ。仲間と共に助け合ってウィッチとしての使命を果たす。あれ、ちょっとだけかっこ良く思えてきた。
「じゃあ、やることなくなったし、外行こうか」
あかりの提案によって、みんなは教室をあとにする。
廊下を歩いている時に、あかりとモモは何やら話をしていた。
「あかりちゃ~ん」
「何、モモ」
「桃の能力~、使ったわね~」
「ふふーん、どうかしら」
「バレたら~、テクラちゃんきっと怒ると思うよ~」
「まあ、あの子ならバレても許してくれると思うよ」
「本当かな~」
「うん、素直な子だからね」
後ろから、どこに行くんだろうと思いながら歩くテクラ。
すごく心が軽いし、情熱が湧き上がる感覚がある。ウィッチを嫌がっていた当初とは、何かが違って思えたのだ。
「私、魔法少女になって人を幸せにするんだ」
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