action4. バタバタ(その2)
奈良市内から少し離れた山間いに、ひっそりとヘリポートがある。
ここは奈良県の防災ヘリ拠点。これから県で唯一の防災ヘリが飛び立とうとしていた。
「これより五條市内に向かう。表向きは救助訓練という名目だが、魔法少女の捜索が任務となる。どうも開花した新人の魔法少女が魔法を暴走させているらしく、一刻も早い発見と救助が必要だ。よろしく」
ひとりの隊長がこれからの任務を隊員に報告し、隊員4人は敬礼をした。各員はヘリコプターに乗り込み、ヘリを操縦する民間機の機長が、航空管制に向かって離陸要求を行う。間もなく五條へ向けて発進する予定だ。
◇ ◇ ◇
「室長、警察からお電話です。1番です」
「ああ、椎ちゃん。…………もしもし」
「(こちら五條警察地域課の田中ですが。あのー、そちらの魔法少女さんで暴走されている方っています?)」
「はあ? こっちから報告してるだろ! ウチのやつじゃない魔法少女が暴れてるって。聞いてないのかよ」
「(いや、聞いてないですけど)」
「おいおい、どうなってんだよ県警は。こっちも出動させて行方追ってんのに。で、何かネタ入ったのか?」
「(実は、管内で複数の交通事故がほぼ同時に起きてましてね、沿道の交通監視用カメラとか見たところ、魔法少女らしき人物が走り回っててですね。交通に支障が起こってるんですよねー)」
「そんなことはわかっている。今どこにいるかだ。さっさと情報を寄こせ!」
「(いや、ちょっと、今のところ最新のデータ見ていると最後に確認されたのは大川橋北詰のライブカメラで、そこから堤防の方に行くのを確認はしたんですが、それ以降ちょっと見かけないんですよ。なんで紀ノ川の堤防か河川敷に入ったかなと思いますが)」
「わかった。感謝する」
一方的に電話を切る室長。警察をも恫喝するとはさすがだ。
「テクラは紀ノ川だ!」
司令室は安堵の空気が流れた。
しかし、まだテクラの状態ははっきりしないが、現状は元気に暴れているみたいだから大丈夫だ。テクラは大丈夫だが、建物や周囲の人はやはり危険に晒している。最悪の事態を想定して事を進めないといけない。室長は無線を飛ばした。
「吉野本部から青2号」
「(青2号です)」
「テクラの行き先がわかった。大川橋から紀ノ川に入ったらしい」
「(今その話をポリスメンから聞いて、大川橋を越えて南に探索中です)」
「川の南に向けて入ったらしいから、堤防や河川敷を捜索しながら南下してくれ」
「(了解)」
これでテクラの足取りはつかめたから、まもなく発見されるだろう。
次はテクラの確保だ。まず、「白の平癒(白石)」と呼ばれる回復要員のウィッチを待機させる。彼女が危機に陥った場合に備えるのだが、五條にはいない人材だ。どこからか借りてくるほかない。
「和歌山郡のふたり、あと奈良圏(ゾーン)の柏原郡、泉州圏(ゾーン)の富田林郡にいたかな」
あかりが人材の確保に当たることになった。
「和歌山のふたりから当たってくれ。特務に就いている順で要請を出す。発見次第、あかりと希美。待機している白石を連れて現場に向かってくれ。隊長はもちろんあかりな」
1)人材を確保したら、白石を五條本部に来させ、あかりと希美、それと白石を現場に向かい発進させる。
2)テクラを発見したら、覚醒状態のまま連れて帰る。絶対に変身解除をさせるな。
万が一変身が解除されていて危篤状態の場合はこちらに連絡。防災ヘリが待機しているからそちらで搬送する。
3)もしも暴れるようなら、最終兵器として呼んだ希美に頑張ってもらう。
こういう作戦で行くことが決まる。
◇ ◇ ◇
司令室がこれほどまでにバタバタしてテクラを探しているのに、空を飛んでいるテクラは違う意味でバタバタしている。
魔法の力で飛んでいるのに、それを制御できずに仰向けに飛んでいる。せめてうつ伏せで飛びたいと思っても姿勢すら整えられなくてバタバタしているのだ。
真夏の太陽の光が容赦なく肌を刺す。皮膚が赤くなって、これはもう日焼け確定である。
でも、そんな彼女に転機が訪れようとしている。このまま飛行していると、その先にある山にぶつかりそうなのだ。
――ふふん。これでやっと地面に降りられそう。
思えば今日は不思議なことが連続だった。交通事故に川でおぼれる(私はあんまり覚えてないけど)、そして空を飛びながら自殺しようと思ったこと。1日に3回も死ぬようなことが起こるなんて。これはあれね、厄日って言うんだわ。テクラ知ってる。てへ、私も日本人が使う言葉で冗談が言えるのよ。ふふん。
彼女はそんな回想を思いだすくらい余裕の表情になっていた。
ただ、まだぶつかる山とは距離があり、飛んでるスピードもそれほどではないので少し時間がかかりそうだった。また魔女のことを考えそうになったが、とりあえずはいろんな事があったので今日はぐっすり寝て、明日考えよう。そう思った。
「……」
「…………」
「………………」
「はっ!」
どうやら少しだけ意識が遠のいていたようだ。安心したために急に睡魔が襲ってきたのだろう。朝から緊張の連続だったから。
ふと見ると、もう山に到着していた。
が、目測が少しだけ違っていたようで、微妙に山の山腹をかすめるように飛んでいるのだった。
「ちょっと、これどういう……」
本来なら山に衝突して地面に降りるはずだったのに、これだと降りられない。
山に生えている木にどうやら手が届きそうなので、力一杯腕を伸ばした。が、あと一歩のところでつかめずにいた。仰向けに飛んでいるので若干枝をつかみにくいというのも災いしたのだろう。何度もチャレンジしているが、どれも届かない。
最後の力を振り絞るくらい腕を伸ばすと、やっと木のいちばんてっぺんをつかむことが出来た。
「よっしゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
テクラ最大の大声を上げてガッツポーズをしようとしたら、
「ブチッ」
「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
……枝が折れてしまった。
「せっかく、せっかくつかんだ栄光だったのに……」
その後、山の標高はどんどん下がり、テクラは山を越えてしまった。また上空でひとりぼっちになってしまった。
「よし、死のう。」
本日、テクラは4回目の死を悟った。
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