博士
博士は、花が好きだった。
デスクに花、窓辺に花、棚に花…博士は、上品な人なんだと思った。
ところで、博士博士と呼んでいるが、私は博士の名前を知らなかった。
普通、職員は皆、首から名札を下げたり、机にネームプレートが貼ってあったりするのだが、博士は、「博士」だった。
上司も、同期も誰も博士の名前を知らない。
博士に直接聞いても、口をぱくぱくさせるだけで、教えてくれなかった。
同期たちは、博士が花が好きなことから、花先輩だの、はなちゃん先輩だの好き勝手呼んでいたし、博士もそれを喜んで受け入れていたが、私は恐れ多くて一度も呼べなかった。
それと、博士にはもう一つ謎がある。年齢のことだ。
女性に年齢を聞くのは無礼なのでわざわざ聞いたことはないが、博士は私たちに家庭ができても、子供が成人しても、ずっと美しかった。
まるで、不老不死のような…。
髪は変わらず艶めき、目元には皺一つなく、肌にはずっとハリがある。
同期たちは、そんな博士を怪訝に思っていたが、私は、それでも博士から目が離せなかった。
もっと博士のことが知りたい。
名前だって、年齢だって、誕生日だって知らない。
大好きな人のことなのに、私は何も知らないのだ。もどかしくて仕方がなかった。
しかし、私は、博士に何も聞けぬままだった。
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