毒の花

海原シヅ子

窓辺で博士が笑っている。手には白い花を持っている。

昔から、興味のあること以外は全くの無知で、花なんて趣味じゃない私は、その花の名前をとうとうわからずに老いてしまった。

ただ、博士と、花と、そこに差す光、この完璧な構図がどうにも頭から離れなくて。私は、未だに初恋を捨てきれずにいるのかもしれない。

博士が、もしもまだ存命なら、どこかで穏やかに生きているのなら、伝えたい。あの時伝えそびれた想いを、皺だらけになっても尚、あなたへの執着が消えていないことを、どうか伝えたい。

昔のように動かなくなりつつある指に必死に力をこめて筆をとった。

もしこの稚拙な小説が博士に届いたら、博士はどう思うだろうか。

博士なら、なんて声をかけてくれるだろうか。

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