第2話 犯罪者になっちゃった?

Scene.2 Action.1 犯罪者になっちゃった(前編)

Guten Tag. (ぐーてんたーく)

ich bin Thekla (いっひびーんてくら)

 みなさんこんにちは。ドイツ人のテクラです。


 私は今、何故か日本の警察官と個室でお話中です。あれ、これってもしかして……

 刑事ふたりが入ってきて、私の目の前の椅子に座ります。そこで何かを言いました。


「ケーニッヒテクラさん、あなたには、列車往来妨害罪、森林放火罪、器物損壊今わかっているだけで24件、交通事故18件、信号無視などの道路交通法違反少なく見積もって7件、他余罪多数の容疑であなたを48時間拘束します」

「ええー……」


――どうしてこうなった!!!!


◇ ◇ ◇


 目が覚めると、そこは知らない部屋のベッドの上だった。ただ、私がいつも使っているベッドではないのは何となくわかったが、それ以上は良く覚えていない。

 何故か頭が回らず、なんだか体も重い。風邪を引いているような状態なのだ。ただ、風邪のような症状はなく、単に頭がモヤのかかったようにすっきりしない。


 部屋の中を見回すと、ひとりの女性がパイプ椅子に座っていた。どうやら居眠りをしているようだ。それ以外には何もなく、部屋にはベッドに横になっている私と椅子に座る彼女。あとは、テレビと小さなテーブル収納棚があるくらいか。

 とりあえず体を起こしてみると、頭上には点滴の容器がぶら下がっており、そこからぶら下がっているチューブは私の腕に刺さっていた。私の口にもプラスティックのマスクがかけられて、そこから壁に向かってチューブが伸びていた。ここで、私は病院のベッドの上にいるんだとわかる。


「あ、気づいたのね。良かったー心配したのよ。今先生呼ぶから」

 女性が安堵の表情で話しかけてきたが、誰だろう? 話した言葉もドイツ語ではなさそうだ。彼女はベッドに備え付けのボタンを押した。


「Wer bist du? (うぇあーべすどぅー?)」

 ドイツ語で答える。彼女は困った顔になってしまっている。

 あ、そうだ。この言葉知ってる。日本語じゃん。今思い出したよ。

「あなたは誰ですか?」

 再度日本語で答えた。

「おお、よかった。通じたよ。覚えてない?」

「わかりません」

「そっかー。覚えてないかー。そっかー」

 彼女はまた困り気味顔になってしまった。


「ふふっ。今日あなたに自己紹介するの3度目やけどな。あかり。遠藤あかりです。もう、忘れんといてな」

「3回」

「どこまで覚えてるかな? 私、あなたの家に今日の朝行ったん覚えてる?」

「Augsburg(アウクスブルク)のですか?」

「え、どこそれ?」

「Königsplatz(ケーニヒス・プラッツ)からLechhausen(レヒハウゼン)行きのトラムに乗って、Schleiermacherstraße(シュライアマッハー通り)から少し歩いたところです」

「それ、ドイツの話?」

「え?」

「まさか、日本に来てることも忘れたん?」

「え?」

「あー、これかなり重症やわ。」

「ここ、日本なんですか?」

「そう、おばあちゃんの家の近所の病院ね」

「え、何で?」


 話をしていると、部屋にお医者さんと看護師さんが入ってきた。看護師さんが点滴との器具を外して、お医者さんには脈をとられたり、聴診器を当てられたりして一通りの体を調べられた。診断の結果はよくある記憶障害とのこと。ただ、記憶喪失とは違い、必ず今までのことは思い出すから、今は気にしない方がいい。と言われる。

「ありがとうございました」

「お大事に」


 お医者さんと看護師さんが退出していき、部屋にはまたテクラとあかりふたりになる。

「……で、どこまで話したっけ?」

「おばあちゃんは元気ですか?」

「あー、さっきまではおったんやけどね、テクラちゃん、起きひんで帰たわ。また明日来るけど」

「そう。でも私、なんで病院なんかに」

「今日、ちょっと事故に遭うてね。あ、大丈夫。体の方は別の魔法少女が治したから安心して」

「魔法少女」

 そうだ、日本は魔法少女が合法で、ボランティア活動もしているという魔女先進国だ。私は魔法少女に助けられたのか。

「ただ、その副作用? 的な何かで記憶を無くしてんねん。まあ、寝たら思い出すから、今日はよー寝て」

「はい。あの」

「何?」

「あなたは私の何なんですか?」

「ああ、私は魔法少女の……うーん……関係者です」

「そう……ですか」

「もう面会時間終わるから行くね。それまでにしっかりと静養して。無理しないでね」

 と言い、あかりは部屋を出て行った。


 まだ納得出来ることは少ないが、体の方もダルいので寝ることにした。

 布団の中で寝る態勢を整えても、寝つけずにいた。おそらく昼間寝ていたせいだろうか。そうなると、ついついいろんな事を考えてしまう。現状のこと、ドイツのこと、日本のこと、おばあちゃんのこと。しかし、いっこうに答えが出てこない。記憶障害だからだろうか、自分の考えが上手くまとめられないのだ。

 魔法少女のことも気になる。何故助けられるようなことをしたのか。見当もつかない。


――これは私の不幸体質の性(さが)だよね。


 彼女は生まれながらにして不幸な目に遭う性質がある。

 たとえば4歳の頃、貨物列車に轢かれそうになった事がある。駅でも線路に転落して、列車と接触事故を起こしている。社会科見学に行った工場で、機械が暴走して死にかけたことがある。真冬のレヒ川で溺れて、本当に生死をさまよったこともあった。

 旅行に行ったら、現地でデモ隊に遭遇して、暴徒化した集団に巻き込まれた。

 極めつけは、国際テロ組織の人質にされて、新聞の1面に顔写真が載り、世界中のテレビニュースでも散々報道されたことがいちばん大きな事件だ。その後、彼女は人前に出る事を極端に嫌がった。あまりにも有名になりすぎて、どこに行っても声をかけられるからだ。

 そう言えば、彼女が日本に来たときも、ミュンヘン発関西空港行きの飛行機が、機材トラブルのため成田空港に機緊急着陸した。そのあと、関空へ行くのに別の飛行機の手配が間に合わず、1日近く過ごすことに腹を立てて暴動になり、その中心にいたのもテクラだ。


――うん。相変わらずすごい事件に出くわすわ。まあ飛行機が墜落しなかったからよかったって思うくらい、不幸慣れしたけど……

「あ、」

 ここで自分が日本に来た経緯までを思い出したようだった。


――そうか、そうだそうだ。私、日本に来たよね。で、諦めて鉄道に切り替えたんだ。そうだよ。新幹線乗った乗った…………けど、そのあとどうしたっけ?

 しかし、思い出すのにかなり苦労するのか、このあたりで力尽きて寝てしまうのだった。

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