Scene.2 Action.7 まんじゅう欲しい

 こんにちは。

 まだまだ暑いですね。テクラです。

 これからまだ1ヶ月くらいはこの暑さが続くようです。日本の夏はどうかしています。


 そして、世間では「お盆」というサマーバケーションだそうです。1週間しかないそうで、みんなバタバタしていますね。


 私はと言うと、警察からの呼び出しが1度あり、それに出頭したくらいで、あとは家の中でゴロゴロ。台風が来て雨続きだったので、本当にやることがなかったので憂鬱でした。

 そんな中、1本の電話がかかってきました。


◇ ◇ ◇


 今日もまた、居間でぼーっとテレビを見ていたら電話がかかってきた。ウィッチエイド担当のあかりからだった。

「師匠はいますか!」

「おばあちゃん、あかりさんから電話」

「え、あ、今の声はテクラちゃん! いやーん久しぶり。元気にしてた? この前はごめんねー。色々フォローできなくて。でもね、今回いい話を持って来たのよー。って、もしもし、もしもーし」

 相変わらず、マシンガントークは健在だった。嫌な予感もするし。

「はい、ありがとね。もしもし……」

 とりあえず、私に対しての事だと思うから、逃げるようにして自室に戻った。


 電話が終わったようで、たまきが話しかけてきた。

「テクラちゃん、明日暇?」

 私が忙しいことなどないけど、忙しいと嘘をつきたいところだ。どうせあかりさん絡みの話なんだろう。

「暇やで」

「朝から警察署行こうか」

 やっぱりである。

「でも、そこのやからな」

「?」


◇ ◇ ◇


 翌日の朝8時、あかりさんが鈴木課長と一緒に家にやってきた。

「やーん、テクラちゃんお久しぶりー。ちょっと背、伸びた? 伸びるわけないか。あはははは」

 抱きつきながらのマシンガントーク。暑いんでやめてください。


 まだ世間ではサマーバケーション後半なのに、これからあかりと鈴木課長、そしてたまきとテクラ本人で警察署に行くことになる。警察署の人も大変だな。休みはないのかな。ま、警察に休みがあったら大変だけど。

 しかし、行き先は彼女の逮捕された五條警察署ではなく、地元の橋本警察署に行くらしい。


「うふふ。今日はねー、魔法少女任命式よー。テクラちゃんの初めての大仕事よ」

「え、初めての仕事は、逮捕されて取り調べされたことじゃないんですか?」

「あー、そんなこともあったかなー?」

 はぐらかされてしまった。もう、この人は……


 任命式。名前を聞くだけでちょっとダルくなりそうだ。


◇ ◇ ◇


 警察署の4階にある大会議室。机は取っ払われ、中央に椅子が数脚置かれ、そこにテクラたちが座る。

 9時になると、警察のお偉いさん方が次々に入って来て、部屋の壁際に並んだ。正面の少し段になっているところに、警察署のトップと思われる人と、秘書の人3人が並んだ。どうも警察署長らしい。


 任命式はすぐに終わる。任命証をもらい、警察署長のありがたいお話を10分くらい聞いてお開きだ。

 その後、警察の偉い人と課長と主任が少し立ち話をして解散。これならやらなくてもいいんじゃ?と思った。

「一応形式上やるものだから仕方ない」とあかりは言う。

「さあ、次は入団届けを書いて貰うわよ!」

「ニュウダントドケ?」

 今度は五條に行くそうだ。早く終わって欲しいと思う。


◇ ◇ ◇


 あかりが車を回している間、警察署の玄関前で鈴木課長と一緒に待っていた。まだ10時前だというのに暑い。溶けそうだ。

 たまきは、家が近所であるし、買物に寄りたいと言うことで歩いて帰っていった。


 ふと、誰かに写真を撮られているような気がした。玄関を背にして右側、そこにある駐車場の車の陰から、私たちを写真に撮っている(と思われる)ひとりの男性がいた。私に気づいたのか、写真を撮るのをやめて、車に乗ってどこかに走り去っていった。

――あれ、何やろ?


 すぐにあかりが車を回してきたため、特に考えず乗り込んだだめ気にもしなかった。


◇ ◇ ◇


 車はあかりが運転し、助手席に課長。私が後部座席に座った。偉い人が後ろに座るんじゃないかなと思うのだが、日本では違うのかな?


 あの事故騒動の後、ウィッチエイドの関係者には会っていなかった。ニュースで散々取り上げられていたけど、結局のところ結末がどうなったのか知らない。あかりさんに聞いてみる。

「あの、事故の件ってどうなりました?」

「うふふ、気にしてくれるのー。嬉しいわー。でもね、テクラちゃんは気にしなくていいのよ」

「いや、でも、私がやったことだし……」

「そうねえ、建物壊しちゃった人には、謝りに行かないとだめね。また今度一緒に行こうね」

「あ、はい……えっと、でも、それだけじゃ……」

「うん?」

「あの、お金とか……事後処理とか……」

「ああ、保険が下りるから大丈夫よ。それよりも、いっしょにウィッチエイドの活動、頑張りましょー」

「テクラ君ね。あなたが心配することはないよ。事故に関しては大人に任せればいいんだよ。そのために私たちがいるんだから」

「あ、はい」

 テクラとしては、迷惑をかけたところにはお詫びに行きたいが、そうではなく、その後の事件の行方である。

 あれだけ派手に暴れたのだから、私に対するバッシングとか、課長やあかりさんの処遇が気になるのだ。管理責任の問題で、もしかしすると解雇とか配置転換とかになったりしないか、気が気ではない。今、友達もなく、知り合いも少ないテクラにとっては、喋る相手がいるだけでも貴重だからだ。

 あかりさん、嫌な相手ではないし。


「そうそう、テクラちゃん何か欲しいものはない?」

 あかりが聞いてきた。

「欲しいもの?」

「そうそう。入団祝いが出るのよー。結構高額なものでもいいわよー。なんたって、我が郡の予算は毎年あまりに余りまくるからー使わないともったいないのよー。ねー、何がいいー?」

「そう言われても……」

「フライパン一式とか、冷蔵庫とか洗濯機とか、電子レンジやオーブンとか、机・椅子・タンスとか、ゲーム用のパソコンとか、50ccのスクーターくらいまでなら全然いける」

 急に欲しいものとか言われても思いつかないよ。今欲しいもの?


「私は今…………友達が……欲しいです」


 一瞬あかりの動作が止まる。車内に沈黙が生まれた。

「やーん、テクラちゃん、その返しナイスよ! そっかー、本当はお金を使いたいのよ。湯水のようにジャンジャン。けどねー、テクラちゃんのその願い、あかりちゃんが叶えてしんぜよー」

 あれ? もしかしてやっぱり変だったかな? でも、今思いつくもの本当にないし。

 まあいいや、また今度欲しいものを言っておこう。そう思った。

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