Aktion.4 (アクティオンフィーア) B-Seite(ベーサイテ) あかりの日記

奈良県教育委員会生涯学習部教育支援課

 文字通り生涯学習を推進する部署なのだけど、その中に「ウィッチエイド担当」という謎組織がある。そこが私、遠藤あかりの担当部署です。私の仕事は、「ゾーンウィッチエイド(奈良県吉野ゾーン魔法少女救助団)」という組織の運営と、魔法少女の育成と管理という世界で唯一、日本独自のお仕事。特にこのゾーンは、魔法少女の発生が極端に少ないエリアということもあり、魔法少女の発掘が重要な任務となっています。


 どこかに魔法少女になってくれて、問題起こさない人いないかなーって探していたら、私の師匠が、『孫は素晴らしいウィッチの持ち主だー』とか言うの。名前をテクラって言うんだってー。ほうほう、私、興味あります! だから、お願いしてウィッチエイドに入隊させたいって言ったのね。けれど、ドイツ在住のドイツ人なので難しいんじゃないか。とか言うのよ。それなら言わないでほしかったです。


 しかし、聞いたからにはぜひ取りたい。ヒト・モノ・カネのうち、モノとカネは潤沢に揃っている我がゾーンだけれども、本当に魔法少女には巡り会わないから。

 師匠は日本人なんだけど、ドイツで結婚して、長年日本とドイツで暮らしているので、お孫さんがドイツ人なのは理解出来ます。けど、外国人の魔法少女かあ。諸般の事情で、難しいのよね。やっぱり。


 そう思っている時、テクラちゃんの一家が中国へ引っ越すらしいの。しかし、師匠のたぐいまれな「人たらし能力」で、テクラちゃんは日本でおばあちゃんと一緒に暮らしたい。と言っているらしい。ほほほほほほ。ありがたいわー。ぜひ来て欲しいわー。

 っつーわけで、テクラちゃんがはるばる日本にやって来たそうなので、夏休みが始まった8月上旬、早速面会に行きました!


 まず最初はネックレスに触れさせます。これで何となくわかるのよね。魔法少女の素質があるのかどうかが。

 首にかけちゃうと色々問題が起こるので、持たせるだけ。持たせるだけね。

 で、何か変化があればしめたものなのです。

 ネックレスには、眠る魔法少女の力を目覚めさせる力があります。ちょっとお高いです。近所に売ってません。というか国で厳重に管理されてるシロモノです。で、ネックレスに変化があるようなら、それを持たせて3日ほど様子を見ます。兆候が見られるようであれば、じっくりと、時間をかけてウィッチに覚醒さす予定でした。


 はい、テクラちゃんに実行。ネックレスを渡してみた。するとどうだろう。5つの全部の石を光らせやがったんですよ。こんちくしょー。


 普通5つの石が全部光ることはありません。特に緑石。これはかなり特殊な石で「薬師の緑」と言われてるんだけれど、これが光る場合、基本、赤と青は光りません。なのに……光ってますよ。こいつは……どんだけ魔法の力が強いんでしょう。これ、「皇帝の黒」にすら手に届くじゃない?

 もうひとつ、その5つの石の中で、赤だけがかなり光っています。希少な赤石ですよ。

 赤石「眺望の赤」は、私が引退してから紀州・吉野ゾーンには現れなかったのよね。だから絶対に必要な人材。もう決定です。魔法少女に決定。私の「出生の桃」能力が、「彼女を目覚めさせよ」と私の脳に語りかけてきます。相手にとって不足はない。やってやろうじゃないの。

 なので、もう首にかけちゃいましょう。あとは野となれ山となれ!


……

…………

………………

 しかし、これが裏目に出てしまったようです。


 ネックレスを渡した直後、私たちの知らない間に、彼女の能力が開花しちゃったらしいのー。おかしいよ。明らかにおかしいよ。こんなに常識が通用しないのは初めてだよ。

 本来魔法少女の能力確認は1週間ほどかかるんですよ。まず、能力があるのかどうか。それはどのくらいか。どの石の魔法少女にふさわしいか。それを確認するのに1週間。(

早い人は3日くらいで分かります。私も3日でわかったもんねー。ふふん)

 そこから「能力を開花」させるための訓練をするの。で、それはだいたい1~2週間、長い人で1ヶ月くらいかかって「能力を開花」させるのが魔法少女を育てる日数なの。

 くどいようですが、もう一度言います。能力があるのかどうかを「確認」して、その現状を踏まえて、訓練プログラムを私たちが作って、実行して、初めて魔法少女の「能力開花」が実現するの。それをテクラちゃんは、ひとりで、ひとりでたったの30分。30分そこいらで能力開花しちゃったのよ。どういう事なの。


 まあ、世の中には能力開花をしないで最初から魔法少女だったって人もいますよ。確率的に100~300万人にひとりくらいいるそうです。「天然物の魔法少女」が。テクラちゃんもおそらくそのひとりなのかも知れません。あと一歩のところで開花できていなかったところに、私のネックレスが後押ししたんでしょう。そう思うしかやってらんないわ。私たち「養殖物の魔法少女」とは格が違います。


 で、ここからが本題です。


 テクラちゃんは能力開花して、交通事故に遭ったおばあちゃんを助けました。その後、魔力酔いが確認されて川に転落。そこに偶然かずさが通りかかって、救助して、ウィッチ司令部まで連れてきました。これに関しては通常業務の一環なんでどうでもいいです。よくないけど。


 問題は、彼女の意志と、彼女にまつわる境遇。


 まずは、彼女に魔法少女になる意志と、ウィッチエイドに参加する確認ね。

 魔法少女になりたい人は今も昔もたくさんいる。花形の職業みたいなもんだからね。けれど、まず魔法少女になる素質が必要。これはクリアしている。何と言っても「天然物の魔法少女」ですから。

 次に、「覚悟と責任」があるかどうか。言い換えれば「権利と義務」みたいな話で、魔法少女になれば必ずウィッチエイドに入らなきゃダメってことになってる。

 ウィッチエイドという活動は「社会奉仕」という考えに基づいてて、元々は参加自由なんだけど、これも魔法少女は現状強制加入となってるの。また、消防団や水防団のように特別地方公務員の扱いは受けるけど、報酬や福利厚生に関してはお粗末な状況。(詳しくは言わないけど) こりゃ最近の若者なら敬遠するよねー。現に、都市部のウィッチはこの点で辞退する人が多いみたい。厳格な仕事観があるドイツ人のテクラちゃんは、これ、やらないんじゃないかな? モノ・カネは潤沢に下りて来ているから、物で釣る作戦はかなり有効かなあ。


 次に、彼女がドイツ人だという点。「魔女は火あぶり」で育ってきたお国柄だからね。ウィッチに対してかなり抵抗があると予想してる。

 ドイツでは、今では隔離政策は廃止されてはいるものの、魔法使い又は、それに類する人種に対しては、戸籍が作成されて国の監視下に置かれる。場合によっちゃ一部の公民権が停止される場合もあるらしい。また、「器具を使って魔女能力を開花させた」場合は、明らかに法律(というか条約)に違反する。つまり、彼女は日本でウィッチ能力を開花させると、ドイツ人でありながらドイツに帰国できない可能性が出てくるのだ。

 そう、これ、下手すると国際問題に発展しかねない。人権団体に突き上げられると、私たちの公務員という身分すら危うい。

 知ってます? 公務員の正規職員って雇用保険掛けてないんですよ。免職になったら即失業状態なんですよ。


 国際問題で思い出したけれど、『魔法の開花、存在及び権利に関する条約』というものがあって、これも問題。この中で、魔法の開花、及び魔法使いの獲得のために国家間を移動してはならないとあるの。ウィッチになるために彼女が日本にやってきたとなると完全に条約違反です。叔母と一緒に住みたいから日本に来た。という建前はあるので問題はないと思うけれど、7月下旬に来日して、8月の上旬にウィッチ能力開花っていう状況を説明できるのかというと……よくわからない。

 これ、主計監督官庁の文部科学省じゃなくって、外務省案件になるんじゃない? 私、もしかして国会で証人喚問されちゃうのかな???


 テクラちゃんを魔法少女にするって言うのは、こういう諸々の高いハードルがある。でも、それを乗り越えてでも欲しいのよ。魔法少女が出現しにくい紀伊半島ではなおさら。そして念願の「赤石」の魔法少女だし。


 で、テクラちゃんが魔力酔いから解放されたのでお話しすることになる。さあ、ここからが本番だ。

 まず、彼女の意志を確認する。おそらくは拒否するという前提で話を進めます。魔女は火あぶりで育った人に、「魔法少女になったよ~」なんて、口が裂けても言えない。でもって、(建前上)彼女が自発的にウィッチになりたいと言わなければならない。


………………んだけど、ほりえ~~~!!!! バカ~~~!!!!

 あいつの無礼でデリカシーのない言葉のやりとりで、彼女は激高してしまい、話し合いの場からから飛びだしてどこかへ走り去ってしまうという大失態。


 これ、どうすんのよ……

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