第十三話
キカラ村に戻った。宿に泊まる。
「なんでこううまく行かないんだろうね」
カラは徒労に終わったことが不満だ。
「あと五日か」
従業員が地図を広げる。
「北がダメなら南の村に立ち寄ってみては?」
別の従業員が地図に指を指す。
「タキ村か」
「ここはあまり収穫ないだろうなあ。薬局もあるし。いたって平和だ。ちなみにねぎとキャベツが名産品だ」
「本当に何もなさそう」
「とはいえ宿代が地味にダメージだ。タキ村に新薬を売り込もう」
「賛成」
◆
タキ村の薬局に寄ってみた。幸い新薬は置かせてもらった。
医者が居ないので実質的には薬剤師が命綱だ。
なにもかもここは時間がゆっくり動く。
地理的な要因もあるのだろうが魔族の影響も受けにくく温暖な気候で食料も多い。
食料は王都に運ぶので食料基地的な役割も持つ。
ある意味で人間の理想郷だ。
街道から外れているためあまり旅人も来ない。
後ろは山脈だ。ゆえに水も豊富だ。
「さ、キカラ村に帰ろう。お金も稼いだし」
キカラ村に戻った。
恐れていたことが起きた。
「勇者じゃね? こんなとこで何やってるの?」
冒険者ギルド所属の冒険者だ。
「ああ……まあ……いろいろ」
「あれ? ツレは? 仲間割れしたの?」
「その……まあ……いろいろ……」
「もしかして吸血鬼討伐、失敗した?」
「……」
「しっかりしてくれよな。人間に化けて村を襲ったりする恐るべき魔族なんだから!」
「あれ? お前聖剣は?」
「その……」
あの聖剣は光魔法や雷魔法を増幅する剣であった。
「お前、負けたのか……」
「……」
「答えろ! 勇者!」
「やめて!」
カラが止めに入った
「何だお前?」
「私は看護師です」
「なんで看護師が勇者と手を組んでいる」
「今勇者は病魔と闘うという冒険を行っています」
「はあ? 吸血鬼討伐は?」
「その吸血族に近い村が病魔に侵されているのでこうして村々を救っています」
カラは毅然と答えた。
「拠点となる村が滅ぼされるとここも滅ぼされますよ」
ソータが釘を刺す。
「……」
勇者は何も言えなかった。
「勇者、悪りい。忘れてくれ。俺が悪かった」
冒険者が去って行く。
――迫真の演技だったな
――でもばれるのも時間の問題だろ
――明日はどこかの洞窟にでも行ってみますか
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