Scene.2 Action.4 そそのかされクライシス
こんにちは。テクラです。
私は本日、無実の罪で日本の警察に捕まりました。
えん罪です。えん罪ですよ!
「ごめんな、これは絶対にやらなあかんねん。規則やからな。両手出して」
先ほどまで、私は入院していました。
そして、退院の直前に、病室で逮捕されました。
初めて手錠というものをかけられます。
手を出して、初めて手錠をかけられる様子を見ていたら、何故か悲しくなってきました。
私は何もしてないよ。
ただ、おばあちゃんと暮らしたいだけで日本にやって来ただけなのに、この仕打ちはあんまりだ。
何故こうなったかというと、おととい、私は魔力酔いを起こしてすっかり意識を飛ばしていました。
でも、1日寝て、次の日に再度お昼寝をして、やっとその時のことを思い出したんです。
……
…………
………………
ああ、これ、えん罪でも何でもないわ。
私、やらかしてるわ。
あれ? もしかしてとんでもないこといっぱいやらかしてない?????
「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
私、刑務所に入れられちゃうのでしょうか。あわわわわわ
◇ ◇ ◇
五條警察署、ここにテクラは連れて行かれた。国道沿いにある、少しくたびれた建物だった。
「警察署前にも報道陣おるわ。顔隠して」
「はい」
言われるがまま、病院から出た時と同じように、顔を伏せてやり過ごした。
「まあ、自分は未成年やから、報道も顔出してるところは映せへんとは思うけどな。映したら少年法に引っかかるしな」
じゃあなんでやらせんねんねや。と、心の中で思うテクラ。
「ははは、何や、不満な顔してるな」
「なんか、犯罪者になったようで嫌や」
「まあ、そうやけど、報道陣に顔バレしたら、その後取材されたりとかしてうっとうしいぞ」
なるほど。取材する側が顔を覚えてしまうと、しつこくつきまとわれるのか。パパラッチみたいな感じかな? などと考える。
裏口から建物に入り、とりあえずは取調室へ。ここで手錠を外され、少し待たされる。
数分後、ふたりの刑事が入ってくる。ひとりは病院で警備に当たっていた人で、もう一人は女性だった。
「じゃあ改めまして、五條警察署少年課の髙橋です。んで、こっちは同じく少年課の安藤。この二人が担当します」
「はい、よろしくお願いします」
「まずは魔法少女着任おめでとう……って、言うてもええんかな?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ははは、あんまり嬉しないんやってな」
「そうですね、あんまり」
「話は聞いてる。あかりちゃんとかたまき師匠からな。ドイツとは違って、日本では魔法少女に寛容や。すぐに慣れると思うで」
「はあ」
「絶対にええ経験になると思う。貴重な人生になる。絶対に保証するから」
ここでもお祝いされてしまった。そして、自分の決めた進路を後押ししてくれる。
「じゃあまず、取り調べに関して説明な」
取り調べは主に、逮捕時に言われた罪状について、経緯などを含めてどういう状況でそうなったかを説明して欲しいということ。その中で、間違っているもの、不足しているもの、新たな余罪があれば申告して欲しいとのこと。
また、未成年者にも黙秘権があること、弁護士以外にも少年法では親族の付き添いが出来ることなど、一連の刑事罰に対する容疑者の権利を教えてくれた。
「今日はそろそろ夕方になるから、当日の足取りだけ聞くわ。それを元にして、明日以降の取り調べの段取りするからな」
「あ、〈足取り〉って?」
「ああ、どういうコースを使って市内を走り回ったか。かな」
「ああ、なるほど」
「どこでどれだけいたずらしたかの確認やな」
「もうやめてください。恥ずかしい」
「ははは!」
警察官と聞いて、威圧的な態度で接して来るのかと思ったが、そういうではなかった。「日本の警察官は世界一優しいよ」と言っていたが、あながち間違いではなさそうだ。特に女性警察官は親身になって話を聞いてくれる。いい人だ。
「あの、すいません」
「何かな」
「私、これからどうなるんですか?」
「本当なら家に帰してあげたいんやけれど、今日は手続きの関係でそれは出来ひんねん。ごめんな」
「あ、そうじゃなくて」
「あはは、ああ、今後のことやな。大丈夫やと思う」
警察官は、容疑者に関してどうなるとかは言えないらしい。警察は、あくまでも逮捕して捜査するだけの部署。これを元に裁判をする部署が検察庁になると教えてくれた。
「ただな、警察も検察も、MGU、ああ、今はウィッチエイド言うんか。とは仲好しやねん。県とも連携してるから、めったなことで有罪になることはないし、そもそも裁判するかどうかも怪しい」
「ええ、もみ消すんですか?」
「ほんまにドイツ人か? えらい日本語知ってるなあ。そうやなくて、自分は未成年やから少年法で守られてるんや。裁判するよりも、更正、言い換えると〈正しい大人〉になるかに重点をおいてるから、別の方法で話を終わらすんやないかなと」
「別の方法?」
「児童相談所というところで対応するとか、保護観察処分とか、色々ある。まあ、ほんまに警察官があなたはこうなりますって言われへんけど、何となく流れはそっち方向かなと」
「そうですか」
「まあ、自分は魔力酔いで暴走していて、前後の見境がありませんでしたとか言うと、多分ええと思うわ」
「それはあれですか? 〈魔法の言葉〉とか言う」
「ほんまは日本人やろ? 自分。まあそうやな。それを言えば情状酌量ということで、知事観察処分になってウィッチエイドに入れさせられる」
「へ?」
「あなたが入ったウィッチエイドは、魔法少女の更生施設の機能もあるから、結局MGUに入る運命やったのかもしれへんな」
……
…………
………………
あれ???????????
「えええええええ???????」
何かがおかしいとは思っていた。けれど、この一連の話で確信した。
あのあかりさんは、絶対に私をウィッチにして、ウィッチエイドに入れたくてしょうがなかったんだと。
「一体あの人は何なの?」
考えていたことが口からぽろっと漏れた。
「ん、それはあかりさんのこと?」
「え、あ、はい。よくわかりましたね」
「そらわかるよ。あのひととはもう10年以上も関わってきたからな。現役魔法少女時代から」
「え!? 魔法少女だったんですか?」
「ていうか、今もウィッチやで。桃の」
――えええええええええ!
テクラは気づいていなかった。山火事の現場から担架に乗せて運ばれた時に、あかりも一緒に空を飛んでいたことを。しょうがないか。あの時は、彼女は意識は取り戻してはいたが、記憶も曖昧だっただろうし。
――そう言えば、担架で運ばれた時も、空を飛んでいたような気がする。ということは、私、魔女にそそのかされた?
正解です。
「あかりさんって、私をどうしようとしてるんかな。お、恐ろしい-」
その後、警察官の髙橋と安藤さんと色々話をしたと思うが、テクラはよく覚えていなかった。これは魔力酔いではなく、単に、自分に都合の悪いことは覚えないという決意の表れだったのか、単に眠たかったのか。
まあ、魔法少女の能力に、そう言うものはないのは確かだ。
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