第四話

 王城の隣に製薬工場はあった。


 「二人様ようこそ。それでは案内をさせていただきます。工場長のザザルです」


 工場に入る。スリッパなるものを履き白衣の服を着る。靴は下駄箱にしまった。


 「ここが血液製剤工場です」


 見学コースを歩く。ガラス越しで人間の血が分離機でいろんなものに分けられていくのが分かる。


 吸血鬼となったユーリルは軽い空腹感を感じた。


 (これが吸血族の真の実力。この建物は単なる蔵にしか見えなかった)


「次は輸血工場です。人間用と動物用と吸血族用の三つあります」


 血がどんどん輸血パックに収められていく。


 「豚などは豚由来ゼラチンでカプセルも作ります」


 ユーリルはカプセルとは何かと聞くと粉薬にしなくても飲めるものらしい。胃に入ると溶けるという。すごい。


 「ここは血液検査ラボです。ここで中性脂肪、脂肪肝、尿酸、糖尿などを調べて行きます。人間用と吸血族用の二種族ちゃんと分けて出来ます」


 様々な器具を駆使しながら検査していく。ユーリルの頭では理解しがたい機器で検査している。


 「最後に、ここが重要なのですが血液に関係ない製薬ラインです。総合感冒薬など基本的な薬のラインになります。このため、製薬工場の隣には巨大な薬草園も完備しています。ラット、兎、猿と来て最後に人間に臨床実験していきます。本当に薬が利いてるのかということも含めて血液検査は重要なのです」


 (ということは……貧民街で見たことがあるあの光景は臨床実験!! 数々の町はもう吸血族が暗躍していたということになる。だからお薬がタダだったのだ)


 「王立製薬工場および王立製薬研究所では約五〇人働いております。城下町住民の大半は製薬工場か研究所勤務か教育関係者か学生です。このため国民の大半は薬学部や看護学部や医学部など高等教育まで進学します」


 (ん? だからこの城下町は学校だらけなのか!)


 最後に応接室に戻った。


「何か質問はございませんか?」


 圧倒的な工場を前に何を言っていいのか分からなかったが一つだけ質問があった。


 「あの、吸血鬼って牛や豚の血でも代用できるんですよね」


 「そうです。効き目三分の一になりますが」


 「だったら牛や豚の血を三倍飲めば人間の血を飲まなくていいんですよね?」


 「ユーリルさん……。あなたは人間から吸血鬼になったばかりだから抵抗あるのかもしれませんが……」


 工場長は真剣に向き合った。


 「もし、そういうことが出来たら我々は人間を襲うなんてリスクは冒しません」


 「あっ!」


 「実は牛や豚の血などには含まれない人間特有の物質を取り込まいと吸血族はいずれ発狂します」


 「えっ?」


 「だから肉体的には牛や豚だけでいいのかもしれませんが、精神的にまあもっと正確な事を言うと脳内物質を安定させるために人間の血が必要なんです。まあ最低一カ月に一回、コップ一杯程度の人間の血を服用しないとダメです」


 「ほかにはございませんか?」


 「ありません」


 「それではこちらを……」


 「こちらはお土産品です。動物用の血と人間の血です。見学ご苦労様でした」


 人間用の血はコップ一杯分程度の容器だった。


 下駄箱にあった自分の靴を履き替え白衣を返却する。カラも続いて靴に履き替え白衣を返却する。改めてこの建物を見ると蔵にしか見えない。


 「驚いた? これが吸血族の心臓部よ」


 「うん……」


 (驚いたなんてもんじゃねえ)

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