研究

時が経って、私には彼氏ができた。28歳の時だった。

学生時代の同級生はもう結婚していたからか、私の中には変な焦りがあった。

友人の紹介で出会った彼は、普通に優しくて、普通にかっこよくて、普通に働いていて、俗にいう優良物件だった。数ヶ月の友人期間を経て、何となく付き合い始めたはいいものの、私は、彼のことをなかなか好きになれずにいた。

こんな彼よりも、特別で不思議な博士のことの方が何倍も大好きだった。

同じ研究室に配属されたものの、ミステリアスで顔立ちの整った博士はたくさんの女性研究員に、また一部の男性研究員に好かれていて、いつも周りに人がいた。

幼少から大人しめで自己主張ができない(と自負している)私は、博士に近付けず、毎日遠くから博士を眺める日々を送っていた。

そんなある日、博士から声をかけられた。

「単独で行っている研究があるんだけどね、五十嵐さん、最近大きいプロジェクトの中心で頑張っていただろう?研究に協力者が必要になってね。よかったら一緒に、どうだい?」

まさに青天の霹靂。当時の私はどのように返事したか、もう覚えていないが、私のことだ、きっと大きく首を縦に振っていたに違いない。

だって、憧れていた、大好きな博士と、二人きりで…。考えただけで鼓動が速くなる。

博士は続けた。

「これはね、私のプライバシーに関わるんだ。プライバシー、わかるかい?個人情報とか、そこら辺の意味だ。だからね、口外されると困ってしまう。」

私は(おそらく)首を縦に振った。

「君はいつも寡黙で、人付き合いも少ない。」

胸がちくりとした。貶されている気がする。

「だから君を選んだんだよ、いつも囲ってくる奴らがいるだろう?ああいうのは駄目だ。いずれ研究所の重要な情報をぺちゃくちゃ喋って首が飛ぶぞ。」

私もそう思う。学生時代からコミュニケーションが苦手だった私は、教室の真ん中であんなふうにうるさく喋る女子が嫌いだった。

「さて…要らない愚痴を吐いてしまったな…。五十嵐くん、私の研究室に来たまえ。ここじゃない、もう一つあるんだ。秘密の研究室がね。」

博士の秘密の研究室!!初めて聞いた。きっと知っているのは私だけなんだろう。

「廊下の突き当たりに本棚があるだろう。あれをどかすんだ。意外と力は要らない。くれぐれも、人通りのない時に開けるんだよ。誰かに見られでもしたら、私直々に首を飛ばしてあげるからね。」

さっきよりもぶんぶんと首を縦に振った。そんな私を見て、博士はにこりと微笑み、待ってるからね、と立ち去った。

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