第十二話

 「仕方ない、寄り道するか」


 一行は首都へ向かう道からそれてカーサ村に向かった。晴れ晴れとした天気だ。なんて平和だ。こんな日光浴が出来る日でも吸血鬼はびくともしない。偏見ってだめだね、本当に。


 やがてあたりは一面牧場となった。


 「やっぱ、ここはのどかだねえ」


 ユーリルものんびりモードだ。


 「実は、カーサ村には薬局が無いの」


 へえ、カラそうなのか。でも言われてみれば……。


 「じゃーなんでカーサ村に向かってるんだよ」


 「薬局を作るためよ」


 「だめって言われたら?」


 「それまでね」


 「しかもここは竜族の占領地にけっこう近いの」


 「へえ」


 「勇者、なんで竜族と戦わなかったんだ?」


 従業員のシータが聞く。


 「そんなの討伐命令になかったし、それに……」


 「それに?」


 カラが思わず聞いた。


 「牛を提供すれば人間界を襲わないって言うし」


 ――弱虫勇者


 シータがぼそっと言った。


 「何だと!? 聞こえたぞ!」


 ユーリルは怒った。


 「子供みたいな喧嘩しないの!」


 (カラは俺の母親か何かか?)


 「あ、村に竜族が居る」


 従業員セータが発見する。


 ――やばいな


 「ちなみに竜族と吸血族って親戚よ」


 「えっ?」


 (カラ、そうなの?)


 「だって蝙蝠の翼が一緒じゃない」


 「あ」


 そうなのか。カラ。竜族と吸血族は親戚なんか!


 「もっとも竜族が本性現したら吸血族でもやっかいよ」


 (ということは、竜族の方が強い?)


 「それにしても人間の村で何やってるのかねえ?」


 従業員達は首をかしげる。


 「さあ……?」


 そんなのカラに聞くなよ。


 「やあ、こんにちわ」


 「こんにちは」


 「君たちは?」


 「私たちは製薬会社の者です。この村に薬局設置のご提案に来ました」


 さすがセータ。セールストークうまいねえ。


 「こんな小さな村で薬局ねえ。別に隣村まで馬を走らせばいいことだし」


 まあ、そりゃそうだな。


 「やあ、人間。君たちは薬局をここに作る営業をしにきたのかい?」


 「はい。貴方は?」


 「私はリー・ファン。見ての通り竜族だよ」


 「なぜ竜族が人間界に」


 「ここのヨーグルトがおいしくてね」


 「はあ……」


 ヨーグルトが目当てかい!


 「本当は越境っていけないんだけど偵察のついでにこっそりヨーグルトもらってるの」


 「はあ」


 (それ、立派に領土侵犯って言うんですが)


 「おっと、人間を襲う気はないぜ。だって、人間襲ったら吸血族と戦争になるし」


 (……!)


 「まあ、人間……残念だったな。ここは病気の予防にけっこう専念してるみたいだぜ。薬局設置は諦めな」


 「そうですか」


 「じゃ、俺は偵察に戻るぜ。じゃあな」


 「無駄足でしたね」


 「私たちも戻りましょう」



 「奴らは帰ったようだな」


 竜族の若者は村長の家に入った。


 「村長、これが竜族の薬だぜ」


 「ありがたや。副作用も少ない」


 「漢方だからな」


 袋詰めされてる薬を見て村長はうきうきだ。


 「竜族の占領地にいる人間からここまで薬を届けさせよう。これで薬局設置も出来る」

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