Action.5 まさかあなたが天使様(その1)
「……………………」
「ゴンッ!」
「あうっっ!!!!!!」
「ズザザザザ……」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛…………」
一瞬自分の身に何が起こったのかわからなかった。
果てしない空を飛んでいたテクラの頭に、何かが当たったかと思うと、頭から肩、背中にかけて、猛烈な勢いで激痛が走った。
目を開けてよく見ると、どうも地面に激突して引きずられているような状態だ。生えていた2本の竹の間に刺さるようにしてようやく止まり、テクラの空中生活は幕が閉じたのだ。
止まった時の状態は、首が曲がり、体は竹と真っ直ぐへばりつくような状態で、「逆立ちに失敗した人」のような姿だった。
飛行する魔法が切れたのか、そんな体勢もすぐに解け、地面に大の字になって倒れ込んだ。テクラは空を眺めながらやっと解放されたという気分が湧き上がるのを覚えた。
「うおおおおおおお、やったやった!ようやく……」
全身で喜びをかみしめようと思い立ちあがり、両手を挙げてバンザイした瞬間、全身から激痛が走ったのだ。
今度はうつむきに倒れるテクラ。よく見ると、腕に無数の傷があり、ミミズ腫れを起こしていたり、切って血が出ている場所もある。
――一体何が起こったのだろう。地面に激突するだけではこんなにケガはしないはずだ。事務所から飛びだして街中を走り回っただけなのに……
せっかく地面に舞い戻ったのに、これでは歩けない。というか、起き上がるのも困難だ。
飛んできた市内からは結構離れていて、見知らぬ山の中腹だ。こんなケガをしていては帰るに帰れない。唯一良かった事は、あの変なコスチュームが解除されていたことくらいか。
ここでもやはりくじけそうになる。
もう本当に今日は何なの? 厄日だ。やっぱり私の不幸体質だからだよ。こんな損な性格、捨てたいよ。
とても悔しい思いをするが、そのうちに、また怒りの炎がメラメラと燃え上がってきたようだ。
――あれ?私ってこんな性格だっけ?
そう思って見たものの、すぐにそんな想いはどこかへ消え去り、憎悪と悔しさが支配してしまう。
今にでも、また走りだしたい気分になるが、全身の大けがで全く動けない。
体の中の溜まった思いを何とかしようと、ようやく四つん這いになった頃、また変身してウィッチ服になったテクラ。そしてゆっくり立ちあがり仁王立ちの状態となった。
しかし、どうも様子が変だ。眉間にしわを寄せ、全身がわなわなと震えて、全身が真っ赤に染まっている。
いや、染まっているというか、自分で真っ赤な光を発しているような、そんな状態だ。とても尋常な状態ではない。
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
大きなうなり声を上げて叫ぶと、口から大きな丸い火の玉を出した。
ありったけの力を出すと、その火球が竹林の中に飛びだしたのだ。
その火球は10メートルくらい先に落下し、次々と周囲の竹を燃やし始る。竹は水分を多く含んでおり、爆ぜながら周囲の竹に次々と燃え移っていく。
火球を吐き出したテクラは、意識を失い、再びうつ伏せの状態で倒れ、起き上がることが出来なくなった。
◇ ◇ ◇
かずさからの無線で、指令室にいる室長や、あかりと希美は、テクラが紀ノ川河川敷から南へ飛び立ったことがわかった。空中を飛行しているということは、今のところは変身を解除していない。これは不幸中の幸いだ。
回復要員となる「白い魔法少女」は、和歌山
ふたりはウィッチリュックを背負い、変身する。
あかりはピンクの全身コート姿……というか、着ぐるみのような……表現しづらいコスチュームだ。例えるとイエティ(雪男)のような感じである。真夏に見るとかなり暑苦しい。
希美は、ブルーのローブ姿で、額や肩の部分に装飾品がいくつもあり、気品あふれるものになっている。ただ、中身は変な日本語をしゃべる帰国子女だ。喋らなければその気品はなくならないんだろうが……
「あかりさんはモコモコデース」
「希美ちゃんはすごーくカッコいいじゃない。その装備、当たりやね。」
「ハーイ。みんなから天使って呼ばれてまーす。」
そんな話をしながら螺旋階段を登り、屋上からあかりと希美が出発する。
ふたり同時に、五條の町を飛ぶ。目指すは先行するかずさだ。
◇ ◇ ◇
五條の街の空を颯爽と飛ぶふたりのウィッチと魔法少女。目指すはかずさとの合流だ。
五條本部からすぐに紀ノ川河川敷を飛ぶ。河原でゲートボールをしている集団を見かけるが、これがかずさが話を聞いた団体だろう。
あかりがコースを外れる。
「あかりさん、どこいくんすかー」
「ちょっと寄り道」
胸の横に備わってある無線機のマイクを操作する。
「桃7号から青2号」
「(青2号です)」
「河川敷まで戻ってちょーだい」
「(え、了解っす)」
一刻も早くテクラを見つけるのが目的なのに、かずさを呼び戻してしまった。何をしているのか。
かずさが戻ってきた。
「あかり先生どうしたの?」
「うん、ちょっと話を聞いてみようかってね。」
「えー、あのばあちゃんたち話長いから、捕まったら面倒だよ。」
「ほうほう。かずさは高齢者嫌い?」
「そんなことないですけど。」
「詳しい話を聞きたいし、私のテクニックをお見せしちゃう。」
「ふふん。現場ヒャッカイデース!」
「希美ちゃんだっけ? あなたの日本語おかしくない?」
「?」
3人は紀ノ川の河川敷に降り立つ。
ゲートボールしている集団は、今は休憩をしていてお茶の真っ最中であった。
「おお、ピンクの魔女さん久しぶりだな。」
「あ、こんにちはー。」
「ちょっとこっち来てお茶でも飲みなさい。お茶菓子もあるし。」
やはりというか、ご老人の団体は食べ物を勧めてくる。こういうやりとりが面倒くさいんだとかずさは思った。
しかし、すぐさまあかりが話題を逸らす。
「すいません、一刻を争う事態なんです。赤い魔法少女はどっち行きました。」
「ああ、そこの青の子にも言ったけれど、あっちの方角だな。」
「そそ、あっちに仰向きで飛んでいったわ。」
「そうですか。ありがとうございます。実は……」
「実は?」
「今彼女は敵の攻撃を受けてダメージを負っています。早く見つけないと全身に毒が回って大変なんです。」
「いや!」「あらまー」などと、団体はびっくりした表情でみんな顔を見合わせる。
「というわけで、すいません、急ぎます!」
「うんうん、気をつけてね。」
「赤の子によろしく。」
「あ、ちなみに、おみやげなら五條の合同庁舎に届けて下さい。あ、私ケーキ大好物なので24時間365日受け付けてます。それじゃ!」
言い残してあかりは飛び立った。後からかずさと希美も飛ぶ。
最後のあかりの言葉は何故か土産の催促だ。あかりは公務員(しかも正規職員)だから堂々と収賄を要求したことになる。それってマズいんじゃないの?
「おばあちゃんグループはああいう話で切り抜けるの。実は……って深刻な顔で話すと、絶対に引き留められないから。」
「なるほどー。ベンキョウイタダキマシター!」
「あのー、毒とか、敵とか、そんなウソ、大丈夫ですか?」
「大丈夫。何とかなるって。」
「本当かなあ?」
あかりの、天真爛漫でどこか強引な性格に、かずさは呆れながら一緒に捜索をするのだった。
◇ ◇ ◇
「(吉野本部から桃の7号)」
3人がゆっくりと探していると無線が入る。
「(桃の7号でーす)」
「(西吉野村で山火事が発生した。防災ヘリを確認に向かわせるので飛行注意だ。)」
「了解。」
少し先を見ると、山から火の手が上がっているのが見える。
「ああ、さっきから煙が上がってたあそこですね。」
確かに、先ほどから飛んでいる方向の、真正面の山の山腹から煙が上がっていた。このあたりだと野焼きなども行われることもあるので火事との区別が難しい。今回は本物の火事のようだが。
「ふーん。でも変ね。普通山火事は乾燥している冬場とか、風が強くなる春から梅雨前くらいが相場なのに。」
あかりは少しおかしいことに気づく。
「もしかするとあの火事、テクラちゃんの仕業かもしれない。かずさは火事の現場に向かって。巻き込まれてるかも。私たちはこのまま捜索します。」
「じゃあ先に。」
かずさが火事現場に向かう。すぐに姿が点になって消えていくような早さだ。全国にいるの魔法少女の中で、おそらく最高スピードを出せるであろうかずさの能力はすごい。希美は感心していた。
「早すぎでーす。まるで新幹線ね」
すぐに火災現場に到着するかずさ。山の中腹では竹林が勢いよく燃えていた。竹は水分もよく含んでいるが燃えやすい性質を持っている。
青の魔法少女は水や雷を自由に操れるので、かずさは火事を見ると自分の能力を使って水を出し、消火作業が出来る。しかし、今回はテクラの捜索が優先だ。
燃えさかる炎の周りに人気はなく、人家すらもない。こんな所にテクラはいるのだろうか?
火事現場でテクラを探していると、遠くからヘリコプターの音が聞こえてきた。防災ヘリが水を汲んで火災現場に到着しようとしていた。
ヘリからは、魔法少女を視認しにくい。巻き込まれれば魔法少女でも命の危険があるので、飛ぶのをやめて地面に着地した。ふと見ると、20メートル程先に彼女が倒れていた。テクラだ。
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