Scene.2 Action.2 犯罪者になっちゃった(中編)
翌朝。
誰かが私のそばでごそごそしていた。見ると、昨日とは別の看護師さんが血圧を測っていたところだ。ぐっすり眠っていたらしい。あと、体温も測られる。
確かに体はすっきりしていた。快調である。ただ、昼間寝ていたり、夜も少し考え込んでいたせいか、寝起きはあまりすっきりしたとは言えない。
そして、昨日の昼以前のことが、だんだんと、ぼんやりだが思い出してきていた。
――朝、あの、あかりさんていう人が家に来た。
そのあと、散歩に行った。
そしたら交差点で事故に遭った。
それを助けたのが、魔法少女???
確か、全身赤色の服を身に纏った人。
というか、ウィッチ。昨日言ってた人かな?――
テクラは、ひとつひとつ昨日のことを思い出そうとしているが、まだわからない部分があるようだ。魔法少女が自分自身だと言うことに気づいていない。
――それで、びっくりしてその場から逃げたら空を飛んで……
そう!別の魔法少女に声をかけられたんだ。
確か青い色だったような?
その後、何故か川に……捨てられた?
あ! もしかして、最初に会った赤い魔法少女は悪者だったんだ!!!!――
思い出した部分をつなぎ合わせ、足りないところを自分の解釈で構築してみせる。しかし、それは間違った解釈だった。
赤い魔法少女は悪者。その、構築した「事実」は、この後彼女に絶望を与えるというのに……
「朝ごはんですよー」
看護師さんが朝ごはんを持って来てくれた。その看護師さんの話だと、私は昨日の朝から何も食べていないらしい。
点滴を打っているし、1日くらい何も食べなくても大丈夫とは言うものの、胃に固形物が入っていないので、やっぱりお腹は減る。
朝ごはんは、ライスと目玉焼きにポテトサラダ、葉物野菜を何かに漬けたもの。卵のスープ。ドリンクはパック入りのりんごジュースだった。味は薄味なので、あまり美味しくはなかったけど、すぐ完食した。
ごはんを食べながら、昨日の記憶をつづきを思い出そうとしていた。
――あの交通事故を起こしたのは赤い魔法少女だ。
多分、誰かを狙って殺そうとしてて私が巻き込まれたのよ。
でも、私は運良く助かったので、私を口封じに来たんだわ!
何か、よからぬものを目撃しちゃったのよ。そう、そうに違いない。
だから川に落とされて殺されかけたところに、青の魔法少女が颯爽と登場したんだ――
川に落ちて溺れそうになっているので、この辺りの記憶は本当に曖昧だろう。しかも、1度目の魔力酔いのピークだったし。けれども、けれどもその発想はあまりにも突飛すぎるよテクラちゃん。
そしてテクラの中で、青の魔法少女(=かずさ)の好感度がアップしていく。
――そのあと、私は青の魔法少女の秘密のアジトで目覚めて、そのあと魔法少女がどうのこうの……
ああ、そうそう。あの赤い悪者魔法少女のことに関して事情を聞かれていたんだ――
確かに、赤い魔法少女の事は聞かれている。けれど、それはあなたのことだって早く気づこう。
――その途中で、赤い魔法少女が私を連れ去りに来た。
すごいな、その赤色魔法少女。
アジトまで乗り込むなんて。
これ、私が人質になってって事だよね…………また人質か…………不幸体質が憎い――
たしかに、赤い魔法少女はすごいです。あの力はたまきが保証しているから。
この辺りから、魔法の力を暴走させている状態なので、思い出すことはかなり困難になっている。
――それで、追いかけられる途中で街中の建物を壊しながら走ったんだ。
その時に、私はいろんな所にぶつかって大けがをしたと。
そのあと、大けがをしている私を見て、もう人質に価値がないって思われて、
一生空を飛び続ける魔法をかけられて捨てられたんだ――
魔法少女にそんな呪術的魔法を施す能力は(紫石以外)ない。
――でも、赤の悪者魔法少女がミスをして、山にぶつかった。
けど、呪いの魔法が発動して山に放火して私を焼き殺そうとした。
あれはあれね、私が地面に着地すると私の体から炎が燃え上がる仕組みなんだ。
さすが赤い魔法少女、人間じゃないわ。恐ろしい――
もうやめて。完全に思い出すと、あなたのメンタルがやられるよ……
――けど、それを救ってくれたのが、あの、青のカッコイイ魔法少女と…………希美!?――
× × ×
(フラッシュバック)
○竹林
山の中腹あたり、竹林となっている。
少し先の竹林は燃えている。
希美(14)「念願の魔法少女でーす」
○空中
担架に乗せられているテクラ(14)。前方を
あかり(28)が、後方をかずさ(14)が持ちな
がら飛んでいる。後方にテクラの頭が
ある。
希美はテクラを見ながら、
希美「私と一緒に魔法少女しましょー」
(フラッシュバック おわり)
× × ×
希美の姿を思い出した。希美は日本人で、元々魔法少女に抵抗感があまりない。アニメが大好きで、魔法少女になりたいなんて思っていたようなので、日本に帰ってきて念願の魔法少女になれたのは、どんなに嬉しかったんだろうね。
――希美ちゃん、綺麗でかっこよかったな。
でも、あんな赤い悪者魔法少女と戦わなきゃならないんだ。私には出来ないよ――
いい加減、その赤色魔法少女が自分だという自覚をしないと、本当にマズいと思いますよ。
◇ ◇ ◇
誰かが部屋をノックした。
入ってきたのは、あかりと、テクラの祖母たまきだった。
「おばあちゃん!」
「元気かい」
涙を流しながら抱きつくテクラ。
「テクラちゃん、今回は今回は私のワガママのせいで危険な目に遭わせちゃって、おばあちゃん失格だよ」
「ううん、もう大丈夫だよ」
「ところでテクラちゃーん。記憶の方は戻ったのかなー、これねー、早く記憶戻らないと退院できないのよ。退院しないと色々面倒なこと山積みなんで、早めに思い出して欲しいんだけどー、どーかなー」
「まだちゃんと思い出せない部分があって」
「そっかー、まだまだかー。実はねー、いいにくいんだけれど、警察が早く身柄を確保したいって言われててねー」
「そうですよね! あの赤い魔法少女は捕まえないとだもんね!」
あかりもたまきも、その発言にきょとんとしている。
「私を口封じするために、交通事故を起こしたり、私を水死させようとしたり、悪逆の限りを尽くしたんだよ。悪いのはあの赤い悪魔だ!」
あかりが吹き出した、顔は笑いをこらえるのに必死のようである。
「あ、あと、青い魔法少女さんにお礼を言いたいです! 私を赤い悪魔から助けようと必死に頑張ってくれていたんでしょう。あの子がいなかったら、私、焼け死んでいたんだもん」
「(クスクス)そ、……そうかあ、私も最初の頃は魔力酔い起こしてよく記憶無くしてたけど、ここまで記憶の構築に失敗してるのも珍しいな」
何のことかよくわからない。たまきは事実を告白しようと、
「テクラちゃんね、その赤い魔方法少女って……」
「ちょーっと待って! これはテクラちゃん自身で思い出させてあげた方がいいでーす。と、いうわけでー」
あかりの持っていたバックから何かを取り出す。
「今までに思い出したことを日記にしてちょーだい。これが、今あなたがやるべき事よ」
そういって紙とペンを差し出した。
「これは記憶を取り戻す練習にもなるから、なるべく小説のように書いてみてー。傑作が書けるかもよー」
「あかりちゃん、面白がってるでしょ」
呆れるたまき。
「そんなことないですよー。テクラちゃんには、本当のことを知るためには、赤い魔法少女のことをもっとよく理解してもらわなきゃだしね」
「え、今の違うんですか」
「んー、だいたいは真実なんだけど、ふたつ、違うところがあるなー。どこだと思う?」
テクラは紙を持って考え込んでしまった。
「まあ、今日の所はまだ記憶の混濁中ということで警察には連絡しておくし、接触もするなって釘を刺しておくわ」
「ふたつってどこですか?」
「それは考えてみて。あ、師匠も、教えちゃダメですよ」
あかりは満身の笑顔でそう答えた。
「でも、テクラちゃん、本当にごめん。辛い思いを今後もさせなきゃいけないのに」
「おばあちゃん?」
「今後も、あなたには全力でサポートしてあげるから、頑張って」
「え? あ、うん」
「じゃあ、これ」
たまきが大量のお菓子を持ってきてくれた。
「病院食は味気ないからねえ」
「ありがとう」
「今は面会時間じゃないからもう行くね」
「あ、あかりちゃん、これ、スマートフォンなんだけど、使って。電話代とかは気にしなくていいからね」
あかりからスマートフォンをもらう。何となくこれで暇つぶしできそうだと思った。
「あと、青い魔法少女にも伝えておくね。あの子はそんなこと気にしてないと思うけど」
「よろしくお願いします」
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