第二話

 リハビリして体も良くなり、いよいよ吸血族のブルート国王ゼーマに会いに行く。吸血鬼ってなんてすごい回復力なのだろう。自分は明らかに人間ではないという事を実感した。


 衛兵に挨拶し謁見室に入る。そう、あの最終決戦の場に。


 玉座に座るゼーマは翼を出していなかった。


 この謁見室で戦って敗れた相手にひざまずく。なんて皮肉なんだろう。まだ血の染みがカーペットにそこらじゅうに残っている。壮絶な戦いだったことが良くわかるというものだ。


「会いたかったぞユーリル。……にしても……うまかったぞ」


 ゆっくりと三日月の笑みを浮かべる魔王。


 「……」


 「新しい四天王だ。君達は四天王全員を殺すほどの有能な勇者だった。おかげで新たな任命式をせねばならなかった」


 そう、僕たちは四天王全員を倒して王の決戦の場まで行ったのだ。


 「まあ、楽にして聞いてほしい」


 勇者は言われる通り立つ。


 「我々吸血族は別に人間を滅ぼそうとかましてすべての人間を吸血鬼にしようとは思っていない。そんな事しても自殺行為だしな」


 「えっ?」


 「要は血液が確保されればよいのだ」


 (!?)


 「牛や馬や豚でも飢えを凌ぐことは出来るが効果は三分の一だ。やはり人間の血でないと我々は飢えるのだ。そして我々はいろいろ試したのだ。すると人間の血から薬が作れることが分かった。それだけでなく瀕死の人間を輸血すれば人間を助けられることも分かった。血液型さえ合えばな。それどころか血液を調べることで人間の病気を探ることが出来ることまで分かった」


 「何が言いたい」


 「要は共存だよ。共存できるようにしたい。なんせ君たちが使ってる血液凝固剤は人間の血液から出来たものだ」


 「えっ?」


 「我が国の製薬工場で作られている代物だよ。こっそり売らせてもらってる」


 ゼーマ王の三日月の笑みが深くなる。それは自分達が良く使っている回復アイテムだった。


 「つまり人間も所詮吸血鬼のようなもの」


 「そんな……」


 「ユーリルよ、我々の医薬品と交換で献血システムを作ることに協力してほしい。というか、そうでもしないと君も飢えて動けなくなる。協力してほしい。というかユーリルよ! 吸血族の勇者としてこれからは戦ってほしい!」


 笑みが消えた。


 「嫌か?」


 「……ですが私はもう勇者として世に知れ渡っています」


 「そこだよ。君は表向き人間として活動してほしい。もっとも人間の街で血液は補充できるようにしよう」


 (血液を……補充……)


「それからユーリル、ぐっと拳に力を入れて見ろ」


 言われるまま拳に力を入れて見た。すると己の背中からばさっと黒い物が降りた。蝙蝠の翼だ。己の牙も二本伸びる。眼は赤くなった。


 「立派な姿だ、ユーリル」


 じっとみる吸血の王。


 「ちゃんと吸血族の衣服は背中の一部が開いているんだ。いつでも翼が出せるようにね。これで空も飛べる。人間にばれないようにマントで隠すがね」


 (だから服に穴が……だからマントを着てるのか)


 「ユーリル、もう一回ぐっと拳に力を入れて見ろ」


 言われるままもう一回拳に力を入れて見た。すると己の翼が体の中に収納された。牙も縮小して元の歯に戻った。


 「この己の姿を見ても、まだ我々と戦うか?」


 「いいえ、王よぜひ協力したいと思います」


 「分かってくれてうれしいよ」


 「ユーリルに居室と食事を用意するのじゃ。それと仲間じゃ」


 看護師のカラだった。


 「今日から共に冒険をする仲間だ」


 「よろしくお願いします」


 謁見えっけんが終わるとカラに先導された。

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