第十話

 街道を走って行く人が居る。


 薬屋のご主人だ。服装で分かる。


 ――あ、ローターさんだ


 営業マンのスダの小声が聞こえた


 「あ、サングイス製薬のみなさん!」


 「どうした、そんなに血相変えて」


 従業員が聞く。


 「実はサマンサ村で……」


 「村で?」


 「原因不明の奇病が蔓延しています」


 「ええ……」


 カラは嫌そうな返事をした。


 「あっという間に薬が無くなったもんですから、隣村まで行って補充しようと思いまして」


 「どんな薬がなくなったんですか?」


 「呼吸器関連です」


 「咳をするんですね」


 カラが聞く。


 「はい、熱も。下痢もです」


 「検査ですな」


 従業員が即答した。


 「サマンサ村までご一緒願いますか」


 カラは一応聞いた。


 「はい」



 村は酷いことになっていた。製薬の営業マンというよりこれはもう薬師団の様相になって来た。


 「少し痛いけど鼻に棒入れるからね~」


 カラはラベルを貼って名前を書く。


 「あ~んして~、口開けて~」


 カラは小さな光る棒で患者の口の中を見る。


 こうして村人全員を診た。ユーリルはただ黙って見てるだけだ。もっとも村に魔獣が襲ってこないかという重要な見張りを任されたのだが「薬師団」の腕に圧倒された。


 「これ、治った頃に血液採りますからね」


 「さ、主治医連れて来る必要あるかな」

 

 スダが主治医を作れてくる判断を下した。


 「一応看護師って勝手に診断下してはいけないから。みんなキカラ村に戻って」


 ――スダ


 ――はい


 ――元の姿に戻って母国に戻ってこの検体を全部検査して頂戴。元の姿になれば母国まであっというまでしょ。念のために言うけど人間に見られないように村の郊外で元の姿に戻ってね


 ――了解です


 このひそひそ話が後ろめたさを物語っている。


 「「みなさん帰るんですかい!」」


 村人たちは悲痛な声を上げた。


 「私たちは必ず戻ります。病原菌を確認したら、お薬渡しますから!」


 「必ず、必ず来てください」


 薬屋のご主人が懇願する。

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