第一話

 勇者は目覚めた。あれは夢?


 どっかのベッドの上だ……。


 「お目覚めになりました? ユーリル様」


 「ここは……」


 「ここは吸血族の城クローフィ城です」


 「俺は死んだはずでは……」


 「実は吸血族の牙には毒と同調する成分が含まれています。五分の一の確率で人間を吸血鬼にすることが出来ます」


 「ということは、俺は……」


 「そうです。もう人間じゃありません……」


 「うっ」


 激痛が走る。


 「まだだめです。じっとしていてください」


 腕には針が刺さっている。袋から何やら液体が体に流れているようだ。


 「これは?」


 「お薬よ。もう三日三晩眠ってたからやっぱだめかと思ったんです」


 「君は一体……」


 「私は看護師のカラ。よろしくお願いします」


 ナースキャップには赤い牙の刺繍ししゅうが刻まれていた。


 「これから服薬治療もしていきます。主治医の指示は守ってくださいね」


 どっからどうみても人間だ。


 「君も吸血族?」


 「ええ。そうよ。でも吸血族って普段は人間と同じ姿になるわ」


 そういえば。吸血鬼に見えない。


 「ユーリル。きみはもう吸血族なの。変な気を起こさないでまずは治療に専念してね」


 そっと鏡を見せてもらうと二本の牙が……伸びていない。普段の自分の姿だ。実感がわかない。


 「食べるときは私がスプーンであなたの口に入れますから」


 「ありがとう……」


 思い出した。大切な存在を。


 「戦友は?」


 「丁寧に葬られたわ。ただ人間の血液は貴重なの。血液だけは抜かせてもらったわ」


 なにげに恐ろしい言葉が飛び出す。そしてあの出来事はやっぱり夢じゃないと。


 「吸血族の墓の横で眠ってるから後で墓参りしましょうね」


 (墓、か。俺は敗北したのか)

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